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東谷暁による「事件」に対する解釈論

トランプのエゴがイランを爆撃させた;スティーヴン・ウォルト教授が分析する「12日戦争」の理由

トランプ大統領にとって、今回の「12日戦争」とは何だったのか。イスラエルのイラン攻撃をやめさせるどころか、逆にイスラエルができない地中の核施設への爆撃を買って出て、根拠もなく「完全な成功」と述べ立てている。しかし、アメリカ国防情報部の最初の報告書にあるように、イランの核施設は完全には破壊しておらず、備蓄された濃縮ウランは爆撃前に運びさられていた可能性が高い。はたしてトランプのアメリカは何処に行こうとしているのか。


ハーバード大学教授のスティーヴン・ウォルトは、外交誌フォーリン・ポリシー電子版6月26日付に「トランプのエゴのための戦争」を寄稿している。トランプが断行したイラン核施設への爆撃は、アメリカの安全のためでも、またアメリカの繁栄ためでも、さらに中東の安定化のためでもなく、たんにトランプ自身の欲望を満たすためのショーだったというのだ。少し長くなるのでまず、結論の部分を引用しておこう。

「ひとことでいって、この戦争はほとんどがトランプ大統領のエゴと、すべてを仕切っているように見せたいという彼の欲望のためのものだった。古いといわれるかもしれないが、私はこうした理由で戦争を行うのは、ひじょうに間違っていると思う。これから明らかになるように、トランプ大統領のこの失策というしかない戦争の長期的な結果をみれば、そのことが理解していただけることだろう」


そもそも、「イランは核兵器を手にする一歩手前にある」というのが嘘だった。それは国家情報長官であるトゥルシ・ギャバードが議会で証言したように、イランは濃縮ウランを備蓄してはいても、それを原爆の形にするにはまだ間があり、しかも、実際に使うためには、さらにそれを小型化しなければならなかった。そんなことが数週間でできるわけがない。しかし、呆れたことにトランプ政権はギャバードに圧力をかけて証言を撤回させてしまったのである。

しかも、核拡散の研究者であったケネス・ウォルツが、生前最後の論文で述べたように、もし、イランが核兵器保有したとすれば、そのほうがイスラエルだけが保有しているいまの状態より、ずっと安定した状況が生まれる可能性すらあった。ウォルツの理論そのものには疑問の余地もあるが、すくなくともイランの核兵器保有が、すぐにも世界を大混乱に陥れるという説は、いまのイランの核開発の段階からいってとほうもない誇張といえた。


トランプは今回のイラン核施設爆撃を「12日戦争」と呼んで、イスラエルがかつて行った「6日戦争」の栄光になぞらえているようだが、逆にこの攻撃がイランの核兵器保有を加速してしまう可能性がある。いま手に入る初期報告によれば、「バンカーバスターによる爆撃は、せいぜいイランの核計画を数か月遅らせたにすぎない」。また、これまで備蓄された「濃縮ウランは爆撃前にすでに分散され隠蔽されている」のである。

この戦争がイランの核兵器製造を阻止するための試みではなかったとすれば、もっと別の理由を考えてみたほうがよい。もともと、この戦争はイスラエルのネタニヤフが始めたわけだが、彼が派手に見えるが杜撰な戦争に踏み込んだ理由があるとすれば、それはガザ地区で行われている戦争犯罪から世界の目をそらすためだろう。もうひとつの理由としては、アメリカが始めたイランとの協議を阻止するためで、イスラエルアメリカの支援をこれからも得るには、アメリカとイランが協議で合意してしまっては困るわけである。


こうした推測は十分に成り立つのだが、ではなぜトランプがネタニヤフの戦争を支援するだけでなく、自らが乗り出してアメリカをイランとの戦争に引っ張って行ってしまったかの根拠としては弱い。その観点からして、やはり思い出しておくべきなのが、アメリカの中東政策を大きく左右してきた「イスラエル・ロビー」の存在だろう。イスラエル・ロビーは親イスラエル派のアメリカ系ユダヤ人と福音派キリスト教シオニストからなっているが、彼らはイスラエルの中東における繁栄を強く望んでいるわけである。

さらに、イスラエル・ロビーの存在は大きなファクターだが、そのうえで今回の戦争について考えるにはもうひとつ別の決定的なファクターに注目しなければならない。それは今回の戦争の最終決定者はトランプであったことだ。トランプの言動に明らかなように、彼には常に注目の的になっていたいという強い願望が存在する。「トランプは全世界に自分の一挙手一投足を見てもらい、あれこれ論評してもらって、そして最終的には称賛してもらいたいとの強い欲望がある」。


もちろん、政治家に強い顕示欲があるのは当然なのだが、トランプの場合には「真の外交努力によって、アメリカをより安全で豊かにし、より影響力のある国にするといったことにはそれほど関心をもたない。なぜならそのためには真剣な努力が必要だからだ。トランプが望んでいるのは、自分や取り巻きが私服を肥やしている間に、偉業を成し遂げているように見せかけたいだけだ」。

こうしたトランプの傾向は、彼の経歴を知っている人には簡単に理解できる。「トランプのキャリアは、自分が実際とは違う何者かであるように、何百万人もの人たちに信じ込ませる、恐るべき能力にもとづいている。彼はありふれたビジネスマンだったが、新しいカモに金を貸すように巧みに説得し、テレビで成功した大物実業家を見事に演じることに優れていた」。現代アメリカの政治は、トランプのような人物のために作られたものであり、その野心と真実を軽視する性格は、イメージやクリック数が最も重視される世界にぴったりと合っていると、ウォルトは述べている。その後に、冒頭の引用部分がくる。