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東谷暁による「事件」に対する解釈論

トランプのウクライナ和平交渉はデタラメだ!;スティーヴン・ウォルト教授が慨嘆する「観光外交」の低劣さ

トランプ大統領ウクライナをめぐる外交は、何か成果をあげることができるのだろうか。もうすでに見えてきたように、プーチンはよほどの成果を得られないかぎり、トランプのまいた種になどに食いついてこない。それは種の撒き方が間違っているだけでなく、目の前の畑に何の種を撒けばいいのか、まったく分かっていないからだ。ハーバード大学のスティーヴン・ウォルト教授が、ウクライナ戦争の本質を再論しつつ、あるべきだった外交について慨嘆しつつ論じる。

アラスカでは、トランプは虚ろでプーチンがキビキビしていた


ドナルド・トランプはとんでもない交渉者であり譲歩の達人であることを、改めて思い知らされたのが8月15日のウクライナ和平をめぐるトランプの外交だった。トランプは準備を怠り、部下に事前に布石を打たせることもなく、会議に臨むたびに自分が何を望んでいるのかすら分からず、したがって何を譲歩すべきなのかも分からなかった。戦略もなければ細部にも考えが及ばないため、行き当たりばったりしかできないのである」

冒頭からウォルトは罵詈雑言をトランプに投げつけているが、それも無理ないだろう。そもそも、トランプの「外交」と呼ばれている海外旅行は、ただの観光旅行かお祭りのようなものだからだ。ウォルトにいわせれば「トランプが求めているのは、自分が主導権を握っていることを表現するドラマチックなビジュアルだけなのだ」。すべてではないにしても、交渉の内容とか協定の条文とかは「あくまでも二次的なものにすぎない」。そもそもなぜウクライナ戦争がいまにいたるも停戦に至っていないのか、それすら分かっていない。

ヨーロッパの首脳たちとウクライナ対策を語ったのか?


「根本の問題はロシアと西側諸国のモチベーションがまったく非対称で、前提からして違いすぎるからである。しかし、このギャップこそがリアリストと呼ばれる政治学者たちが、2014年にこの道を進むべきではないと警告した理由でもあった。プーチン大統領が今回のウクライナ侵攻という行動に打って出た理由は、さまざまあるにしても最も重要なのは、ウクライナNATOに加盟させてしまうとロシアは存亡の危機に直面せざるを得ないという、ロシアが絶対に妥協ができない戦略スタンスに抵触してしまうからだった」

これは日本でも「戦争はすべていけないことだ」という人を含めて、「いくらプーチンでもそんなにNATOを怖わがるわけはないだろう」と考える人がけっこう多い。ウクライナNATOに加わって困るなら、自分たちも加わればいいだろうと、一見、常識的な考え方であるかのようにコメントする人もいる。それどころが、西側が流布した「プーチンはヨーロッパ征服を狙っており、その次は世界支配に取り掛かる」というプロパガンダを信じている人もいるほどだ。いまのロシアの経済力と人口で世界を支配できるわけがないだろう。

驚くのはトランプがいまも精力的に動き回っていることだ


「この問題についていまも西側諸国は、彼らの外交政策にかかわるエリートたちが、NATOの無期限拡大を推進し、特に2008年にウクライナジョージアグルジア)に対して、将来の加盟申請準備を始めるように促したことが、戦略的な失策であったことを認めていない。これこそが、プーチン大統領が和平協定で対処すべきだと主張している『根本的原因』における最重要点なのであり、しかも、西側のNATO拡大派はそのことを、いまも最も激しく否定あるいは無視しようとしているのである」

こうしたロシアおよびプーチンに対する認識こそが、ウクライナ問題について考えるさいに、理想を掲げて世界を見まわし、その理想が実現すれば世界が平和になると思う人たちが、なかなか認めようとしないものなのだ。そしてまた、国際社会や戦争について理想主義で対応している人たちは、和平のためには理想主義的な発想が邪魔になることがあるという現実に対して、「それはリアルポリティクスだろ」とか「なんだ現実主義者なのか」とかの「侮蔑の言葉」を投げつけたがる。

トランプは世界ポピュリスト連盟でも結成すればいいのでは?


では、トランプ大統領プーチンと会談したとき、プーチンが望んでいることをすべてかなえてやればよかったのだろうか。そこまでやらなくとも、たとえば、プーチンが要求していることに賛同し、さらに直後に開かれたホワイスハウスでの欧州諸国の首脳との会議で、彼らがロシアに対抗するための援助を求める嘆願を冷たく拒否すればよかったのだろうか。スティーヴン・ウォルトはもちろん「答えはノー!だ」と述べている。

ここらへんが微妙なので混乱する読者もいるかもしれないが、「プーチンが述べているNATO加盟国からのアメリカ軍の撤退やウクライナの『非ナチ化』(つまり現政権の排除)といった要求は、即座に拒否されるべきである」とウォルトはためらうことなく述べている。「ロシアが将来的にウクライナに駐留するかもしれない外国勢力から自国を防衛したいと主張するなら、同様にウクライナのほうもロシアの新たな攻撃から守られねばならないし、そのための手段を与えられるべきなのだ」。

プーチンは終始薄笑みを浮かべた表情をしていた


ここでウォルトが特記しているのが2つの注意事項である。まず、NATOの第5条について勝手な解釈をして、それでウクライナの平和が担保されたと思い込む危険についてである。「第一に、NATO条約の第5条は完全な安全保障の制約ではなく、単に攻撃を受けた国については集団的に『必要と考える行動』をとると述べているだけなのである」。そして、それに続けて、「第二に、トランプがウクライナについての安全保障について同意したしても、いったい誰が信用するだろうか」と強調している。トランプはこれまでの生涯において約束をいくらでも破ってきた人物なのだから、彼がひとりで勝手に外国に行って約束したことも破る可能性があるというのだ。

「最良の合意を得るための最善の方法は、米国がヨーロッパとの協調体制を維持し、NATOウクライナに寛大な軍事支援を継続し、ウクライナアメリカが双方の交渉状況を現実的に評価したうえで、ロシアとの真剣かつ綿密な準備に基づいた交渉を進めることである。まかりまちがっても、交渉を行う人物として、ペンシルベニア通りの1600番地などにはいくべきではないのだ」

いうまでもなく、このワシントンのペンシルベニヤ通り1600番地とは、トランプの王の白いお城となってしまった「ホワイトハウス」の所在地である。