コロナ禍の間にリモートワークが普及することで、以降は自宅での仕事が主流になるとの予測があった。しかし、リモートワークは全体の2割くらいがやっとで、いったんそこまで到達しても、じわじわ低下して1割程度になるのではないかと私は書いた。いま現実はどうなっているか? もちろん、主流になるとかの話は、ネット会議システムを売る企業の甘い夢だったことは間違いないが、興味深いのは背景となる文化によって顕著な違いが生まれていることだ。つまり、働くということについてそもそも意味が違うようなのである。

英経済誌ジ・エコノミスト4月21日号は「アメリカ人と英国人は、他の人たちとは違って、依然としてオフィスを避けている」とのタイトルで、いまリモートワークがどれくらいの規模で行われているかのデータと分析を掲載した。どうも米英などアングロサクソンの国家ではリモートワークは高い割合が維持されており、西欧に属する国でもドイツとフランスではかなり違う。さらに、中国、韓国、そして日本については、やっぱり集団で仕事をするほうがしっくりくる「文化」なのではないかとの結論に至りそうなのである。
まずはジ・エコノミストの読者が多いアメリカでの状況だが、コロナ禍で在宅勤務を余儀なくされた2020年から5年たったいまも、「リモートワークは根強く残っており、オフィスへの回帰が進んだ2020~22年に比べると、たしかにオフィスに出勤するアメリカ人は増えているものの、実際に職場にいる時間はもはや増えていない。スタンフォード大学のニコラス・ブルームたちが、40カ国の大学卒業生1万6000人を対象に行った調査によれば、回答者の平均在宅勤務日数は2024~25年初頭では1週間で1.3日にとどまり、2023年とほぼ同じだった」という。

ところが、目をアメリカから海外に移すと、データは意外なパターンを示していることが分かる。「リモートワークが定着したいま、自宅のそのための部屋で仕事をする傾向が最も強いのは、勤勉なアングロサクソン系の人びとである(図1)。大学卒のカナダ人における平均在宅勤務日数は週1.9日。英国人もほぼ同数で1.8日、アメリカ人はやや低く1.6日となっている。対照的にフランス人やデンマーク人は週約1日しか自宅で過ごしていない。在宅勤務への情熱がもっとも低いのは韓国人で1週間のうちオフィス以外で働く時間はわずか半日なのである(日本人も0.74日とかなり低い)」。

こうした違いを説明するのは何だろうか。それぞれの国の産業形態、パンデミックの影響、あるいは生活レベルだろうか? ジ・エコノミスト誌によれば「最も有力な説明は文化」であるという。前出のブルームと共同研究を行っている、オランダの心理学者ヘルト・ホフステードが開発した指標を用いて、それぞれの国の位置付けを行った(図2)が、ここから明らかになったのは「リモートワークの導入には、上司が部下を信頼し、ある程度の自主性を認める必要がある」と思われるが、「より個人主義的な社会では、経営陣は従業員の拘束を緩めることに抵抗が低く、従業員もまた在宅勤務に抵抗をもたない」わけである。

この研究グループはリモートワークが持つマイナスの側面にも光をあてている。前出のブルームと同じスタンフォード大学のアレックス・フィナンたちは、GPSを使った追跡調査を行って、仕事を通じて多くの人間と出会い、人脈を築くという大切な行動がおろそかにされ、特に若い人たちに決定的な打撃を与えている事実を見つけ出している。その研究のひとつである「ゴルフの機会の低下について」では(図3)、若い人たちが経験豊かな同僚と接することで学ぶ機会を失っていることが明らかになっている。
もちろん、ジ・エコノミスト誌が指摘するように、これまでも在宅勤務がもたらすプラスの側面は指摘されてきた。長距離通勤の苦痛を減らすことができるとか、急激に上昇する都市の不動産価格を抑制する効果があるとか、子供をもつ女性にとって郊外の生活を可能にするとか。しかし、こうしたプラス面というのは、常にマイナス面をともなっていて、長距離通勤が楽になれば逆に本気で在宅勤務を考えない企業が多くなり、都市の地価が急上昇しないぶんだけ郊外の地代は高くなり、東アジアでのように必ずしも子育てのために在宅勤務を選ぶ人は多くないという事実もある。

ジ・エコノミスト誌のこの記事の記者が、どのようなライフスタイルを採っているかは分からないが、最後はかなり強引に、平日にゴルフをするようになった人が増えているのは、必ずしも在宅勤務で余裕の出た人が、仕事をしないで遊んでいるわけではなく、「在宅勤務が最も盛んな経済大国であるアメリカは、最近、生産性の大幅な向上を遂げている」などと論じている。どうやらこの記者さんは、在宅勤務にしておいて、自由な時間を確保したいのではないのか。
しかし、アメリカの労働生産性の上昇は、これまでも何回もあったように、IT系バブルが過熱したときに売上が急増するのでよく起こる、数字の見かけ上の現象であることが多く、しかも、バブルが崩壊すると決まって、今度は雇用が急減するので労働生産性はさらに上昇する。それは労働生産性の数値がGDPを総労働時間で割って得る数字が基になっているからだ。あくまで分母と分子の関係で、分子だけが伸びても分母が減少しても、見かけ上は労働生産性が上昇する。次が記事の最後近くの文章である。

「もしかしたら、在宅勤務の真の問題は経済的な影響ではなく、社会的な影響にあるのかもしれない。アメリカ人は、通勤に費やさなくなった時間を最大限に活用しているとはいえない。社交やボランティアはいずれも2019年よりも盛んでなくなっている。いっぽうで、人びとはリラックスしたり、ビデオゲームに費やす時間を増やしている。全体として、平均的なアメリカ人はコロナ以前より、30分長く一人で過ごすようになっている」