これほどの暴政と失敗を重ねているのに、どうしてアメリカ国民はトランプを見放さないのだろうか。アメリカ社会自体が変わってしまったからだとか、世界の構造が変わったからだとか、トランプは実は国民の心を読む天才だとかいう答えが用意されている。しかし、おそらくこれからアメリカ国民は再びインフレを経験することになる。また、すぐにやめさせるといったウクライナ戦争も、イスラエルの暴走であるガザ虐殺も、やめさせることができないまま、さらなる混乱が加速するだろう。そしてまさに政権の核とされるMAGA運動がいくつもの矛盾を露呈して分裂の危機を迎えている。

遠くから眺めれば立派?
もちろん、アメリカ国内では民主党系の政治家とか評論家は激しく攻撃しているし、また、世界中の国が相互関税とかで経済への不安を加速されているから、批判がないわけではない。そして、ようやく幼児虐待がらみのエプスタイン事件のために、トランプ政権の核となっているMAGA派(アメリカを再び偉大に運動の推進者たち)から、トランプへの不満がじわじわと出てきている。しかし、それでも納得できない人が多いと思われるので、今回は現状を読めるデータ付きの興味深い記事を紹介しておきたい。
英経済誌ジ・エコノミスト8月5日付の「MAGAによるイスラエル問題についての幻滅」は、ジョージア州選出の共和党下院議員マージョリー・テイラー・グリーンのイスラエル政策に対する抗議を取り上げている。トランプ大統領に対する多くの大きな疑問からすると、大きいかもしれないが単なるひとつの問題についての紹介とデータにすぎないと受け止める人が多いかもしれない。しかし、それは一例ではあっても激しいものであり、過激派といわれるグリーン議員だから言えたものという意味でも大いに注目に値する。

グリーン共和党下院議員。MAGA派のひとりだった
まず、彼女の7月31日付のX投稿から紹介しよう。「わたしたちはもちろんイスラム過激派のテロリズムには反対だが、(イスラエルが行っている)ジェノサイドにも反対だ」。この投稿についてディリーメールのインタビューでも次のように繰り返した。「罪のない人びとが、何の抵抗もないまま組織的に殺されている。それはジェノサイド以外の何物でもないのではないか? 共和党員でそういっているのは私一人なのだが、どうしてそうなのか、わたしには理解できない」。イスラエルを非難するのにジェノサイドという言葉を使ったことでも注目されたが、それが共和党議員であることも人びとを驚かせた。
ジ・エコノミスト誌は彼女について「自己宣伝に余念のない厄介者」と見られていることも認めつつ、こうした一連のイスラエルについて発言が、他のMAGAメンバーにも反響を呼んでいることを指摘している。同誌によれば転換点は、6月のイスラエル・イラン12日間戦争であり、グリーンの発言はトランプ大統領第一期の顧問スティーブ・バノンが「アメリカが中東で再び金のかかる悲惨な戦いに巻き込まれること」を憂慮していたことを思い出させるものだった。

トランプはイスラエル問題でもまったく一貫性がなく、先月、一時的にイスラエルに同調してイランを激しく爆撃した後、停戦協定を破ったイスラエルのネタニヤフ首相をカメラの前で激しく非難している。また、トランプはガザ紛争の責任はハマスにあると非難しているいっぽうで、パレスチナ人の飢餓を嘆いて見せているのである。いっぽう、前出のバノンは政治電子雑誌ポリティコで次のように語って、MAGA運動支持層全体でイスラエルとの同盟について見方が変わってきたことを示唆している。
「30歳未満のMAGA支持層にとって、イスラエルへの支持はほとんどないようだ。ネタニヤフ首相は、アメリカを再び中東戦争に巻き込むことで、みずからの政治的保身をはかろうとしているが、その試みは高齢のMAGA支持者の大部分を、イスラエルから遠ざけてしまった」

リベラル系はパレスチナ支持が急増。保守系でもイスラエル支持低下の傾向が顕著に
エコノミストの依頼で調査会社ユーガブが行った最新の世論調査によると、「保守派」または「非常に保守派」を自称する人びとの間で、イスラエルへの支持は依然として強いものの、低下していることは否定できない。4月に発表された調査機関ピューの調査では、イスラエルに対する否定的な見方が18歳~49歳の若い共和党支持者の間で最も顕著である。前出ユーガブによる世論調査では、アメリカ全土でイスラエルへの支持が低下している。当然ながら、幻滅は民主党支持者の間で最も深刻であり、「リベラル派」「非常にリベラル派」の大多数は、現在、イスラエルよりパレスチナに同情を表明する傾向が強い。
トランプの外交は思い付きとしか言えないものが多く、最近のブラジルやインドへの関税上積みについても、本当にどれほどの影響が与えられるかについてすら明確でない。締めくくりに、前出のグリーンの言葉を引用しておく。「共和党はいまネオコンに回帰してしまって、私はそのなかで孤立している。共和党がわたしから離れていくのか、それともわたしが前のように共和党と親しくできなくなっているのかは分からないけれど」。

元顧問のバノン。イスラエルに対しては懐疑的
ここで紹介したのは、イスラエルのガザ虐殺問題についてだけの共和党における分裂の一例にすぎない。同時に進行しているのが幼児虐待で有罪となり自殺したエプスタイン問題をめぐる分裂である。もともとMAGA運動といっても何かしっかりした核があったわけではない。それはTECK派についても同じだった。トランプは寄る者は追わず、どんな有力者に対しても、彼らが喜ぶことをでまかせで口にしてきただけなのである。その最初の大きな分裂がイーロン・マスクの離脱だった。いよいよ政権も7カ月をすぎて、具体的な問題に直面するにつれて、MAGA運動の持久力に疑問符がついている。しかし、それが国政だけでなく外交にも反映していけば、世界はさらなる混乱に直面することになる。