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東谷暁による「事件」に対する解釈論

トランプはサービスや金融の黒字を無視している;根本に矛盾と欺瞞を抱えた人気取り戦略

トランプ大統領がいまも怒鳴りまくっていることのひとつに「アメリカは世界中から買っているが、世界は買ってくれていない」という妄言がある。信じられない人もいるかもしれないが、この話を真に受けている日本人がけっこう多い。アメリカは貿易収支ではかなり赤字だが、サービス収支や所得収支ではかなりの黒字だから、アメリカが世界中にふんだくられているというのは間違いだ、といってもピンとこない人も多い。その点について、他でもない米共和党寄りとされる米経済紙ウォールトストリート紙がグラフ付で説明してくれているのでここで紹介しておこう。


トランプ大統領は、アメリカ経済の弱さの兆候と見ている、巨額の物品貿易赤字を解消しようとしているようだが、それは貿易の中でも一部にすぎない。アメリカは海外から輸出を上回る物品の輸入を行っているが、ストリーミング配信サービスから金融アドバイスにおいてはその逆で黒字なのだ。トランプ大統領はこれらのサービス輸出を関税計算から除外しているが、いまや(その間違いもあって)貿易戦争を引き起こしている」

サービスと金融がアメリカ経済の牽引車となって久しい


これが同紙4月10日付の「トランプの貿易の計算は大きな輸出を無視している:アメリカのサービス輸出である」の冒頭の文章である。日本のある種の人たちには、貿易で黒字になることを「勝った」といい、赤字になることを「負けた」といっている者がまだ存在するが、必ずしもそんなことはない。「数十年にわたって、アメリカと世界の他の国とのあいだにはトレードが存在していた。他の国ぐには米国に自動車、電話、衣服、食料を売り、それらの国はアメリカから債券、ソフトウェア、経営コンサルティング等を買ってきたのである」。

サービスと金融の売り買いではアメリカが圧倒的


アメリカが物品輸入を増やし、国内工場が閉鎖されるにつれて、2024年までに貿易赤字は1兆2100億ドルに達している。しかし、同時にサービス貿易黒字は2950億ドルに増加しており、2000年の770億ドルからは大きく増加した。これはアメリカがかつての製造業大国だった時代の、物品輸出が黒字でサービス収支が赤字という状況とは逆転しているが、はたしてこれがアメリカにとってそれほど悪いことなのか。

いまの輸出産業の花形はすでにサービスと金融なのだ


「国家が豊かになるにつれて、サービス業はしだいにアメリカ経済を支配するようになり、いまや最も重要な経済牽引産業はフォードモーターやゼネラルモーターではなくなり、マイクロソフト、アルファベット、JPモルガン・チェースといった広い意味でのサービス業に移行している。つまり、ソフトウェアと金融商品アメリカの花形輸出品目であり、大手サービス企業のなかには、すでにアメリカより海外市場のほうが重要になった部門もあるというのが現実なのである」


トランプの頭の中にあるのは、なぜ製造業も世界を牽引できないのか、それはおかしいというものだと思われるが(もちろん、それすら考えていないで、ただただ世界を支配したいだけなのかもしれないが)、日本のように「ものつくり」を守りたいと考える企業人や政治家が多い国にあっては、野心ある新興企業家たちにとってアメリカこそが日本の未来像と見えるのも無理はないのだ。モノづくりとサービス提供のバランス点はどこかという判断は難しいが、トランプのようにモノもサービスも全部世界一でないと嫌だというのは、ただのゴウツクバリというしかない。

日本はかろうじて経常収支をプラスにしている


もちろん、アメリカの産業が急速にサービスに移行したことについては、企業の税金逃れ戦略も大いに貢献しているという指摘もある。しかし、この場合でもアメリカ経済の全体からみればサービス収支の黒字を生み出して、経常収支の赤字を減らしているといえる。逆にアメリカにサービスによって経常収支を悪化させられている国ぐにでは、EUのように戦略的にアメリカのサービス輸出攻勢に抗い、次の時代に備えようとする勢力もあるわけである。


ここで紹介したのは、あくまで現在の定義によるところの「サービス貿易」についての現実だが、それ以上に強調しなければならないのは、アメリカが世界に資金を投資して、そのリターン(プラスの所得収支)を得ているが、これも膨大なものとなっていることだ。トランプはそのことについては、まったく触れようとしない。アメリカの経常収支はたしかに赤字(約マイナス3000億ドル)だが、サービス収支や所得収支のプラスが大きいので、物品の貿易収支(約マイナス1兆2100億ドル)と比べてそれほど大きくないというのが、帝国的循環を維持しているアメリカ経済の正しい姿なのである。