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東谷暁による「事件」に対する解釈論

中国軍の台湾攻撃は「侵攻」か「隔離」なのか;トランプの気まぐれが世界を危機に陥れる

トランプ大統領ウクライナ和平に積極的になって以降、台湾をめぐる状況は緊迫の度を高めている。それはそうだろう。トランプは世界平和を願ってウクライナの資源の権利を得ようとしているわけではなく、単に取引の材料のひとつにしているだけだ。そのいっぽうで、トランプの世界秩序を破壊する外交は、これまで曖昧戦略で維持されてきた台湾の地位を、根本的に変えてしまうとの懸念が生まれるのは当然だからである。


経済誌ジ・エコノミスト5月1日号は社説に「台湾をめぐる超大国間の危機が迫っている」を掲げて、台湾有事の特集を行っている。それはトランプの外交転換を見据えて、政治、経済、軍事、そして歴史におよぶ大きなものになっている。ウクライナの和平として行われているトランプの言動があれほど不安定なものであるなら、アメリカは台湾をめぐっても危険な取引を展開するだけでなく台湾放棄すら行いかねない。

そもそも、台湾に関するアメリカの姿勢は、1971年に中国が国連代表権を獲得したときから大きく転換した。もちろん、その背景にはキッシンジャーが主導したアクロバティックな外交があり、中国を国際社会に復帰させることで、当時は冷戦状態にあったソ連を牽制する戦略だった。台湾はアメリカに見捨てられた状態になったが、アメリカ議会は1979年に「台湾関係法」を成立させ、台湾の安全保障を支援することにして、タテマエとしては中国を国際社会の代表国としつつ、台湾に対しては他国による侵攻を許さないという「曖昧戦略」によってバランスをとろうとしたわけである。


これまでも台湾をめぐっては中国が独自の領土であることを主張して、何度も台湾海峡を含む近海で軍事演習を行って威嚇し、そのたびごとにアメリカが空母を派遣するなどして牽制するという関係が続いてきた。習近平国家主席となってからも「台湾との統一」あるいは「台湾併合」は彼の生涯の念願とされ、台湾近海に海軍を派遣する行為を続けて、台湾を威嚇してきた。台湾は独立をめざす民進党が政権をとっても、独立宣言をすればそれが台湾侵攻の口実を与えることを憂慮し、これもまた「曖昧戦略」に徹してきた。しかし、トランプ政権第2期の到来は、こうした構図を破壊するものになると見られている。


まず、前提として考えておくべきなのは、「台湾有事」という場合、それが「台湾侵攻」だけを意味するものではないということだ。中国が台湾を併合して統一を達成するといっても、それにはいくつかのやり方ありうる。もっとも暴力的なものが台湾侵攻であり、武力による統一ということになる。それにたいして、台湾の周囲を海軍力で包囲する「台湾隔離」によって台湾政府および台湾住人を威嚇し、事実上、台湾への支配を確立する戦略が、きわめて現実的な方法として注目されるようになってきた。この場合、台湾への威嚇を続けて孤立させ、政府および住民を恐怖かつ疲弊させることによって従わせるわけである。

今回の特集のなかの「中国の軍事演習は台湾封鎖を予兆している」によれば、次のような戦略である。「燃料と食料の大半を輸入に頼る台湾にとって、海上輸送途絶の脅威は不安を掻き立てるだろう。台湾は世界最先端の半導体90%を生産しており、台湾海峡は世界の主要な商業水路のひとつであることから、世界的な影響が生まれることが考えられる。補給路の遮断に関する議論は、威嚇的な演習や海底ケーブルの切断に加え、中国の情報戦にも拍車をかけることになる。中国のパワーを誇示し、台湾を疲弊させ、アメリカの防衛の限界を露呈させ、台湾の指導者に戦闘なしで降伏させることを目標としている」。


これまでの台湾有事の議論のなかで、「台湾は世界の半導体の大半を製造しているのだから、中国が台湾侵攻をするわけがない」というものがあった。これはクリス・ミラーの『半導体戦争』で広く普及した説だが、日本でも有名評論家が自分の意見であるかのように論じていた。私はこの説は最初から信用できなかった。それどころか、あまりの素朴さに失笑してしまった。

