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東谷暁による「事件」に対する解釈論

トランプの「キングピン協調体制」はうまくいかない;スティーヴン・ウォルト教授が米外交の「隘路」を分析する

トランプ大統領の政策がボロを出し始めている。経済政策においては、寛容さを示しているふりをしていても、関税戦略の対象を絞り開始期日を先延べしていることから、すでに失敗したことが歴然としている。いっぽう外交のほうはどうだろうか。大統領執務室に窮地に陥った小国の大統領を呼びつけて、子分といっしょにイジってみたものの、何か成果らしいものは生まれていない。政治は手間がかかるので他の戦略も結果がでるには時間がかかるが、ハーバード大学のスティーヴン・ウォルト教授は、すでに失敗していると指摘している。


米外交誌フォーリン・ポリシー3月3日付に投稿されたウォルトの「トランプの『キングピン協調体制』は成功しない」は、4つの理由をあげて、トランプが展開しているキングピンともいうべき独裁者たちの協調体制はうまくいかないと論じている。原文は「キングピンたちのコンサート」と書いているのだが、キングピンとはマーベル・コミックに登場する犯罪王のことだ。「コンサート・オブ・ヨーロッパ」は歴史上、ナポレオン戦争後のヨーロッパ協調ウィーン体制を意味するので、ここでは「キングピン協調体制」と訳しておく。

マーベル・コミックの「キングピン」


ウォルトに言わせると、トランプが自分の仲間だと思っている世界のリーダーは、プーチン習近平金正恩ムハンマド・ビン・サルマン、ネタニヤフなど独裁的ボスという共通性がある。いっぽう、嫌っているリーダーを見ると、ジャスティン・トルドーアンゲラ・メルケル、クラウディア・シャインバウム、ボリス・ジョンソンを除く英国首相などであって、さまざまな条件を切り抜ける民主国家の政治家たちだ。実は、いまトランプが追求しているのは、前者のタイプ「キングピン」たちと協調して、国際政治を強引に展開することだというのである。もちろん、そんなものがうまくいくわけはない。

かなり疲れてきたようにも見えるが……


うまくいかない第1の理由は「キングピン協調体制では、勝手放題の独裁者たちが、それでも互いに信頼し合う必要があるわけだが、何かを決めてもそれが守られないリスクが高いので、信頼を維持すること自体が難しい」ということだ。こうした約束事が守られなかった例は枚挙にいとまないが、中国が2000億ドル相当の米国製品を購入するという約束は反故にされ、少しは核開発の速度を落とすかと思われた北朝鮮は、逆に加速した例を思い出すだけでも、キングピン協調体制は矛盾に満ちた言葉であることが分かる。

第2の理由は「トランプのディール(取引)による外交という方法は、本質的に非効率であり、また、取引で決まったことが遂行されるのを保証するものが、国際政治においてはないため機能しないと思われる」。国際政治とは「中央権力のない世界」だといわれるが、たとえそうであっても、国家間においての規則と制度は必要で、現実にそれらがかろうじて機能していることは、いまの国際社会から見て取れる。たとえば、国際間でいちおう確立されたルールがあれば、そのルールを守るか破るかを観察することによって、その国家の信頼性を推測できる。しかし、キングピン国家の場合にはいちじるしく不確定なのである。


第3の理由は「これまでの歴史をみても、独裁者は絶対的な天才としてプロパガンダされるが、実際には抑制されない権力者こそ、とてつもない過ちを犯してしまうことが多い」のである。スターリン毛沢東を政治の天才で哲学者だと称賛する人がいるが、実際には、けた外れの数の同胞を死に追いやった独裁者である。ヒトラーにいたっては演説や戦略の天才などという評論家がまだいたが、素直に事実関係を検討すれば、そこにあるのは失策と誇大妄想だけなのだ。もちろん、民主国家の指導者も過ちを犯すが、報道の自由や指導者の交代が制度化されているため、独裁国家の場合よりも失策や妄想は比較的少なくてすむ。

第4の理由は「トランプがこれまで縁の薄かった独裁国家に接近し、長年にわたって同盟・友好関係にある民主国家に対して冷遇する」という奇妙な戦略に夢中になっていることだという。トランプのやり方が問題なのは、ウクライナ戦争を停戦に持ち込むためにロシアと交渉を始めたことではなく(それはハリスが大統領になっていても試みだだろう)、そのいっぽうで同盟国に対して経済や政治において冷遇するという戦略をとっていることなのだとウォルトはいう。「キッシンジャーは1970年代に中国に手を差し伸べて現実主義的な外交を展開したが、そのさいにNATOを放棄したりカナダやメキシコに無意味な関税をかけたりはしなかった」。


この論文でウォルトが特に指摘したいと思われるのは、比較にならないものを比較してバランスがとれていると錯覚してしまっている、トランプの自己満足的な振る舞いである。アメリカにはヨーロッパともっと戦略上の分業を行う必要はあったが、ヨーロッパを敵視してロシアと親密になるべき必然性はどこにもない。「約4億5000万人でGDP合計が20兆ドルの(ヨーロッパとの)友情を、人口1億4000万人強でGDPがわずか2兆ドルの(ロシアとの)不確かな関係と交換する」ことは、あまりにも馬鹿げた行為だろう。

「この不思議なアプローチは、トランプの中心的な目的が、世界中の民主主義を弱体化させ、米国内で自分の権力を強化することであるならば、意味があるかもしれないが、アメリカをより安全で、より人気があって、より豊かにすることはできないだろう」