国際政治においても世界経済においても、トランプ大統領がこれほどまでに既存のルールを破り、新たな災厄を生み出すと予想した人は、極めて少ないだろう。結果を見てから「俺はこんなことは予想していた」という人間はありふれているが、真摯に「予想できなかった」と述べている、ハーバード大学のスティーヴン・ウォルト教授の大きな4つの予想違いの告白は、私たちにとっても読んでおく価値が高いだろう。(フォーリン・ポリシー3月10日付「トランプの二期目について誤解していたこと」より)

第一に、「トランプがNATO諸国はアメリカの保護に依存しすぎだと考えていることは分かっていても、彼が意味のある政治機関といえるヨーロッパ連合(EU)を破壊する行動を起こすとは思っていなかった」。ウォルトは、トランプがハンガリーのヴィクトル・オルバーン首相のような非自由主義的指導者と親和性があることは分かっていたが、こうした勢力が、トランプに見られるように強大になりつつあることを「十分に真剣に受け止めていなかった」という。
第二に、「トランプがウクライナ戦争をやめさせようとし、ウクライナへのアメリカの援助を削減するだろうとは思ったが、彼がこれほどまでにロシアのプーチン大統領の立場を受け入れ、ウクライナのゼレンスキー大統領を公然と批判するとは考えなかった」。トランプに何らかの戦略的根拠があるとすれば、ウクライナ戦争をやめさせ、ロシアと中国との間に亀裂を生じさせようとしているのかもしれないが、そのためにプーチンが望むものをすべて与えたとしても、それらが達成されるわけではないのだ。

第三に、「トランプが関税を他国への威嚇のために使うことは予想できたが、その結果として貿易戦争を始めてしまってアメリカ経済に大きな打撃を与え、トランプ自身の政治プログラムすらも危機に陥れるまでになるとは予想できなかった」。つまり、トランプも少しは経済学的な認識力があるだろうと思ったために、これほどまでの極端な経済法則に反する政策を敢えて継続するなどとは思いつかなかったというのである。
第四に、「トランプがルールや規範に対して軽蔑の感情をもっていることは、大統領選に出る前から知っていたが、第二次世界大戦後の秩序のもっとも堅固に確立されたと思われる原則すらも軽視する姿勢には本当に驚いてしまった」。たとえば、グリーンランドを武力で奪取すると威嚇し、パナマ運河を再占領してやると息巻き、カナダを併合すると怒鳴り、ガザ地区のパレスチナ人たちを民族浄化することを是認するなどとは、残念ながら推測できるわけがないのである。

「私はトランプの国内政策がいかに過激で自己破壊的なものになるか、そして議会や多くの企業リーダーがそれにほとんど喜んで屈服するかを、ほとんどまったく予想できなかった。ことにイーロン・マスクがトランプ2.0で果たすであろう、類をみない破壊的役割についても過小評価していたのである」
タイトルを見た時、これは軽妙なエッセイであって、トランプとその周辺をからかうのだろうと思った。ところが、ウォルトが実際に書いた全文を読んでみると、かなりシリアスな調子のものだった。もちろん、いまの時点でトランプの狂った怪獣のような破壊力を見れば、諧謔や皮肉など使う意欲を失うかもしれない。
しかし、ウォルトが生真面目に書いてくれたおかげで、わたしたちは「自分は本当に予想できただろうか」という自己チェックに、このエッセイを使えるだろう。そして、私の場合は4つとも正しく予想できなかっただけでなく、もっと不真面目にいま進行している世界秩序崩壊の事態を見てしまっていたことに気がついた。