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東谷暁による「事件」に対する解釈論

ゼレンスキー大統領への支持率が急上昇!;その誇らしいデータと厳しい現実との乖離も直視すべきだ

荒っぽい外交と非合理的な関税戦略によって、アメリカのトランプ大統領は世界と国内の支持を失いつつある。ロシアのプーチン大統領は、ウクライナに侵攻されたクルスク奪還を試みていることもあってか、国内の支持は失ってはいない。では、ウクライナのゼレンスキー大統領はどうだろうか。アメリカの大統領執務室で憤激してしまい、トランプとの交渉が破綻したので、一時は国内での支持も危ういといわれていた。ところが、世論調査を行ってみたところまったく逆で、いまやゼレンスキーへの国内の評価は急上昇しているのである。


世論調査を試みたのはイプソスという調査会社。英経済誌ジ・エコノミストの依頼によってウクライナ国民を対象に1000人から電話でかなり細かい聞き取りを行った。その結果分かったことは、トランプとの口論の後、ゼレンスキーは圧倒的な支持を集めているという事実なのである。ウクライナ国民の7割以上がゼレンスキーの仕事ぶりを支持すると答え、8割が正当な大統領だと認め、7割以上がゼレンスキーの交渉に期待を寄せている。


世論調査は、ホワイトハウスの執務室での口論の翌週に行われている。この間、アメリカはウクライナへの軍事支援を引き揚げ、さらに情報提供もやめているので、そのことも考慮しなくてはならない。しかし、そうであってもウクライナ国民の結束は固いと思われる。「圧倒的多数の74%がアメリカの援助がなくても戦い続行を支持し、大多数の59%がウクライナは勝てると思っており、勝てないという21%を圧倒しているのである。


サウジアラビアで行われたアメリカとウクライナの会談では、ウクライナが和平のためにどのような譲歩ができるかが問題となった。しかし、この世論調査のデータによれば、ウクライナ国民は多くの譲歩には反対している。NATO加盟への意志を放棄することについても、賛成38%、反対37%で、一見放棄を認めているようにも読めるが、1%は誤差の範囲といえるので決定的なものではない。

また、2022年のロシアによる全面侵攻以降のロシアの占領地を、ウクライナが放棄するという案については、反対するウクライナ国民はわずか6%だが、2014年にロシアが奪取したクリミアとウクライナ東部の一部は、是認が11%で反対が27%。ウクライナ軍の縮小については80%が反対。さらに、若い兵士の徴兵にたいしては、70%が反対し17%が是認しているのは、戦争の継続の意志と矛盾しているように思われるが、これが調査の結果である。


ジ・エコノミストは今回の調査の意図を、トランプ政権のMAGA派が「ゼレンスキーは選挙をやらない独裁者」と批判し、トランプが「ゼレンスキーはそこそこ成功したコメディアンにすぎず、非常に低い支持率の独裁者」と罵り、支持率はわずか4%だとまで断言したことについての検証だったと明言している。同誌は「その結果のデータは、こうした主張がまったく間違っていることを示している。驚くべきことは、その間違いのあまりにも大きな程度である」と述べているが、いまやトランプの発言に信頼性を感じる人は、少なくともアメリカを除く世界でみれば激減している。

ウクライナ国民の72%がいまの大統領を支持しているのに対して、トランプへのアメリカ国民の支持は46%(まだこんなにある)。戦争に動員されている間に選挙を行うことは兵站上も法律上も不可能だというゼレンスキーの見解に対して、ウクライナ国民は同意して、62%は戦争が正式に終わるまで選挙はやるべきでないと表明している。できるだけ早く選挙をやるべきというホワイトハウスの主張に同意したのは14%にすぎなかった」

ジ・エコノミストより


同誌は「これは特定の時期の世論のスナップショットであって、いまはゼレンスキーに対する愛国的な支持が高まっているが、彼の地位が完全に安泰であることを意味していない」とことわるだけでなく「ゼレンスキーはウクライナの政治的エリートのなかで孤立した人物であり、アメリカとロシア、そして前線での現実から強い圧力を受けている」と付け加えている。さらには、「多くのウクライナ国民の43%は、戦争になってからのほうが汚職が多くなったことを認めている」とも述べている。

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そして、何よりアメリカやロシアの意向といった世界的な環境や、ウクライナの細微な国力を勘案して現実を直視すれば、かならずしもこの世論調査が示している期待や願望が実現するとはいえないし、むしろ、戦争自体はかなり難しいところに来ていることは明らかだ。同誌はいまのホワイトハウスのならず者たちへの反論には成功しているが、ウクライナの国民に希望を提供しているわけではない。それは最後の締めくくりが「ウクライナ大統領は難しい選択に直面することになる。譲歩して支持率が下がるのを見るか、それとも、戦い続けてアメリカ人の怒りをかうか」をみても、そのことが分かるだろう。