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東谷暁による「事件」に対する解釈論

ウクライナと米国が資源協定で合意;どこまで合意でどこからが願望なのか区別が必要だ

アメリカとウクライナは4月30日、「経済パートナーシップ」協定の合意文書に署名した。トランプとゼレンスキーの「口論」以降、この協定の成立には暗雲が漂っていたが、フランシスコ法王の葬儀のなかでトランプとゼレンスキーが15分、法王庁の中庭で「和解」のようなポーズをとることで再び協議が進んでいる印象を与えたが、実際には事務レベルでは口論後もご破算になったわけではなく、水面下での協議は続いていた。では、いったいどのような合意文書なのだろうか。


アメリカの財務相で調印された合意文書には、アメリカのベッセント財務長官とウクライナのスヴィリデンコ第一副首相が署名したと見られるが、もちろんこれで協定が成立したわけではない。これからどのような展開を見るかは不確定要素が多くあり、どうもそれぞれ自分たちが都合よく解釈している可能性がある。以下は英経済紙フィナンシャルタイムズ5月1日付の「アメリカとウクライナが天然資源協定(ディール)に署名」を参考にしているが、どこに重点を置くかによって、トーンはかなり異なるように思える。


まず、アメリカ側のベッセント財務長官のコメントを見てみよう。「アメリカはこの残酷で無意味な戦争の終結を支援することに尽力する」と述べ、「この合意はトランプ政権が長期的に(この問題に関して)自由な主権を保持し、繁栄するウクライナを中心とした和平プロセスに取り組んでいることを、ロシアに対して明確に示すものだ」と語っている。ベッセントは財務長官なのに和平の推進がこの合意の目的であることを強調しているのが、なんとなく不自然な気もするが、昔のモーゲンソー米財務長官などを思い出せばアメリカでは不思議ではない。

いっぽう、ウクライナのスヴィリデンコの発言を見ていくと、かなり微妙なことについても、積極的に踏み込んで述べている。「われわれはアメリカ合衆国とともに、世界の投資がウクライナに行われることを促す基金を創設しつつあります」と述べ、「わが国の領土と領海にあるすべての資源に対する完全な所有権と管理権がウクライナにとどまることが保証されている」という点を強調している。そのうえで、協定に基づいてウクライナ政府はどの天然資源を採掘するかを決定するが、「対等なパートナーシップ」が保証されており、また、「基金は50対50で構成」(つまりウクライナアメリカは対等)されることになると説明している。


以降の細目については、フィナンシャル紙は記者の文章で書いているが、このあたりもかなり重要な内容が含まれている。「このファンドは重要な鉱物、石油、ガスなどの採掘、および関連するインフラと(加工)プロセスに投資し、プロジェクトは共同で選定され、最初の10年間は、ファンドが生み出す利益はすべてウクライナ側に再投資される」という。そして次の部分は注目すべきだろう。「この基金は双方のいずれも主導的な役割を担うことはなく、『共同で管理される』ことになるが、これは当初アメリカがウクライナの天然資源に対する全面的な管理を要求した後、ウクライナ側がアメリカを説得して譲歩させた」。

ここらへんはウクライナ側の経済外交の勝利といえなくもないが、アメリカを相手にして「共同で管理」というものが成り立つかはやはり微妙だろう。しかも、スヴィリデンコは「石油・ガス生産会社ウクルナフタや原子力発電会社エネルゴアトムなどのウクライナ企業は国有のままになる」と述べているのは分かるが、「アメリカは復興投資基金への資金拠出に加え、防空システムを含むさらなる支援を提供する可能性がある」と、軍事についても踏み込んだことになっている。この「可能性」がウクライナ側の「願望」なのか、アメリカの「付帯的確約」なのかはこの記事を読む限り不明である。


さらに同記事ではスヴィリデンコが語り続けている。「同協定にはアメリカに対するウクライナの債務義務に関する規定は含まれておらず、その実施により両国は『平等な協力と投資を通じて経済的潜在力を拡大する』ことが可能になった」。この点についてはトランプが過去のウクライナ支援への見返りを強調していたので、その否定ということになる。そして、最後の締めくくりも彼女の発言に基づいている。「キーウ(ウクライナ政府)において、ウクライナの主権を侵害し、EU加盟への道を妨げるのではないかとの懸念が広がったが、スヴェリデンコは交渉担当者(米側の)たちが合意文はウクライナ憲法に準拠し、『ウクライナの欧州統合路線を維持する』ことについても確保したと述べている」という。


揚げ足をとる気はサラサラないが、どうもスヴィリデンコの発言はかなりウクライナ側の願望が入り込んでいるように思われる。合意に達する調整のなかで、ウクライナ側が主張して、それをアメリカ側が否定しなかったことは、受け入れられたことにして、ひたすら合意を目指したのではないかとすら思われる。おそらく、そうしなければこの時点での合意は得られなかっただろう。とくにウクライナNATOやEUへの参加は、ロシアとの交渉を遅滞させる最大の原因となるだろう。また、どこまで正確な報道かは分からないが、ゼレンスキーがクリミアを放棄することに同意したとのニュースも流れていた。こうした合意を急ぐために使われたテクニカルな外交のツケは、これから未解決問題として再浮上していくことになるだろう。