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東谷暁による「事件」に対する解釈論

トランプ不況はマイルドというのは本当か?;あまりに悲観的データが多いので楽観説も読んでおこう

当然のことだが、トランプの関税政策のために、世界はリセッション(景気後退)を迎えるだろうというニュースが世界中を覆っている。こういうときは敢えて、ちょっと違う観点の情報も入れておいたほうがいいかもしれない。たしかに、トランプの関税政策は世界とアメリカを景気後退に導いているが、アメリカ経済のこれまでがきわめて良好なので、多少の景気後退で済むのではないかという見方がある。また、いくらなんでもトランプ政権は関税政策を修正するだろうとの予想もある。注意深く、これらの「楽観的予想」を読んでみよう。


まず、いつもながら異論を掲載するのが好きな英経済誌ジ・エコノミストは電子版4月6日付に「トランプの貿易戦争は世界的不況を引き起こすのか?」を掲載している。「投資家は心配しているが、少なくとも経済は好調な状態からスタートしている」との惹句がついているように、前政権から受け継いだアメリカ経済が良好なので、それほど壊滅的なリセッションにはならないのではないかとのニュアンスを漂わせている。

とはいえ、同記事はリセッションの可能性が高いといわれるのも無理はないとする見解も、独自の経済指標を紹介しながら論じている。それは「ディフェンス指数」と名付けた独自の経済指標で、この指数よるとトランプ関税によって「軽度の世界的リセッション」が起こるというのである。ざっと説明すると、株式銘柄をスーパーで買い物する生活必需品のようなものと関連する「ディフェンシブ」銘柄と、アニマル・スピリット(投機熱)によって動く「景気循環」銘柄にわけて、それぞれが2019年からどれほどの%の上昇を示しているかを比較するわけである。


同誌によれば、それぞれの銘柄の株価の上昇率は、いま、ディフェンシブ銘柄が循環銘柄をかなり上回って、コロナ禍のさいに生じた数値を超えて、8%という大きな差が生まれているという。「過去1週間、世界の景気循環銘柄は世界のディフェンシブ銘柄を8%下回った(これは上に図版引用したグラフには反映していない)。このギャップは2020年に新型コロナウィルスによるロックダウンが始まって以来(これは上のグラフで見ることができる)の最大の数値である」。同誌によれば、こうしたギャップの変動は、世界的なマイルドなリセッションと対応していることが分かっているという。

では、世界ではなくアメリカを見るとどうか。先進国23カ国の時価総額85%を占めるMSCIワールド指数の下落率は、アメリカの下落率よりわずかに小さいだけだった。新興市場と日本の景気循環株の下落はアメリカほどではないが、ヨーロッパはアメリカと同じくらいの下落だった。投資家たちは今年のアメリカ企業の利益予想を1.5%引き下げており、ヨーロッパの企業の数値と同じだ。こうした予想値は、トランプが大統領になる前に発表されたアカデミックな研究と整合性があり、この研究はトランプの関税政策がアメリカ国内と同程度か、それ以上の経済的痛みを国外にもたらすと結論づけているという。


こうした悲観的なニュースや研究に対して、良いニュースも存在すると同誌はいう。購買担当者調査から出てくる3月の世界経済成長の総合指数は、2月の数値から上昇しており、関税の影響を受けにくいサービス部門がとくに堅調であることを示している。ゴールドマン・サックスが作成した「現在の活動指標」は様々な高頻度指数で構成されているが、それで見ると世界経済の成長率は潜在的成長率をわずかに下回っているだけだという。また、ほとんどが裕福な国で構成されているOECD加盟国全体では、失業率は5%を下回っているのも良いニュースといえるという。

同誌はさらに良いニュースを付け加えている。たとえば、4月4日、予想をはるかに上回る22万8000人の雇用創出があった。これらの調査データは(調査の期間が古いので)すでに過去のものと言えるが、リアルタイムの関連データも同じことを示しているという。たとえば、連邦準備銀行のダラス支店週次指数は、経済が年間2%以上の成長をしており、ゴールドマン・サックスの前出のデータは、アメリカが他の先進国を上回っていることを示していると同誌は述べている。「トランプは史上最悪の政策失敗を犯したが、幸運なことに前大統領から強い経済を引き継いでいる。問題はそれがどれくらいの痛みにたえられるかだろう」。つまり、これまでが良かったから、その分、落ち込みが多少緩和されるという話といえる。


もうひとつ紹介する記事は、英経済紙フィナンシャルタイムズ4月6日付の「トランプ大統領の関税政策は長く続かない理由」で、一言でいえば「有権者と企業のセンチメント(感情)が大統領の政策に圧力をかけるだろう」というわけである。「短期的には、ほとんどの予測がトランプの関税政策によって物価が上昇し、経済活動が鈍化すると予想している」。「今後の不況を予想してすでに消費者心理は落ち込んでいるが、最新の関税政策が実際にサプライチェーンに打撃を与えると、さらに消費者心理は急落するだろう」。

物価以外にも大きな影響が生まれている。「たとえば、いわゆる政府効率化機構のレイオフ発表は、過去2カ月で28万人を超え、さらに関税と不確実性が雇用と投資を抑制している」。この記事では、これでもかというかのように、多くのグラフを掲載して、「これほどの否定的現実があるのだから、いくらトランプでも関税政策の見直しを始めるだろう」と主張しているわけである。しかし、4月7日に世界に流れているニュースによれば、トランプは「アメリカは世界中からひどい目にあってきた」と述べ、「それを治療するには薬がいるのだ」と主張している。やっぱり、馬鹿は言っても治らない。トランプはデータを見せられて反省するような人間ではない。「薬がいる」のはトランプのほうだろう。