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東谷暁による「事件」に対する解釈論

トランプ日本製鉄のUSスチール買収を支持?;何が決まって、何が決まっていないのか

トランプ大統領ソーシャルメディアへの投稿で、これまで反対していた日本製鉄のUSスチール買収を「是認」する姿勢を見せたと報じられている。しかし、「買収」という言葉を使わないで「提携(パートナーシップ)」を使っており、また、中国への関税も80%が適切と投稿しておきながら、結果として90日間の10%と課税となった経緯をみても、これからどうブレるのか、ちょっと分からない。


トランプが日本製鉄のUSスチール買収を認めたというニュースが流れたとき、いちばん奇妙に思ったのは「買収」という言葉を使わないで「パートナーシップ」を使ったことだった。さらに、報道機関が使っている数値に「140億ドル」と「150億ドル」が混在していたことだ。これも日鉄の投資が「買収」に向けられるものなのか、「投資」に向けられるものなのか、バラバラに報じている印象があった。

まず、買収を認めるというのと、パートナーシップを認めるでは大違いである。前者は100%の株式買収、少なくとも51%の買収が可能になっていなくてはならない。また、後者の場合には49%でも成立してしまう言葉だろう。ましてや、具体的な話になってくると、突然、関税の80%を10%に変えてしまう大統領の投稿なのだから、日鉄が感謝のコメントを発表しているのは、ちょっと早まっているのではないかと思える。

日本経済新聞より:規模だけ見れば第4位が第24位を救済する話だ


まあ、USスチールのほうも、労働組合はお得意の「日鉄は違法を繰り返してきた」をまさに繰り返して述べているのに比べて、企業本体のほうは大統領に感謝のコメントをしていることをみれば、発表はしていないが水面下でもっと深い段階まで、トランプを関与させた交渉が展開しているのではないかとの推測をしたくなる。しかし、何でここまで大統領に感謝しなければならないのかと考えれば、トランプは他にもいろいろ条件を出しているので、牽制なのではないかとの疑いをもったほうがいいだろう。

さらに、前述のように数値が140%と150%と微妙なずれがあるのは、やはりおかしな報道だと見たほうがいいのではないか。まず、トランプの投稿を見てみよう。トランプは自分のソーシャルメディア「トゥルース・ソーシャル」に次のように投稿した。「これはUSスチールと日鉄の計画的パートナーシップであり、少なくとも7万人の雇用を創出し、アメリカに140億ドルの経済効果をもたらすことになる」。

ウォールストリート紙より


これはロイターの話を信じればということで、5月24日付のロイターはこうした引用を行ったうえで、「(われら)ロイターは今週、トランプ政権が同買収を承認した場合、日鉄がUSスチールの事業に140億ドルの投資を計画していると報じていた」と、自社のスクープを誇らしげに書いている。このロイター報道を、ほとんどそのまま報じたのが朝日新聞5月24日夕刊で、当然、140億ドルという数値しかでてこない。

しかし、たとえば英経済紙フィナンシャル・タイムズ5月24日付では「トランプ大統領は、バイデンが国会安全保障上の理由で阻止した、国境を超えた取引への反対を覆し、日本製鉄によるUSスチールの150億ドルの買収取引を大筋で支持した」と始めている。では、140億ドルはないのかといえば、トランプのトゥルース・ソーシャルへの投稿について「この追加投資のほとんどは今後14カ月以内に実施されると付け加えた」と述べている。つまり、150億ドルはUSスチール買収費で、140憶ドルは追加投資である、その行き先は分からないと解することができる。

ウォールストリート紙より

 

こうした見方は米経済紙ウォール・ストリート・ジャーナル4月23日付とは異なっていて、ウォール紙は「トランプ大統領はこの合意をパートナーシップと定義し、金曜日の午後、両者に混乱を招いた。日本製鉄とUSスチールはともに、政権からのさらなる支持を求めていた」と述べ、「トランプは投稿で、両者の提携により少なくとも7万人の雇用が創出され、アメリカ経済に140億ドルの効果がもたらされると述べた」と説明している。実は、同記事内では「日鉄がアメリカ鉄鋼市場に参入し、USスチールを141億ドルで買収した際に構想していた大規模投資」とも述べているので、買収費は141億ドル、追加投資が140億ドルという認識であることが分かる。

どうも分かりにくいが、朝日は3面の記事で「この『140億ドル』という数字は、日鉄による『買収承認獲得に向けた最後の一手』としてロイター通信などが報じていた投資額と一致する。USスチールの買収計画が認められれば、日鉄はUSスチールの工場などへの投資額を積み増す方針だと伝えられた」と述べて、追加投資はおもに買収したUSスチールの施設などへのものだと推測していることが分かる。さらに同紙はこうした追加投資は当初は14億ドルだったが、それが10倍になったとも述べている。


では、買収費用、つまり株式買収費はどのくらいなのか。これは100%買収なのか、51%なのか、49%にとどまるのか、あるいはもっと少ないのかによって変わるわけである。日本経済新聞5月24日付が「ただ買収の枠組みの詳しい中身は不明だ。実現に向け詰めの作業が必要になる可能性がある」と指摘しているが、可能性どころかそこが肝心なわけだが、150億ドル、141億ドル、その半分以下もありうる。

まあ、ざっと考えてトランプが投稿で「パートナーシップ」といっていることを考えれば、完全子会社化の100%や経営権完全確保の51%でない「可能性」が高いだろう。もちろん、トランプの気まぐれは予想つかないが、彼としては国内向け、とくにUSスチール労働組合、さらには他業種のプアーホワイトなどにアピールする必要があることを考慮すれば、完全子会社化ではありえないと見たほうが、精神衛生上はいいようだ。