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東谷暁による「事件」に対する解釈論

関税を15%に下げるために払った代償;赤澤大臣がサインした文書の中身を読む

赤澤経済再生相がアメリカ側と文書を交わして、ようやくのことで当初口約束していた15%まで関税を下げることができた。日本では株価が上昇するなど安心ムードが広がったが、それは相変わらずのお人よしで楽観的な国民性のなせるわざというしかない。忘れてならないのは、15%まで下げるために払うことになる代償があることで、それはすでに口約束の段階で盛り込まれていた5500億ドルの投資、その90%はアメリカがとるという、はなはだ不平等なものだ。今回の文書化のさいそれは入ったのか? そしてその中身は?


英経済紙フィナンシャルタイムズ9月5日付は「トランプ大統領、日本との合意後、日本の対米5500億ドル投資を指示する」を掲載した。大半はこれまでの経緯の繰り返しだが、未公開覚書の内容が入っているのでぜひ紹介したい。当然、日本のジャーナリズムも報じていると思うのだが、私はまだ見つけていないので、多少の価値はあるかもしれない。

まず、繰り返しの部分だが、「トランプが世界第4位の経済大国との間で合意した異例の協定は、関税軽減を得るためにアメリカの貿易相手国がとるべき並外れた努力を確認している」と同情まじりのフレーズで始まっている。さらに「対米輸出品に25%を課せられていたが、こんどの正式合意で15%に引き下げられた」とある。さて、それからが注目すべき文章が続いている。


「日本の政府関係者はこれまで対米投資による収益を、ワシントンとどう分配するかについてトランプ政権の関係者とは異なる説明をしていて、各国の投資規模に応じて分配額が決まるなどとしていた」。しかし、「フィナンシャル紙が確認した新しい覚書によれば、アメリカは日本による投資5500億ドル相当から得られる利益のかなりの部分を得ることになっている」。これはちょっと同紙が勘違いしていて、たしか、アメリカが90%を取るということは日本でも報じられている。しかし、驚くべきことは次の部分にもある。

「今度の覚書によれば、ハワード・ラトニック米商務長官が委員会を務める投資委員会から提示される投資プロジェクトの最終決定権はトランプ大統領に与えられることになるという」。何がなんでもトランプが決めるのである。いっぽうで、「覚書にはまた、投資委員会は可能なかぎり、投資対象となるようなプロジェクトに『商品やサービスを提供する』日本のサプライヤーを選ぶよう努めるべきであるとも記されている」のだが、それは文面からも分かるように、あくまでアメリカ側の努力目標であって、交渉のさいの日本側の要望がかろうじて残されたものと思われる。

 

それだけではない、トランプの日本に対する対応は、まあ、他の国に対しても同じようなものだが、「もっとも親密な国」に対してのものとしては無礼なものだろう。同紙はここでも同情的に書いている。「この覚書はトランプが正式に貿易協定を発効させた9月5日に署名されたものだが、日本に対して大統領が指定したプロジェクトに資金を提供する期限をわずか45日以内と決めており、もしそうしなければ高額な関税が再導入されることになっている」。日本側にとっては慌ただしくきわどいスケジュール設定が要求されているわけである。

要するにトランプが自分の損得で決めて、それをラトニックに示唆し、投資委員会が決定したことにするという、アメリカ国王様のご託宣なのである。そしてトランプ王が取り巻きに指示をだして、自分に利益になるような選択をさせるぞ、もし資金をわしのしたしい企業につぎ込まないと高関税を復活させるぞよ、という脅しに他ならない。トランプにすりよる日米の企業は、いまお土産になにをもっていこうかと考えていることだろう。もちろん、この結果は自虐的な赤澤大臣のせいでも、また辞めない石破首相のせいでもない。(もちろん、辞任覚悟で、あるいはアメリカとの交渉決裂覚悟でやれば、異なる結果がでたと思われるが、それは関税15%ではすまなかっただろう。これはまともな国家間の交渉ではない)。

この極端な不平等貿易協定は、明治政府が味わった屈辱を思い出させるものだが、世の中には能天気な人もいて、アメリカの証券会社に勤める日本人エコノミストは「この取り組みは調達比率しだいでは、中長期的には日本の輸出にプラスの影響を与える可能性がある」と発言しているようだ。あらゆるものに「可能性」はあるから、嘘や偽りではないだろうが、その可能性の確度はきわめて低いだろう。