長引くかと思われたアメリカと中国の関税をめぐる交渉が、急転して大きな引き下げで決着した。もちろん、90日間という限定付きだが、ジュネーブで交渉に臨むベッセント米財務長官が「交渉のテーマを決めるための会談」と述べていたことからすれば、大きな進展といってよい。しかも、意外なことにアメリカ側のかなりの妥協が前提となっており、「米国の敗北」と報じるメディアもあるほどだ。もちろん、この背景には水面下の交渉がすでにあったことは明らかで、そうでなければこれほどの短期間で何らかの結果をだすのは不可能だったろう。

フィナンシャル紙より
英経済誌ジ・エコノミスト5月12日付の「アメリカは中国に不思議なほどの妥協をした」によれば、ジュネーブでの協議の中、ある記者が結果発表はいつなのかを尋ねたところ、中国の李成剛通商代表は、古いことわざを引用して答えたという。「美味しい料理におそすぎるということはない」。同誌は「5月12日にようやく出された料理は、おどろくほど美味しかった。アメリカが課した相互関税を少なくとも90日間、125%から10%まで下げるというものだったのだから」と述べている。
細部についてはすでに多くの報道がなされているが、ここでは同誌の次の部分に注目したい。「このジュネーブ合意には、中国当局による継続的な協議へのコミットメントがあったとベッセント財務長官は強調した。もしこのコミットメント(ベッセントはメカニズムと表現している)がすでに存在していたら、4月2日のトランプ大統領発表後に続いた不幸なエスカレーションは避けられたはずだと述べた。これは異例の告白というべきだった」。つまり、もっと早く米中は水面下の交渉をすべきだったというわけである。

フィナンシャル紙より:トランプは関税を積み上げていった
この水面下の交渉についてジ・エコノミストは具体的に述べていないが、英経済紙フィナンシャル・タイムズ5月12日付の「誰が先に動揺したのか? 米中はいかにして行き詰まりを打開したか」は、冒頭でこの経緯について触れている。「米中貿易の行き詰まりを打破するための最初の会合は、約3週間前にIMF本部の地下室で秘密裏に行われた。事情に詳しい関係者によれば、ワシントンでIMF会合に出席していたベッセント財務長官は、中国の藍仏安財務相と会談し、世界の二大経済大国間の貿易がほぼ完全に陥っている危機について話し合った」という。
同紙の記事はさらにこの会談について述べている。「これまで報道されていなかったこの秘密会談は、ドナルド・トランプ大統領の就任と関税戦争開始以来、米中当局者による最初の高官級会談となった。アメリカ財務相はこの秘密会談についてはコメントを控えた」。しかし、この後も秘密の協議は行われたと思われ、「協議は今週末のジュネーブで最高潮に達し、ベッセント財務長官と中国の何立峰国務院副総理は、それぞれの関税を90日間で115%削減する停戦に合意した」。

ベッセント財務長官の妥協はどこから出てきたか?
この急激に見えた停戦については、「どちらが先にひるんだか」という点について、かなり一致した見方がある。中国のソーシャルメディアが「アメリカがしり込みした」という投稿で一杯になるのは、まあ当然といってよいだろう。しかし、今回については、西側にもそれを認めるような論調があるのは、あまり意外な感じがしない。同紙はいくつかの「アメリカのしり込み」についてのコメントを紹介している。
「エコノミストたちは、アメリカが完全を急激かつ過度に引き上げたことで、やりすぎた可能性があるという点で一致している。『アメリカが先にひるんだ』と、フランスの投資銀行ナティクシスのアリシア・ガルシア=エレロは述べている。『アメリカは、関税をほぼ無制限に引き上げても打撃を与えないと考えていたが、それは正しいと証明されていない』と述べている」

米中関係は夜明けか、それとも夕暮れなのか
もちろん、どっちも何とかしたいと思っていたという説を述べる専門家も多い。「ワシントンのシンクタンク、民主主義防衛財団のグレイグ・シングルトンもまた、合意がいかに早く実現したかについては『驚くべきこと』と述べつつ、『双方とも自分たちが思っている以上に経済的に窮地に陥っていた』ことを推測している」。
もちろん、これで問題解決ではないことは間違いない。「美味しい料理」と評した前出のジ・エコノミスト誌ですら、そんなことは分かっている。「90日後に何が起こるかが大きな問題だ。ほとんどの貿易協定は交渉にはるかに長い時間がかかる。そしてアメリカはすでに他の16カ国と同時に合意を取り付けようとしている。ベッセント財務長官は、中国に課した関税がすでに無効になったわけではないと念を押した。一時停止の期間が終われば、アメリカはこの関税をデフォルト(規定のもの)として適用することになる」。