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東谷暁による「事件」に対する解釈論

トランプは100日で何を達成したのか?;いよいよ反発が本格化するアメリカの厳しい現実

トランプが大統領に就任してから100日が過ぎようとしている。いまアメリカは経済も政治も混乱状態だが、では、トランプ大統領はどうなのか。当然、危機に遭っていていいはずなのだが、演技力と体力のあるトランプは、いまのところ「意気軒高」を演じ続けている。これからアメリカとトランプがどうなるかは、まず、客観的なデータを見ることから始めるしかない。意外なファクトがそこにはある。


米経済紙ウォールストリート・ジャーナル4月24日付は「トランプ大統領就任100日、これまでとは異なる様相」を掲載している。「トランプ政権100日間は、8年前に始まった第一期を含めて、近年の米政権とはかなり異なる展開を見せた。4月30日に任期100日目を迎えるにあたり、データで軌跡をたどってみよう」。ここで注目すべきは「第一期を含めて」という所で、前回の任期と比べてすら大きな違いがあるというのだが、それはどこだろうか? 同紙は「大統領令」「株価」「支持率」「政府職員」「国境」の5つから見ている。

まず、大統領令」の多さが圧倒的であることが世界中を驚かせている。それはグラフを見ればあきらかで、これでは議会や行政機関がいらないといっているに等しい。トランプは二期目の就任時に26件の大統領令に署名した。これはバイデン前大統領の3倍以上、トランプ自身の前期の最初の3カ月間よりも100件以上も多い。それらの内容は、相互関税や政府機関内での紙ストローの禁止まで多岐にわたる。同時に、彼の移民、ジェンダー、気候変動などに関する大統領令に対して、すでに訴訟が80件以上起こっている。


次に、世界中に対して貿易戦争を仕掛け、連邦準備制度理事会FRB)議長と対立したため、大統領就任以降、「株価」はかなりの速度で下落している。相互関税とFRB議長との対立に多少の妥協を示したことから、株価はやや持ち直したが、それでも代表的株価指数S&P500は(4月24日現在で)8.5%の下落を示している。これまでも就任直後に株価下落に見舞われた大統領は多い。しかし、それは何らかの外的事件によるものであり、今回のような大統領が自ら引き起こしたというのは、初めてといってよいかもしれない。


さて、その肝心の「支持率」だが、「世論調査会社ギャラップ社によれば、トランプ大統領の支持率は第二次世界大戦後の大統領のなかで2番目に低い」と同紙は述べている。ここにはちょっとしたユーモア、あるいはウィットが入っているが、では誰が第一位なのかといえば、第一期のトランプ大統領だったというオチなのである。クスリと笑えるかも。「今年1月から4月までの平均支持率は45%で、トランプ最初の任期の同時期41%を幸いにしてわずかに上回った」というわけである。(付記:ジ・エコノミストとYouGov4月24日付の数値は41%、また、FOX4日24日は38%で、もう笑っていられない)


この大統領の支持率というものは、実は、ちょっと取扱注意であることも知っておくべきかもしれない。民主党の大統領で人気が高いといえば70%のケネディということになるが、この人気大統領はギャロップの平均支持率で見れば確かに高いが、暗殺されたために在任期間が短くポジティブなネタが多かったわけで、雑誌あたりの回顧的「人気投票」での90%などは世論調査として採用するわけにはいかない。また共和党の人気大統領といえばレーガンが高いと思う人が多いと思うが、これは53%と任期平均で見るとそれほどのこともない。レーガン共和党だけで人気投票すればケネディなみの支持率となるかもしれないが、民主党支持者を含めた広範な人気は獲得していない。


評判の悪い連邦政府職員」への退職勧告あるいはクビだが、イーロン・マスクが率いる政府効率化局(DOGE)は連邦政府支出の大幅削減を謳っている。トランプ政権発足後数か月で、約7万5000人の政府職員が「自主退職」を申し出た。さらに数万人の連邦職員が「解雇」されたが、その多くは裁判所の命令によって少なくとも「一時的」には復職している。なお、今月行われたマスクの電気自動車会社「テスラ」の決算説明会で、マスクは5月から「DOGE」へのコミットメント時間を減らすと発表した。また、トランプ大統領は閣僚会議で、マスクが閣僚的な権限を持たないこと、さらにビジネスに戻ることをすでに認めている。


