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東谷暁による「事件」に対する解釈論

AIに取られる仕事と取られない仕事;乱雑で繰り返しでない職業を選べ!

AIが普及していくと、人間の仕事がとられて失業者が増えるという話はよくきく。それに対してAIには人間の能力を超えることなどないから、世界が失業だらけになるというのは間違っていると主張する人もいる。しかし、ざっと考えてみれば、妥当なのはその中間、つまりAIにとられてしまう仕事もあれば、なかなかAIには任せられないものもあると見るのが妥当だろう。では、どんな仕事が取られて、どんな仕事はとられないのか?

明暗を決めるのは何か? 知的、創造的、それとも……。


英経済紙フィナンシャルタイムズ3月28日付にAIと社会との関係を研究しているジョン・マードックが「AIがあなたの仕事を奪わない理由」というエッセイを寄せている。もちろん、AIの登場は長い人類史からみればごく最近のことだ。マードックの研究もほんの最近のデータに基づいている。遠い将来はどうかは分からない。いま起きている現象から彼は論じているのだが、それはなかなか理にかなっているように思える。

これまでも多くの研究がなされてきて、かなりの衝撃を与えたのがOpenAI社のChatGPTがアメリカのロースクール入試問題やアイビーリーグのMBA試験に楽々と合格したというニュースだった。最新のAIモデルは高品質の文章を書けるようになり、大学院生が書いたものと区別ができないほどのクオリティを実現している。また、ネット上で無料で提供されている翻訳サービスでも、最近は大意をとるくらいならイライラせずに、英語の記事を日本語で読めるようになっている。

プログラマーやライターはAIの影響を受けやすい


しかし、問題はもうすこしややこしい。こうしたテストはどのような条件のもとに行われたのか。これは冗談だが、AIには試験場に行く足がないという説もあり、昔、湯川秀樹博士がラジオで語った「人工知能が人間を害しようとしたら、コンセントを抜けばいい」というきわめて常識にかなった助言もある。もっとも、将来のAIは人間にコンセントを抜かせないようになるだろうという、別種のジョークもあるのだか。

マードックはブルキングス研究所とOpenAI が以前に行った研究所を基に、アメリカの雇用データの詳細な分析を行い、最近の雇用数のトレンドを職種ごとに比較するという方法で、現時点でのAIにとられる職種とAIにとられにくい職種を浮き上がらせることに成功している。特に自動化によってとられやすい職種については、念入りに検証してみたと述べている。その結果、だいたい次のようなことが分かった。

「乱雑」で「繰り返しでない」ことはAIは不得意だ


経理事務、保険セールス、旅行代理業務、法務秘書業務が行う日常業務は、すべて大学の法学部を出た人が備えているレベルの能力を前提としている。こうした職業に就く労働者の数は、生成AIが急激に普及したにもかかわらず、すべての分野でこれまでの数値にとどまっている。しかし、例外が2つあって、ライター(言葉で作品ではない文章を書く)とプログラマー(ソフトウェアを設計するのではなく部分的にソフトの一部を書く)は、いずれもLLM(大規模言語モデル)がもたらした衝撃を強く受けた兆候をしめしており、過去2年間で急激に減っている」

このLLMというのは、AIに含まれているものだが、たとえば、英語を日本語に翻訳させるためのソフトウェアのモデルだ。前提が言語に関する分野で、その方法はざっといって大量の実例をネット上で高速検索して、翻訳の妥当性の確率を割り出すようなものである。かなり、シンプルで力任せの繰り返しような側面があり、その作業のプロセスが以前は時間がきわめて多く必要だったが、最近はその速度が飛躍的に高まった分野ということができるだろう。


マードックはこの職種別の労働市場動向からの知見を、サンフランシスコにあるAI研究会社METRの最近の研究と比較している。METRの研究では、いわゆるLLMのタスク遂行能力というのは、「専門的スキルのレベルに左右されるのではなく、人間がそれを実行するのにどれほどの時間がかかるか、仕事の流れがどれだけ『乱雑』や『非構造性』に左右されないかにかかっている」との結論にいたっている。

すこし嚙み砕いていえば、作業に不確実な性格がなく、しっかりとした構造性をもっている(つまり、同じことを繰り返してこなせる)タイプの仕事の場合には、先のLLMによって代替がきくということである。それとは異なる「たとえば、管理職の補助、旅行代理店での客対応、簿記の担当といった職務は、いずれもちょっとしたスキルを必要とする仕事であり、最先端のAIであっても十分に対応できないレベルのものなのである」。これは、かなり常識的な見方であり、すくなくとも現時点では妥当なものといえるだろう。

「複数の情報の流れを追跡したり、変動のある環境に対応したり、不確実で変化しやすい目標に対処したり、同時並行作業を実行したりするのは、いまのところAIにとってかなり困難な仕事なのである。こうした混乱があり構造化されていない仕事の流れは、知識を分類してそこから結論を導くといった(知的にはみえても構造化されている)小論文作成などとは、かけ離れたものといえる」


もちろん、マードックはこうした乱雑で構造化されていない仕事が、将来的にもAIにとって不可能だとは述べていない。「こうした仕事が人間の領域に永遠のものであって、AIからは守られているなどと言う気はない」。しかし、さきほどの例外的な2種の仕事について考えてみれば、こちらのほうが一見知的に見えても、実は「最初から最後まで、仕事の全体が個別の構成要素に限られており、AIが得意とする作業にかなり近いということだ。つまり、すっきりしていて、直線的で、連続的な仕事なのである」。

もちろん、乱雑で変化の多い仕事はストレスも高いだろう


こうしてみると、少なくともマードックの分析が正しいとすれば、これまでよく言われてきたように、機械に仕事を取られたくなければ、創造的な仕事を選べという主張が、まだ通用するような気がする。ただし、創造的という言葉を、乱雑で繰り返しが少ないと言いなおすべきだろう。マードックの締め括りの言葉を見よう。「現時点であなたがやりたくない仕事は、予測可能な反復的で線形タスクによって構成されている仕事だろう。たとえば、データ分析のためのコードを作成し、その結果を一定量の文章にまとめる仕事などである。考えてみれば、実は、これって、私がここでいま実際にやっている仕事そのものじゃないですか!」