トランプ大統領が「ガザ和平案」を発表して、ネタニヤフ首相が支持すると述べたので、初めは大スクープのような扱いだったが、やがてその内実が明らかになるにつれて、評価はわかれてしまった。「驚くほど洗練されたバランスのとれたアプローチ」から「アラスカでのプーチンとの会談を彷彿させる」まで、かなり幅がある。というのもハマスがこの案に乗って来るかどうか、かなり疑わしく、ネタニヤフの発言にも信頼がおけない。そして誰よりもトランプが信用できないからだ。【増補】は、最後の部分をご覧ください。

まず、英経済紙フィナンシャルタイムズ9月30日付の「ネタニヤフはトランプ和平案を支持すると述べた」で概要を見てみよう。計画ではトランプ大統領が「平和委員会」と呼ばれる国際監視機関の議長を務めて、ガザを管理するパレスチナ委員会を監視するという。パレスチナ人からなる非政治的で実務的な委員会がガザ地区を統治し、トランプの暫定的統治機関が監督するということらしい。委員会には英国の元首相トニー・ブレアを含む国際的な人物が任命されるとのことである。
もう、これだけでかなりいかがわしい感じがするが、読み進むとすぐに出てくるのが、ハマスが同意しない場合には、トランプはイスラエルが行うハマス掃討作戦に「全面的に支援」するということになっていることである。そして、ハマスはどうかといえば、まったく何の同意もしていない。ということは、これから行われるハマス掃討をトランプ政権は全面的に支援するという宣言のようなものではないのか?

英経済誌ジ・エコノミスト9月29日付は、前出のように「驚くほど洗練されたバランスのとれたアプローチ」と、ほとんど絶賛しているのは、どうしたことだろうか。ガザ報道において同誌は、ときどきイスラエルよりの記事を掲載して首を傾げさせてきたが、このトランプ案に対してはかなりの思い入れがあるようだ。記事のタイトルは「トランプはガザの『永遠の平和』を訴える」というもので、リードが「大統領はガザ再生委員会の委員長に就任する」と何かものものしい。何だかナチス政権下の総統報道みたいではないか? それとも精一杯の皮肉だったのだろうか。
ただし、こんなタイトルでも問題点はなんとかしっかり書いている。第一が、ハマスが同意していないということであり、第二が、イスラエルも本当は同意していないことが明らかなのである。「記者会見でネタニヤフは、パレスチナ自治政府のガザ地区への復帰に反対し、彼らはテロを支援していると批判している」。このネタニヤフ発言は他のメディアでも報じられている。つまり、前述したようなパレスチナ人の委員会というものに、ネタニヤフが同意しているわけがないのである。

最初から喧嘩腰でこのトランプの発表を報じているのが、ニューヨークタイムズ9月29日付の「トランプとネタニヤフはハマスに彼らの和平プランを受け入れるように語る、もし受け入れなければ……」という長いタイトルの記事で、「トランプとネタニヤフがホワイトハウスで並んだことは、この時期にも二人の明確な結束ぶりを示すものだった。しかし、ハマスが彼らの要求に同意するかは決して確実なことではなかった」と述べている。こうしたいかがわしさは、「プーチンとの会談を彷彿させる」。最初、二人は記者の質問を受けることになっていたが、結局は応じなかったという。
何の具体的な下準備もなく、ネタニヤフとのお仲間ショウを見せるために、トランプは例によってきれいごとを述べてみせただけのような気がする。そしてそのプランが当然のことながら失敗に終われば、「ああ、俺がせっかくいい案を提案しているのに、〇〇〇〇たちが拒否したから、ダメになったんだ」と空しそうに語れば、トランプの「外交ショウ」は成功なのだろう。いくら世界の超大国の指導者とはいえ、それに付き合っているジャーナリズムもご苦労なことだ。

いっそのこと、こうしたトランプ・ショウには記者を派遣しないというマスコミがあってもいいのではないか。そんなことをすれば、ホンキでやっている記者会見のスクープを落とすことになるから、報道機関にはそれはできないだろうという人がいるかもしれない。しかし、もうすでに2016年に「ポスト・トゥルース」が宣言されて以降、そしてまた、多くの人がオールド・メディアよりSNSを見ている機会のほうが多くなったいま、どちらでもいいことではないのか。もう、マスコミが選別されるのは拒否して、マスコミが政治家を選別すべきだろう。
【増補】
フィナンシャルタイムズ紙は9月30日付に「イスラエル極右、アメリカのガザ和平協定案をめぐり、ネタニヤフ首相を非難」を掲載した。「ネタニヤフの極右同盟者たちは、トランプのガザ和平案を受け入れたとしてネタニヤフを激しく批判している。ベザレル・スモトリッチ財務相は、この合意は『悲惨な結末を迎えることになるだろう」と述べ、さらに『はなはだしい外交的失敗だ」と非難した」。
いうまでもなく、すでに極右の他の勢力はネタニヤフを批判して、7月に政権から離れており、このときネタニヤフ政権は過半数を失った。スモトリッチを失えばさらに政権の基盤は脆弱なものとなる。そんなことは分かっていたのに、トランプを「支持」したのは、トランプを今後も味方にしておかねばならない、単なる政治的で一時的な行動であることが透けて見えてしまっている。
そのトランプだが、ホワイトハウスで記者会見して次のように述べたと、同紙は報じている。「われわれはハマスを待っているだけだ。ハマスはそれを実行するしかないだろう」。もしハマスが同意できない場合にはどうなるかの質問に対して、「それは非常に悲しい結末になるだろう」と答えている。すでにトランプは、ハマスが自分の和平案を拒否したときは、ネタニヤフのガザ掃討作戦を全面的に支持すると述べている。