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東谷暁による「事件」に対する解釈論

ガザ停戦についてはトランプの功績は大きい;しかし、イスラエルもハマスも武装解除はしないだろう

今回のガザ停戦については、トランプ大統領の功績をみとめざるをえないだろう。ハマスが7人の人質を解放した直後に、私は13人が間をおかずに解放されるとは思えなかった。しかし、トランプが配置した停戦にむけてのスタッフたちは、かなり綿密に仕事をすすめており、イスラエルのネタニヤフ首相を説得し、そして、ハマスへの保証も信頼を獲得したようだ。しかし、繰り返し報道されているように、これは「第一段階」にすぎない。ネタニヤフはガザから簡単には撤退しないし、ハマスはむしろ軍隊の再編をしているように見える。


経済誌フィナンシャルタイムズ10月13日付に国際政治担当のコラムニスト、ギデオン・ラックマンの「なぜ中東の平和はいまも不透明なのか」は、ハマスにとらわれていた20人の人質が解放された直後に投稿されたものだが、バランスよくトランプの功績を評価し、そして、これで中東に平和がくるわけではないこと、それどころかガザ問題すらも解決したわけでないことを指摘している。

「トランプ氏の20項目からなる和平案がすべて実行に移され、そしてそれが実現すれば、トランプ大統領とその特使たちはイスラエルパレスチナ紛争を実際に解決できるかもしれない。それは記念碑的な偉業となるだろう。しかし、残念ながら実現する可能性は低い。イスラエルとガザ双方が戦闘停止に沸き立っているのは当然のことながら、合意の将来をめぐる明らかな問題がすでに浮上している」


まず、合意に定められた通りに、ハマスが本当に武装解除して解散し、イスラエルはガザから撤退するかどうかである。ラックマンは「明るい見通しはまるでない」と率直に述べている。むしろ、ハマスなどはガザに対する支配権を確立しようとして、ガザ内の敵対勢力の武装解除をめざして戦闘を繰り広げているほどなのだ。そして、ハマス武装解除が実現しなければ、トランプの計画にある次の段階はきわめて不透明なものになる。

ハマスが存続した場合、トランプの計画にあるパレスチナの「テクノクラート集団」が本当にガザの運営を掌握できるのだろうか? このことは同時に、ガザへの多国籍安定化部隊の派遣に、深刻な疑問を投げかけることになる。おそらくはアラブ諸国イスラム諸国からの部隊が中心となるだろうが、ハマスガザ地区で(たとえば、まだかなり残っているトンネルを使って)強力な勢力であり続けるなら、安定化部隊の支配力は発揮できないだろう。


そして何より、ハマスがガザにおいて勢力を維持していれば、イスラエルもトランプの計画に描かれているようなガザ撤退を実行するわけがなくなる。ネタニヤフ政権が紛争を再開させることは大いにありえる。さらにまた、たとえネタニヤフ政権が崩壊したとしても、後継政権が同じ問題を抱えることになってしまう。このような状態になっても、トランプは解決への努力を粘り強く続ける気があるのだろうか?

すこし脱線するが、こうした問題は来年にトランプ大統領ノーベル平和賞を取れるかどうかを考えてみるとよいと、ラックマンは示唆している。いまの時点で、停戦を実現したことは大いなる功績である。しかし、その前に公言したガザ地区の「リヴィエラ化」などという計画は愚劣極まりないもので、どこかのコンサルタント会社が本気で計画に一時的に参入したようだが、ノーベル賞の基準からすればとてもプラスの評価は得られない。


「そして、これからの第二段階において、ハマスを説得して武装解除・解散させ、ネタニヤフにガザ地区から撤退させることはとても無理な話なのだ。トランプは10月13日、イスラエルの国会で演説し、その後、エジプトで国際平和会議の議長を務めることになっている。いずれにおいても得意満面のひと時を満喫するだろう。しかし、ノーベル賞については、これからの成り行きを確かめないと、何とも言えないだろう」

結局のところ、トランプの「計画」なるものは、実は「第一段階」だけが計画されていて、それ以降はなりゆきしだいということなのだ。これは分かっていてそうしたのか、ぎりぎりの詰めをやらなかったためなのか、詰めたけれども決定的な克服案がなかったのか。それはいまのところ分からないが、いまの局面だけで判断すれば、トランプは称賛されることはまちがいなく、そしてしばらくすればハマスかネタニヤフのせいで、このすばらしい計画が破綻することになるわけである。