この説は、中国が台湾侵攻すると半導体製造のインフラを破壊するので、半導体を需要している中国にも多大の影響がでるからと説明するのだが、ウクライナ戦争を見れば分かるように、戦争というのは軍事的拠点の取り合いであって、その後に領域の占領が行われる。国土を全面的にローラーにかけて潰すのではない。そんなのは馬鹿げているし、まったく不可能である。あれほど徹底していたアメリカ空軍の東京空襲でも、国会と皇居はターゲットから外したように、戦後のことを考えて爆撃あるいは破壊するのが、現代の戦争では当然のことなのである。

現代の戦争の大きなファクターは威嚇・脅威であって、ローマ軍やモンゴル軍のような皆殺しではない。しかも、前述のような「隔離戦略」で台湾を降伏させることが目的となるなら、台湾そのものは部分的な攻撃しか受けないことになる。もちろん、こうした戦略を採用すれば、当面の時間とコストはかかることになる。その場合にはジ・エコノミストは触れていないが、アメリカが日本にしたように、台北ではなく別の都市あるいは原野を核攻撃してみせるという方法もある(事実、ウクライナ戦争でもロシアは核をこのように使うと予想されていた)。もちろん、このさいにも半導体インフラには影響がおよばないようにすることは、いまの中国の軍事技術ではなんということのない簡単なボタン操作にすぎない。


ここからがトランプ政権の問題となるが、この時間とコストのかかる作戦が有効だと判断するのは、その間、アメリカ軍が台湾軍を支援しないということが前提になっている。これまでも、台湾侵攻が始まったときにアメリカ軍がすぐに支援できるかどうかが議論されてきたし、それがどの時点でアメリカが支援を決定するかが問題となってきた。

おそらく、中国が台湾侵攻する場合でも中国軍はまず台湾周囲の小島をいくつも占領し、そこから台湾島への侵攻を始めるだろうと考えられてきた。そして、台湾に上陸してからはウクライナで行われたように、台湾軍は携帯の小型ミサイルで上陸軍に応戦して、台北への進軍を阻止することも想定されていたようである。しかし、トランプがあくまでも「アメリカファースト」あるいは「自国中心的MAGA」を貫くのなら時間はたっぷりあるわけだ。以下も、前出の「中国の軍事演習は台湾封鎖を予兆している」から引用してみよう。


「トランプの根っからの気まぐれが、台湾の安全保障をより(決定的に:東谷)危険なものにしている。ウクライナへの威圧や同盟国の軽視を考えると、彼がどれほど力を入れて台湾を防衛するのか、あるいはそもそも防衛に踏み切るのか、誰にも分からないのだ。トランプは台湾だけでなく、いかなる紛争にも協力してもらわなくてはならない日本、フィリピン、韓国からの製品にも、法外な関税を課すと警告している。中国との戦争でアメリカが被るコストは、中国の軍事力の増大と比例して着実に拡大している。アメリカの高官たちはいまや、中国を打ち負かすよりも中国の迅速な勝利を阻止することに賭けている。膨大な費用がかかる戦闘リスクが習近平を思いとどまらせるのを期待している」

ちょっと引用が長くなったが、ウクライナ戦争の和平も重要な課題だが、それに劣らないほど深刻なのが台湾をめぐるアメリカの危機管理であって、それは中国がよほどの冒険主義者でないかぎり、また、習近平の健康が急激に悪化でもしないかぎり、台湾侵攻よりも台湾封鎖あるいは台湾隔離の路線に向かうことはあきらかだろう。そして、その途上でトランプの気が変わってアメリカ軍を派遣する兆候を見せれば、すでに十分に準備ができているはずだから、台湾周辺の島々から本格的な台湾島侵攻に移行すると思われるのである。そのとき同時に日本にあるアメリカ軍および自衛隊の基地へのミサイルが発射されるのはいうまでもないことだ。