最後は「国境」だが、これはメキシコとの国境を意味しており、「庇護を求めて南部国境にやってくる移民希望者」についての扱いは厳しくなり、「不法越境は急減」していて、越境数は60年ぶりの低さとなっている。この低い越境数はトランプ第一期政権とパラレルあるいはそれ以上に下がっている。「トランプ政権は、(移民希望者の)庇護申請を無視する政策を採用しているが、これは裁判で争われており、その結果、移民(希望者)はメキシコに送還されるか、強制送還用の航空機に乗せられることになった」。


このウォールストリート紙の記事は「客観報道」の色彩が強いが、これからどうなるかのヒントをいくつか提供しているといってよい。たとえば、大統領令による強引な政策だが、これらはひとつひとつについて訴訟が行われないかぎり、トランプは唇を丸め尖がらせながら、当然の権利のように、素知らぬ顔で実行していくことだろう。次期も大統領選に立候補するような発言があるが、おそらく体力的に無理で、いわばトランプは次期当選のために遠慮する必要のない、怖いもの知らずの大統領なのである。今度は超高齢者を辞めさせなければならないのは共和党で、この超高齢者はバイデンよりずっと手ごわいことは世界中が知っている。


株価下落については、さまざまな展開がありうる。あくまで高レートの関税を世界に押し付けようとすれば、アメリカ国内での物価高が急進してしまい、それが世論を通じてのトランプ批判あるいは辞任要求へと発展するかもしれない。トランプ政権は国内の製造業の復活を目指していると主張しており、また、グローバリズムの否定だとほめている日本の評論家もいる。しかし、経済というものは時間軸が大きく重要なファクターであり、数年後に技術力が他国に劣っている製造業が、国内で「復活」したところで、いまのアメリカ経済にプラスになるとはとうてい思えない。中間選挙まではこのままで実行したとしても、トランポノミクスでは選挙に勝てないと分かれば、さすがに共和党内部からも強い反発が起こるだろう。トランプが疲れてくれれば、何段階かのステップを踏んで、当初の馬鹿気た戦略を緩和していくことになるのではないだろうか。

また、支持率というものがあたかも決定的と思い込んでいる人もいるが、次期の選挙に出ないという前提なら何でもできてしまうから、トランプが気をつけなくてはならないのは、退任後にも後を引く可能性のある裁判沙汰だけだろう。これは連邦職員の解雇にも関係していることだが、行政訴訟というものは最後の判決までは何年もの長い時間がかかるので、トランプ流のデタラメ解雇政策でも続けることができる。最終判決がでるころにはトランプが生きているかどうかすら分からない。


ちょっと飛躍するが、日本の石破茂首相の支持率などは、ほとんど政局とは関係ないのではないかと思う人も多いだろう。時事通信世論調査のように20%台まで落ちても、時事通信はどうも旧安倍政権関係者の影響が強いようだとの印象を持たれるだけで、何らインパクトを与えずにお仕舞である。トップを選出する制度が議員内閣制というまったく異なる仕組みだという要素もあるが、そもそも肝心の自民党そのものに別の総裁候補を押し立てる空気も気力もないから、石破政権の継続が可能なのである。だいたい、いまの難局に本当に総理大臣になりたい今の自民党政治家なんているのだろうか?

イーロン・マスクのDOGEについては、すでに詳しく述べたことがあるので、そちらを読んでいただきたいが、ひとことで言って、マスクが全財産をアメリカに寄付しても、最初にぶち上げたプラン達成は無理である。すでにトランプは取り巻き連の反マスク勢力を抑えるために「マスクはいずれビジネスに戻る」と発言している。これは厳密にいえば「トランプがマスクに辞めろといった」という情報ではないが、マスクが馬鹿でないかぎり、目的達成が不可能で評判の悪いDOGEよりも、テコ入れで建て直せるテスラのほうが大事であることは自明だろう。


最後のメキシコ移民と国境の管理だが、トランプが強く管理すればするほど、すでにアメリカ国内で職を得ている移民または不法移民は喜ぶかもしれないが、膨大な農地を経営している農業ビジネス関係者は、これまでほとんど生命維持ギリギリの労賃で働く、いわゆる移民が入ってこなくなるのはマズイと思っている。アメリカの経済繁栄の根底の根底を支えているのは、ず~っと安い労働力が継続的に提供され、それをコントロールできたことである。それを破壊すれば文字通り屋台骨が揺らぐのだ。まあ、やってみればいい。トランプは農業ビジネス経営者たちにそっぽを向かれるだろう。