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東谷暁による「事件」に対する解釈論

トランプ政権はなぜ株価下落でも平気なのか;株式保有構造とトランプ銘柄の動きから考える

 トランプ政権の不思議さは、これほどデタラメな経済政策を行って、すでにマイナスの結果が明らかになっているのに、それほど動揺しているようには見えないことだ。アメリカ経済なんかどうなってもいいと思っているなら分かるが、これほど急速に株価が下落していれば、実は、トランプ支持者も危機感を募らせているはずなのだ。いったいアメリカの市場では何が起こっているのだろうか。


「トランプのチームは火遊びをしている。株式市場が急騰し、テクノロジーが投資をかつてないほど容易にするにつれて、アメリカ人は株式に殺到した。昨年末、家計と非営利団体は上場株を38兆ドル保有していた。保有資産の価値は爆発的に増加し、過去6年で128%上昇した。合計するとこうした保有資産は、現在、アメリカの可処分所得の1.7倍に達し(下図参照)、これは歴史的に見て平均の2倍以上であり、1947年以来の記録で最高レベルにある。しかし、いまの株式低迷が続けば、政治と経済に多大な影響が出るだろう」

資産がバブル的に膨らんだ。いま急激な縮小は危険だ

 

経済誌ジ・エコノミスト3月22日付の「トランプ政権は危険な株ゲームを行っている」はこのように述べている。トランプ大統領は自ら株価を煽って、大統領に当選してから急騰したが、それは長く続かずすでに下落傾向にある。S&P500で見れば今年2月にピークに達してからすでに8%も下落してしまった。これは4.5兆ドルが失われたことを意味し、株価上昇によって資産額が急上昇したアメリカ人が、こんどは急激な資産の喪失を味わうことになる。同誌は最大の危険は株価の下落によって、「マイナスの資産効果」が生まれ、下降スパイラルがとまらなくなると警告している。

なぜ、トランプ政権はあまりショックを受けていないのだろう。単に鈍感なだけなのか。あるいは「引いたら負け」でのし上ってきた連中だから、ここでも平静を装っているのだろうか。同誌は、ひとつ考えられるのは、株式の所有が民主党支持の金持ちに偏っているためではないかと推測している。年収5万ドル未満のアメリカ人は、現在、民主党よりも共和党支持者になる傾向が強い。いっぽう、高学歴で専門的能力をもつ有権者は、近年、民主党支持に偏っている。

消費者期待は共和党支持者と民主党支持者でまったく違う


ということは、アメリカの株式市場の富が高所得者層に偏っているのは当然として、いまは民主党支持者のほうが、株式下落でショックを受ける度合いが高いことになる。これはトランプ政権が、株式下落が起きていてものんびりとしていられる理由のひとつではないかというわけだ。ちなみに、アメリカでは投資信託の約87%は、所得上位20%の層が保有しているが、不動産はわずか57%である。10~20年前なら、株式市場の急落は共和党にとって最も痛手だったが、今日では最も打撃を受けているのは民主党のほうなのだ。

ところが、同誌はこう述べていながら、やや異なる印象を与える記事も、同日付に掲載している。「トランプ支持の株式でも下落では被害を被っている」という記事で、ちょっと面白い分析をしているので紹介しておこう。トランプが大統領に当選した直後に上昇した株式を「トランプ勝者株」と名づけ、上昇しなかった株式を「トランプ敗者株」と呼ぶ。そして、両者がどのような株価変化をその後たどったかをみているのである(下図参照)。

トランプ銘柄も非トランプ銘柄も、いまやいっしょに下落


トランプ勝者株はいったん上昇した価格を維持したがこのところ急落して大きな落差を生み出している。トランプ敗者株のほうはその後も横這いだったが、このところの急落には引っ張られて、いまやトランプ勝者株と同じレベルまで下落している。当り前のような気もするが、株式を通じてトランプを支持した投資家は、いったん喜びも大きかったが、その分だけ失望も大きかった。株式を通じてトランプを支持しなかった投資家は、よろこびもなかったが、落胆の度合いも少なくてすんだということになる。先ほどの政治的な分析とは異なるようにも見えるが、株式の選択においては美人投票的であり、自分の好みではなく「これから伸びそうな株を選ぶ」ことになるので、こうした事態もそれほどおかしくはない。


では、これからどうなるのかといえば、前出の記事が憂慮しているように、やがて「マイナスの資産効果」があらわれてきて、家計の支出が低迷することが考えられる。また、機関投資家も大胆な投資は控えるようになるだろう。その下落の速度によっては、トランプ政権の対策を超えて下降スパイラルを生み出すことになる。このときの負債の所在位置によってもショックの度合いが異なるだろう。トランプ政権としてはいま、すぐにでも対策をとっておくべきなのだが、いつものようにいったんその兆候が見えたときには、すでに時機を失っていることが多いのが、株式市場というものなのである。