ガザ地区の停戦は一時的には成立したようだが、ハマスは他の勢力との戦いに必死であり、イスラエルはそれを口実に爆撃を再開してしまった。これではガザ地区の平和はとても実現しないと考えるのが妥当というしかない。なぜ、こんなことになったのか。それは歴史的な背景を考えれば当然と思えるのだが、トランプ大統領のガザ地区再建案はこれまでの経緯も、またガザ地区の未来も、まったく考えていないのだから、ネタニヤフ首相も停戦を守る気などは最初からないのだ。この問題については、やはりスティーヴン・ウォルト教授の考えをぜひ聞きたいところだ。

もちろんのこと、ウォルトはイスラエルとハマスの合意も、トランプとネタニヤフの約束も守られるはずはないと見ている。すでに米外交誌フォーリン・ポリシー10月15日に「ガザの平和はつづかない」を投稿している。この論文の主張はこれまでウォルトが予想していたことの繰り返しだが、やはり現実を前にしながらのこの論文を読めば、ガザ地区の平和をトランプが実現したと報じた、世界のジャーナリズムはやはり甘すぎるプランの欠陥を直視しなかったと言わざるを得ない。
「現在の合意のなかで、2つの疑問が依然として残っている。ひとつは、言うまでもなく『この合意は果たして維持されるのか?』であり、ふたつ目の疑問は、ひとつ目の疑問への答えと緊密な関係にあるが、イスラエルと世界の他の国ぐにとの関係、特にアメリカとの『特別な関係』が続いた場合、そもそも永続的な平和が、かろうじてであるにせよ、実現できるような方向に向かうのだろうかというものである」

第1の疑問については、もうすでにハマスもイスラエルも「無理だ」という答えを示しているといってよいだろう。すでに述べたような現実だけでなく、そもそも停戦プランを作った連中の思惑は奇妙なものだということだ。「このプランは、イスラエル極右の野望の一部(つまり、ガザを併合してパレスチナ人たちを追放すること)を否定しており、パレスチナ側にはハマスの完全武装解除、トンネルの完全破壊、そしてハマスのあらゆる政治からの排除を強く求めている」。これはどうかんがえても、最終的な達成は不可能と見るしかないのだ。
「しかも、さらに重要なのは、この合意はすべての困難な政治問題を、将来の不確定的な時点まで先送りし、イスラエルによるヨルダン川西岸地区の併合に向けた継続的な行動には、まったく何も言及していないことである」。つまり、ウォルトが以前から指摘しているように、一見、派手な外交パフォーマンスが展開されるが、それはトランプがマスコミを前にして当面の外交勝利を宣言するためのもので、そのためには根本的な問題には踏み込まないという、恐るべきゴマカシが前提となっているわけである。

ウォルトがこの論文で強調しているのは、ミアシャイマーとの共同論文や共著で指摘してきたように(論文「イスラエルロビー」、また書籍『イスラエルロビー』)、イスラエルとアメリカとの「特別な関係」が、最大の問題として未解決であるということだ。最初のころの論文でも指摘しているように、イスラエル支援のためにアメリカが負担している金額は膨大で、それはもちろんアメリカの国費によってまかなわれている。
「イスラエルはいま一人当たりの所得では世界16位という豊かで核兵器も備えた国であるのに、アメリカはイスラエルに『質的な軍事的優位性』を公式に保証している。たとえば、イスラエルとハマスの戦争中には、その遂行のためにアメリカの納税者が約220億ドルを負担した。この無条件の支援こそが、中東諸国の指導者たちが武器、投資、市場アクセスを得るため媚びているにもかかわらず、中東におけるアメリカの人気が最悪な理由なのだ」

しかも、イスラエルが今回のハマスとの戦いを通じて明らかになったのは、国際法や人権にかんして、国家としてあまりにも非道徳的な行為を撮り続けていることである。「イアン・ラスティックが最近指摘したように、イスラエルはますます『狂気の国家』となっている。それは、1他者に害を及ぼす攻撃的な目標を追求し、2そのための攻撃にきわめて過激なコミットメントを示し、3不道徳的な行動をいとわず、4目標を達成するために論理的で合理的な手段をおくめんもなく採用し、5しかもそれらを遂行する能力を行使していることで実現している」
このように論じることは、はたして「反イスラエル」なのだろうかと、ウォルトは問うている。もちろん、そうではない。「無条件の支援はアメリカにとってマイナスであり、イスラエルにとっては災難といえる。イスラエルの海外での評価はガタオチで、国内では分裂が進み、メシア主義的傾向の右派は勢力を強めるいっぽう、高学歴で経済的に裕福なエリートは国外脱出を試みるようになっている」。

繰り返しウォルトはアメリカにとってのマイナスを指摘してきたが、それはイスラエルにとっても、特にその将来の国際的地位において、ほとんど災難としてよいものだというのである。そして、とりあえずアメリカとしてできることは何かといえば、これも繰り返し主張してきたことだが、イスラエルとの「特別な関係」を止めろと強調している。これはイスラエルを孤立させろとか、いっさいの関係を断てというのではない。「要するに、中東の平和を本当に望むなら、アメリカはイスラエルとの正常な関係が必要なのだ」。