トランプ米大統領は関税をもちいてアメリカの経済を守ると述べている。海外からの輸入品に市場が席巻されている途上国ならともかく、アメリカが関税をかけても、まず直接払うのはアメリカの輸入業者、さらに物価が上がって売上が落ちるのがアメリカの流通業、そして景気減速と物価高に挟み撃ちにあうことになるのもアメリカの消費者だろう。英経済紙フィナンシャルタイムズがトランプの関税政策の誤りを、分かりやすい文章にして掲載してくれた。ざっと目を通していただきたい。

経済という荒野で吠えても、勝てると思っているのはトランプだけ
フィナンシャル紙3月6日付の「聞くのが怖い、トランプの関税政策の本当の話10」は、トランプが描いている関税によるアメリカ経済防衛策が、実はまったく逆の効果しか生まないことを10のトピックにまとめてくれている。戦争をやめたい小国のリーダーを子分と一緒にいじるのとはちがって、経済は回り回って自分にも戻ってくるという性格がある。トランプは「多少の混乱はあっても、大したことはない」といっているが、それからして間違っているのだ。
第一に、トランプの発言とは異なり、「今回の関税は規模が大きい」ことが問題なのだ。これまでのアメリカの関税は平均して2.4%だった。ところが、こんどのトランプ関税を実行すれば12%にもなる。これは第二次世界大戦以来なかった高関税ということになる。

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第二に、「関税は輸入業者が払う」ということを忘れないようにすべきだ。しばしば、輸出業者が払うと思い込んでいる人がいるが、これは間違い。まさかトランプはこの手の間違いをしているわけではないだろうが、たとえ関税が国庫に入ってきても、アメリカの輸入業者が苦しくなることは間違いない。
第三に、「関税は輸入業者が払っても、影響はもっと広範囲に及んでしまう」。冒頭の段落で述べたように、流通業者は扱う輸入品の価格が高くなるので売れなくなるだろう。また、それが必需品ならば消費者の支出が多くなってしまう。けっきょく、経済全体でみるとほとんど縮小をもたらすしかない。

第四に、「関税で財政赤字を大幅に減らすことはできない」。アメリカの財政赤字は1兆8650億ドルにのぼる。それに対してトランプ関税を実施しても財務相の増収は1420億ドルと予想されている。これでは赤字の10分の1弱に満たない。そのいっぽう、経済に打撃を与えてしまうと税収も減るから、とても見合う話ではないのだ。
第五に、「関税を上げると消費者物価が上がる」。モノの輸入はアメリカのGDPの10%を占めるから、たとえば10%の関税をかけると1%の消費者物価の上昇が起こると予想できる。厳密にはもっと複雑なプロセスが介在するが、ボストン連銀の精密な計算をみても、ほぼこの数値は正しい。
第六に、「単なるモノの価格上昇とインフレとは異なる」。これは冗談をいっているのではなくて、企業や家計が物価上昇を経験すると、価格と賃金の継続的な上昇に対する対策をとるようになり、その結果として生じるのがインフレだと、この記事の筆者は厳密に述べている。つまり、前もって物価上昇に備えてしまうので、経済活動にその上昇分を織り込んでしまい、結果として「継続的な物価上昇」と定義される「インフレ」を招くわけだ。アメリカはまさにインフレの危機に直面している。

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第七に、「実はアメリカ経済はいまでも非常に閉鎖的である」。たとえば、対GDPでみた財輸出入総額の割合(輸入と輸出を合わせた)は19%だが、カナダは53%にのぼる。トランプは輸入がアメリカを傷つけているといっているが、アメリカ経済はかなり閉鎖的で、これまでも他の先進国に比べて貿易は少ないのだ。もちろん、そのこと自体が悪いわけではないが、そのアメリカがさらに貿易をうんと減らすわけだからマイナスの影響は大きい。ちなみに日本の財輸出入総額の対GDP比は32%である。
第八に、「関税はアメリカ経済の供給能力に影響をあたえ、金利を動かしてしまう」。関税を上げると供給能力が低下して、その結果、金利は上がってしまう。いっぽう、トランプの経済政策が不安定であるため、米国内の投資意欲が低下すると、金利は下がってしまう。いまのところ、投資家たちは金利が下がることを懸念しているが、トランプが大統領に当選して以来、ずっと金利予測は上昇し続けている。
第九に、「関税を上げても貿易赤字が減るとはかぎらない」。根本的には、アメリカが生産量を上回る消費を続けているので貿易赤字が生じている。貿易赤字を減らすには、深刻な不況を引き起こし、消費を下落させて輸入需要を減らすしかない。しばしば、貿易黒字が経済良好、貿易赤字が経済不良と判断する人がいるが、そうではない。アメリカは海外に投資していてリターンを得ているため所得収支の黒字があるので、貿易赤字分をかなり埋め合わせ、経常収支はそれほど深刻ではない。

第十に、「関税は人気がない」。貿易制度を軽蔑して国内の物価を上げても、また、輸入品の購入を妨害しても、世論に受け入れられることは少ない。たとえば、トランプの関税政策と同じ結果をもたらしている英国のブレグジットは、国民投票をして決めたはずなのに、いまや国民の圧倒的多数が後悔している。それなのにトランプが関税政策で人気を高めようとしている気持ちがわからない。
さて、フィナンシャル紙から離れて付け加えるが、TPPの論争のさいに、アメリカをとことん支持して関税撤廃を主張した日本のTPP支持派は、いまどのような気持ちでトランプ関税を見ているのだろうか。トランプは第一期目にも日米貿易協定において、日本からの自動車部品の関税撤廃を拒否したから、それはそれで一貫しているわけだが、では、関税というのはどんな場合でも悪いのだろうか。そうではない。
たとえば、途上国が国内の有望な産業を成長させるために、関税を用いるのは正当な行為である。また、海外からのダンピング攻勢に対して関税で国内産業を守るのも正しい。さらに、たとえ先進国であっても、いくつかの譲れない製品や分野において、関税をかけるのは許されるだろう。しかし、今回のトランプ関税については、これまでにすでに自由貿易が確立している分野で関税を上げたり創設したりして、安易に国内での自分の人気を高めようとしている。これはほとんど空しい行為であり、アメリカ経済へのプラスの効果はほとんどなく、失敗が約束されているといってよい。