ウクライナが行った6月1日のロシア国内の軍用飛行場へのドローン攻撃は、大きなインパクトを持ったと報じられている。イスタンブールで停戦交渉を始めようとする時点での攻撃であることも衝撃的だったが、破壊した爆撃機の数もかなりのものだとされた。そして、もっとも大きいのはウクライナとの国境から5500キロも離れた飛行場を攻撃したことである。もちろん、こうした事態に対してはウクライナとロシアでは反応がまったく異なることは当然のことだが、複数の軍事研究機関の情報も加えてじっくり見てみよう。

ウクライナ軍はドローンによる爆撃機攻撃によってロシア軍に報復した
ウクライナ軍は、空襲に使われる戦略爆撃機の拠点であるロシア国内の4つの飛行場に対して、大規模なドローン攻撃を行ったと発表した。ウクライナ当局の発表では4つの基地にあったロシア軍機41機が攻撃を受けたという。フィナンシャルタイムズ6月1日付によれば、この攻撃はウクライナ戦争でも最も大胆かつ大規模な攻撃だといわれた。その後、数日たって追加の情報が得られた時点で、フィナンシャルタイムズ6月4日付が「壮大な失態:ロシア、ウクライナによる爆撃機部隊への奇襲に動揺」を掲載した。
今の時点(6月5日)での情報で振り返ってみよう。ウクライナ軍は木製コンテナを搭載したトラックによって、ドローンをウクライナ国内に「密輸」し、それぞれの飛行場の近くに到達してから、コンテナをひらいてドローンを発射したらしい。そのドローンの数はトラック1台につき117機だったとされ、虚を突かれたロシア軍は十分な応戦ができず、戦略的に重要な爆撃機をかなりの数を破壊されたという。

フィナンシャル紙より:木製のコンテナを積んだトラックで「密輸」
「おそらくウクライナ政府にとって最も重要なのは、ウクライナがイスタンブールでのロシアとの停戦交渉の前夜に、戦場の力学を変化させる能力があることを示し、西側諸国の兵器を使用しなくても(ドローンはウクライナ製である)、ロシア領内の奥深く入り込んで攻撃できるという新しい現実を、クレムリンに受け入れさせることができたことである」(フィナンシャル紙6月4日付)
カーネギー国際平和財団の軍事アナリストであるマイケル・コフマンは、「ウクライナの攻撃は間違いなくロシアの常時の攻撃能力を低下させた。ロシアが代替するには苦労する軍用機を破壊することに成功した」と述べている。さらにコフマンは「ロシアの爆撃部隊の規模を考えれば、ウクライナの攻撃を止めるには十分でないかもしれないが、戦争を継続することはロシアにとって新たな犠牲がともなうことを示した」と付け加えている。

フィナンシャル紙より:いちばん右のベラヤ飛行場は国境から5500キロある
ただし、ロシアがどれくらいの被害を受けたかについては、当然のことながら、それぞれの立場で大きく異なっている。まず、ウクライナ軍は40機以上の軍用機が破壊あるいは損傷されたと主張している。これに対してロシア軍は数機の航空機が火災の影響を受けたとしている。そして、オープンソースの情報に基づく研究者たちの評価では、実際に破壊または損傷したのは10機から12機程度と示唆されているという。
かなりの差があって判断が難しいが、同紙4日付はたとえ10機から12機の損害であっても「作戦面および政治面で、ロシアのウクライナ戦争における継続努力に大きな影響を与えることになる」と見ている。まず、「複数の軍事アナリストが本紙に語ったところによると、攻撃によって破壊・損傷された軍用機は、ロシアの作戦可能な長期距離機の約20%を占めているという。これらの軍用機は長距離を飛行し、敵対国の奥深くまで重量のある貨物を輸送するように設計されていたので、影響はやはり大きい」。

フィナンシャル紙より:左はベラヤ飛行場5月17日、右は6月2日の衛星写真
オスロ大学のファビアン・ホフマンによれば、「多くの爆撃機が整備中だったものの、これらの軍用機は最も使用頻度の高い機体であり、今回の損失はとくに大きな損害をもたらした」と述べている。また、元NATO軍備管理担当官で現在スティムソン・センターに所属するウィリアム・アルバークは「ロシアは最近の大規模攻撃を含め、ウクライナの民間人を標的とした攻撃に、今回標的にされた爆撃機を使っている。これは報復であり、将来の攻撃を牽制するための手段だった」と説明している。これはまだ序の口かもしれない。
いっぽう、ロシア側の反応は表だったものはないが、同紙によれば恐らく、ウクライナ戦に投入できる爆撃機の数が減ることは間違いなく、戦術の変更を検討するかもしれないという。当面の対処としては、今回の教訓から、少し前のウクライナ攻撃のさいに行ったように、爆撃機を何カ所かに集結させることには高いリスクが伴うことが明らかになったことから、それを避けるようになるかもしれない。そしてそれは、「ウクライナの防衛網を圧倒して攻撃する能力が落ちることを意味する」とアルバークは述べている。

フィナンシャル紙より:爆撃機120機のうち10機から12機が損害を受けた
ウクライナのシンクタンク、ラムズコフ・センターの軍事アナリストであるオレクシー・メルニクは、今回の事態について、「専門家の観点からすれば、これはロシアの大失策だ。ロシアはいくつかの非常に困難な問題に対応せざるをえず、この事態をもたらしたことについて、誰かに責任を取らせることになるだろう」とコメントしている。ロシアは核戦略について改訂したばかりで、この分野への影響はそれほどでないとの指摘もあるが、いっぽうで、核兵器の発射が陸上・海上・空中の3種類あるが、この事件によって空母への依存(つまり海上からの発射)の比重が高まるとの説もあるとのことだ。

もちろん、この長距離攻撃の成功で、ウクライナが優勢になったわけではない
もうひとつ、フィナンシャル紙6月4日付が取り上げていることで特に注目すべきは、今回のウクライナ軍による攻撃がロシア側に与えた、空間認識上の大きな衝撃であるかもしれない。ロシアを侵略した外国の軍隊は、たいがいその国土の広さの前に、最終的には制圧することができなかった。前出のアルバークは次のように指摘している。「ロシアの国民の間には、国土の広大さが自国の戦略的な奥行きを持たせているという認識があった。つまり、ロシアには歴史的にみて戦略上における聖域があった。しかし、今回のウクライナ軍による攻撃は、その認識上の聖域を突いたのである」。