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東谷暁による「事件」に対する解釈論

トランプはどこまで米国と世界を崩壊させるのか;スティーヴン・ウォルト教授の「激しい怒り」を読む

アメリカは外交においても経済政策においても、トランプ政権のもとで自滅的な道をあゆんでいる。もちろん、それをすべてトランプ個人の責任にするわけにはいかないが、トランプが2度目の政権についてから加速したことは間違いない。ハーバード大学のスティーヴン・ウォルト教授がフォーリン・ポリシー誌に投稿した「トランプ政権の外交政策における10の失敗」は、外交面の問題を中心にトランプの過誤を列挙している。


ここでは10項目のなかから中心的と思われる項目をいくつか選んで取り上げることにする。まず「①恐ろしくダメで役に立たない貿易戦争」だが、この項目が何よりもトランプ政権の性格を露わにしていると言える。「トランプ大統領による貿易政策は、まったく一貫性がなく、とっぴで、不当なやり方によるものであり、相手国だけでなくアメリカ自身にも多大な損害を与えている」。

市場の反応はいまのところ穏やかだが、外国からの輸入品への課税はアメリカおよび世界の経済成長を鈍化させ、インフレを加速させ、輸入原材料費を上昇させることによって、多くの国ぐにを怒らせている。こうした政策は、同盟国に防衛費の増額を求めていながら、その経済を棍棒で破壊しているわけであり、矛盾に満ちているだけでなく自滅的というしかないだろう。


また、「④ジェノサイドの容認」はもちろんイスラエルによるガザ地区への攻撃の継続を意味しているが、これを最初に容認したのはトランプではなくバイデン大統領だった。とはいうものの、その後、トランプはこの誤った政策を修正するどころか加速させている。「イスラエルがガザやヨルダン川西岸地区で行っている行動にもかかわらず、イスラエルに寛大かつ無条件の支援を提供することは、アメリカ国民の安全や豊かさ、さらには世界におけるアメリカへの尊敬の念を破壊している」。

さらに、「⑤プーチン大統領のふところを肥やさせている」という問題がある。「トランプ批判者の多くとは異なり、わたし(ウォルト)はウクライナ戦争終結へのトランプの見解がすべて間違っているとは思わない。しかし、ウクライナの指導者を威圧し、ロシアのプーチンを宥めれば戦争を終わらせることができると考えたトランプは、あまりにナイーヴで単純というしかない。トランプは不注意で無能な交渉者でしかなかった」。


加えて、「⑧連邦準備制度理事会FRB)の乗っ取りを企てている」。「ジェローム・パウエルFRB 議長とリサ・クック同理事の解任の試みは、国内問題にとどまらず国際的製剤政策にも大きな悪影響をもたらす」。信頼できる独立性を持つアメリカのFRBは政治家の気まぐれに左右されないという信用を、まがりなりにも確立してきたが、いまやアメリカの金融政策は単なる独裁者の利益と思い付きに屈服してしまっている。

そしてトランプの政策は、「⑩アメリカの愚民化」を招いているとウォルトは嘆いている。「アメリカの戦略的資産は、そのきわめて有利な地政学的立地にあるが、この巨大な優位性は、世界トップクラスの研究機関や大学、カレッジ、その他の科学研究所によって強化されてきた。しかし、トランプが行ったのは、政府の資金援助を激減させ、大学を非難のターゲットにでっちあげ、外国の学生をアメリカの大学から去らせることだった。その影響はすぐには現れないかもしれないが、影響は甚大で永続的であり、回復は困難と思われる」。


こうしたトランプの間違った政策は、なによりアメリカの「ソフトパワー」を破壊していることが問題なのだとウォルトはいう。「トランプは、わたし(ウォルト)の同僚だった故ジョセフ・ナイソフトパワーと名づけたアメリカの影響力を破壊し、他国が広く共有された価値観や展望で発展してきたアメリカへの憧れを失い、利己的で攻撃的になることを加速してしまう」。

ウォルトがここで注意を喚起しているのは、たとえば中国は台頭するハードパワー(軍事力やテクノロジー)を強化するだけでなく、アメリカとは異なった方法でソフトパワーも獲得しようと努めていることだ。それはたしかに美しい理想や心地よい夢を提示しているわけではなく、また北京への心からの忠誠心を抱かせることはないが、「少なくとも中国はアメリカよりも安定的で公正な世界構築に真剣に取り組んでいる」という期待を与えつつあるというのである。


「それに対してアメリカはいま何をしているのだろうか。さまざまな不確かな根拠で他国に懲罰的関税を課し、他国の民間船舶を不法に攻撃し、同盟国が何万人もの罪のない(子供を含む)民間人を殺害することを手助けし、こうした犯罪の加害者ではなく、その犯罪をやめさせようとしている国際法機関にたいして制裁を加えている。そのいっぽう、国内では首都に軍隊を引き入れ、適正な手続きなしに人びとを逮捕・監禁・追放しているのである」

ウォルトがこの投稿で述べていることは、これまでも繰り返し紹介してきた主張であり、今回はその一部を紹介するにとどめた。ここに紹介した5つ以外にも、②グリーンランドやカナダから領土を奪おうとしている、③アメリカに対抗するために他国を団結させている、⑥緑の革命と逆行している、⑦無意味に軍事力を誇示している、⑨無能さの制度化を進めている、などがあげられている。それらはアメリカの歴史と社会に背景を持っているが、加速させているのがトランプであることは紛れもない事実である。

 

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スティーブン・ウォルトの国際関係論とトランプ批判