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東谷暁による「事件」に対する解釈論

イランはこれからどうするのか?;米国の監視下に甘んじるのか、なおも核武装を目指すのか

アメリカによるイラン核施設への攻撃は、もちろん大きな被害を与えたが、その「評価」については大きく分かれている。アメリカ国防情報局によれば、イランの核開発は数か月の遅れを生じるだろうが、トランプ大統領が宣言したような「完全な成功」とはいえないというものだった。ホワイトハウスはこの見解に対して、かなり反発しているが、イラン側の情報がないので確かなことはいえない。しかし、核施設への攻撃の正しい評価は、イランのこれからの出方を考えるさい、大きなファクターとして扱う必要があるのは間違いない。


アメリカの情報機関による初期報告書は、ドナルド・トランプ大統領が命じたイランの核施設への空爆によって、イランの核開発計画は数か月遅れたものの、消滅にはいたらなかったと評価している。報告書に詳しい3人の関係者によると、この報告書は、トランプ大統領と側近たちの、この作戦に関する成功との主張とは矛盾している」(ワシントン・ポスト6月25日付「米国の破壊についての初期報告書:イラン核開発計画は数か月の遅れを生じるが、消滅はしていない」)

ワシントンポストより:爆撃の穴が核施設から離れたところにある。これはいったいどういう意味があるのだろうか?


今回の作戦は、B-2に搭載された地中貫通爆弾と、潜水艦が発射したトマフォークミサイルによって、フォルドゥ、ナタンズ、イスパハーンの核施設を破壊するものだった。ワシントン紙が根拠としているのは、国防総省の初期破壊評価に基づく国防情報局の秘密報告書だという。「関係者の1人は、今回の攻撃でイランの核開発計画の中心部分は破壊されず、イランの核開発計画は、おそらく数年ではなく、数か月の遅れと評価していると述べた」。また、次のような同紙の指摘は傾聴に値するだろう。

「核不拡散の専門家や兵器アナリストは、長年の間、イランの数十年にわたる核インフラを爆撃だけで除去するのはほとんど不可能だと指摘してきた。イスラエルも6月13日に開始した攻撃で、ナタンズやイスパハーンの施設を含むイランの核計画にかかわる多くの箇所を標的にせざるをえなかった」

それ以外にも、この情報機関の報告書では、イランがアメリカの攻撃前に核施設から複数のコンテナで高濃縮ウランを移動させており、ウラン備蓄は影響を受けていないと指摘されているという。こうした情報は関係者が匿名を条件に語ったものであり、公式の情報でないことはいうまでもないが、それが本当だとすれば、そこから世界にとってどのような意味が生まれるだろうか。

フィナンシャル紙より


この点について、英経済誌ジ・エコノミスト電子版6月25日付に、オバマ政権でホワイトハウスの軍備管理担当官を務めたゲイリー・サモアが「イランの核計画には将来があるか」を寄稿している。このなかでサモアは「イランの核施設は深刻な被害を受けているものの、依然として大量の濃縮ウランを保有している。IAEAによればイランは約5000キログラムの低濃縮ウランと約400キログラムの60%濃縮ウランが含まれていて、これをさらに濃縮すれば核兵器10個分の90%のウランが製造できる」と述べている。

さらにサモアは、「この濃縮ウランの大部分は、アメリカの爆弾投下前にイランがフォルドゥから撤退させたとみられる機器の一部とともに、秘密の場所に移されている可能性が高い」とも指摘している。しかし、サモアはそのことをもって、イランが核兵器を容易に作れるとは見ていない。「ナタンズとフォルドゥの主要な濃縮施設、そしてイスパハーンの関連施設は、もはや稼働していない」のであり、「イスラエルは特殊な設備を備えたイラクの生産施設を破壊している」ので、「高度な遠心分離機の新たな製造は困難だろう」という。可能なのは、これまで知られていない小規模な施設で、地道に少しずつ濃縮を続けることだという。

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こうした技術的な問題は、イランにとってかなり不利になっているのが明らかなので、サモアはイランは大きな2つの選択を迫られるという。ひとつはアメリカの監視下で核兵器の製造はあきらめて平和利用に向かう決断をすること。もうひとつはNPT(核拡散防止条約)を脱退してアメリカと西側の監視から自由になり核開発を加速することである。後者を選んだ場合にも、いまの状態からすればそれほど早く核兵器を持てるかは疑問だという。なぜなら、アメリカとイスラエルのスパイ活動を含む核開発阻止活動による大きな制約を受けるからである。

「NPT離脱をすればイランは制裁や輸出規制の対象となりやすく、核開発の再構築に必要な物資や設備の調達が制限される。また、アメリカとイスラエルにとって、将来の武力行使を正当化しやすくなるだろう。こうしたリスクを考えると、イランはNPTにとどまり国際査察の下で原子力の平和利用に向かうほうが利口かもしれない。しかし、今回の戦争が示したように、そのようなアプローチをとったとしても、(アメリカやイスラエルの)ウラン濃縮施設への攻撃を防ぐ保証が生まれるわけではないのである」

もちろん、こうした棘の道を承知のうえで、北朝鮮のようにNPTを離脱して、国民生活が困窮するのを受け入れつつ、核武装するという選択肢もないわけではない。しかし、それははたして9000万人を擁する、中東のなかの大国が採用することのできる未来なのだろうか。そこまでイランはやらないし、できないのではないかと考えてしまうが、それは日本という「平和国家」にどっぷりつかり、イランという国家や国民の価値観、さらには宗教的国家という側面を熟慮していないからかもしれないのである。