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東谷暁による「事件」に対する解釈論

トランプは本当にマスクを辞めさせると言ったのか?;始まった政権崩壊の本当の原因を考える

イーロン・マスクがトランプ政権で担っている公務から退くというニュースが流れて、いまや世界中を駆け回っている。その元となったのは政治情報サイト「ポリティコ」で、4月2日の「トランプ、マスクが近く退任すると側近に語る」との投稿記事である。ポリティコはかなり速報性を重んじるメディアで、場合によれば「飛ばし」と見られても仕方のないような情報も登場する。しかし、今回はすぐにロイターがフォローし、フィナンシャルタイムズが否定的な記事を載せ、日本のメディアも続報を掲載している。この報道の内実をさぐりつつ、トランプ政権の現実に迫ってみよう。


まず、何といってもポリティコである。「ドナルド・トランプ大統領は、閣僚を含むインナーサークル(取り巻きたち)に対して、イーロン・マスク氏がこれから数週間以内に、常に存在する応援団長であり、ワシントンの『整理屋』としての今の役職から退くことを伝えた」。これが問題となっている記事の冒頭で、ちょっと曖昧な表現があるが、そのあとに「大統領はマスクと彼の政府効率化計画に満足しているが、二人はマスク氏が近いうちにビジネスに戻り、サポート役を務めるべきだと決めたと、匿名希望の3人が明らかにした」と続く。

この報道がリアリティを感じさせるのは、いまのマスクがおかれている状況と、これまで彼がトランプ政権のなかで占めていた立場をある程度知っていれば、「さもありなん」と思っても少しもおかしくないからだ。まず、トランプが支援していた保守派判事がウィスコンシン州最高裁判事の席を10ポイント差で失って、共和党系対民主党系が2対3となった出来事があった。そして、トランプ政権のなかで強硬派のMEGA派だけでなく、ハイテク業界のTECH派のなかでも孤立していると報じられてきたことが挙げられる。


しかし、たとえばイーロン・マスクのDOGE(政府効率化機構)のトップの地位は、たしかに掲げた数値を達成できないことが明白になっているが、もともとそれを任期の130日で達成すると宣言していた。つまり、達成してもこの期限で辞めると言っていたわけである。マスクは近々 DOGEを辞めるというのは予定の行動といってよいが、数日前にもネット上ではまことしやかに「マスクの退任が近づく」といった投稿が見られた。しかし、それはこの130日が終わりかけており、その地位からは去るということにすぎなかった。

こんどのポリティコの記事内容は、トランプ政権内でのイーロン・マスク支持派と同反対派からさまざまな見解を集めたもので、残念ながら決定的な発言はないといってよい。しかし、すでに述べたようにこの記事は「さもありなん」と納得させるには十分で、マスクの派手な活動に比べてその成果は乏しく、政権内でも「邪魔になる」と感じているトランプの取り巻きたちがかなり多いのが事実である。そして冒頭の3人のコメントとは次のようなものだ。


「予想されるトランプとマスクの分裂の正確な理由は、2人に近い人びとにさえも完全には明らかではない。しかし、トランプ政権の関係者3人は、政権当局者が、マスクが上級スタッフや閣僚たちとコミュニケーションをとっていないことに苛立っていると語っている。これは1月以来彼らが苦労している問題であり、マスク本人に解決を求めているが、その説得の成功と失敗はまだら状であるような状況だという」

しかし、イーロン・マスクが孤立してしまうのは、ほかでもない、彼が世界一の資産家であり、少なくともこれまでアメリカ国民はもとより、世界中の人たちに注目されてきた、巨大な偶像的な存在であるためだろう。その存在感は副大統領を超えていて、しばしばトランプ大統領に迫っている。トランプ周辺の取り巻きたちも、そのことは認めていて、親しい取り巻き筋からは「マスクは単にチームプレーヤ―になることができないだけだ」と擁護されているという。もちろん、この性格がまさにマスク孤立の、最大の内因といえるわけだが、それを直してしまったらイーロン・マスクイーロン・マスクでなくなるだろう。


「緊張が頂点に達したのは約1カ月前、トランプ大統領が3月6日の閣議で各省庁の長官たちに、省庁の人員と予算の削減は君たちの責任であり、マスクではないと断言したときだった。トランプ大統領は先週の閣議でさらに踏み込み、マスクのホワイトハウスでのフルタイムの役職は、間もなく終了することになると認めたとき、長官たちをよく知る関係者によれば、彼らの一部は安堵の色を浮かべたという」

トランプにしてみれば、マスクはもっと使えると思っていたのかもしれないし、何か使い途があるならば、これからでもそうしようとするだろう。いっぽう、マスクにしてみればビジネスを辞めてしまって閣僚になる気はさらさらないが、閣僚並みあるいはそれ以上の存在感を常にトランプ政権の中で示すことを望んでおり、その権利はこれまでトランプに賭けた膨大な資金を考えても、十二分にあると信じているに違いない。


しかし、今回のような記事がもっと増えていき、そのたびにイーロン・マスクが孤立を深めていけば、本当に政権離脱のときはやってくるだろう。そして、今回のポリティコの報道もそれを狙っていたことが、ある種の人たちに確認されることになるかもしれない。「あれは、それが目的だったのだ」と。いずれにせよ、マスクがトランプ政権内で、正式の権限と地位を持たずに存在しているのは、あまりに不自然であり、離脱の日は確実にやってくる。そしてマスクの離脱は、MEGAとTECHの結合政権という幻想を崩壊させ、かなりの程度、トランプ政権の基盤を揺るがすことになるだろう。