AIの隆盛は株価だけでなく、雇用にも大きな影響を与えている。しばしば言われてきたのが、AIが人間にとってかわるから雇用を得られない人が増えるという話である。そんなことはない、人間の創造性や感性はAIにはないから、人間に完全にとってかわることはできないとの反論も、耳にタコができるほど繰り返されてきた。さて、実際にはどうかといえば、いまはまだ前哨戦といってよいが、ぼんやりとした傾向くらいは見えてきたようだ。

英経済誌ジ・エコノミスト10月13日付に「AIは若手労働者にとって代わることができるか?」との記事が載っている。短いものだがちゃんとした研究に基づくグラフ付の記事なので紹介しておきたい。繰り返すが、AIと労働者との争いは始まったばかりなので、曖昧な部分が多いのだが、それなりに常識にかなった考察で、納得する人も多いだろう。結論をいえば、若い人たちの労働市場で、AIを使いこなせそうな人と最初からAIなどで勝負していない人は雇われるが、その中間にある人たちが雇われにくくなるかもしれない。

まず、全体的な雇用状況を見れば、AIによる雇用崩壊というのは、まだまだ未来の話ように思える。過去1年の間に、AIによる影響を最も受けやすいホワイトカラーの仕事は、まあまあ順調に伸びているように見える(図版1)。エール大学ジェットラボが10月に発表したこのデータを見れば、人気のある CHAT GPTが登場した2022年以降も、人びとの仕事内容に大きな変化は見られない。まあ、ここでひと安心といったところだろうか。
しかし、企業レベルのデータを分析していくと、微妙なパターンがすでに生じている。ハーバード大学博士課程の学生であるセイド・ホセイニとガイ・リヒティンガーによる研究は、日常業務にAIを組み込む仕事をする「AIインテグレーター」を雇用した企業を追いかけたもので、それなりの興味深い傾向を見つけている。彼らはAIを使って2億件の求人広告を対象にして、1万6000社の約13万のAIインテグレーターの求人を見つけ出し、こうした求人を行っている会社を「AIアダプター」と名付けた。

こうしたAIアダプターが求める雇用は、CHAT GPT3.5がリリースされたころの2023年第1四半期に増加を始めている(図版2)。2023年以降、若い労働者への雇用は軒並み減少したが、その後の6つの四半期の減少幅はAI導入企業の方が7.7%大きかった(図版3)。年配層の雇用にはそのような傾向は見られなかった。新卒者が行うような、コードのデバッグや文書のレビューといった、単純だが精神的負担の大きい仕事は、AIに任せやすいのかもしれない。

では、どのような人たちが圧迫されているのだろうか。この研究では大学を5つのランクに分類して分析したのだが、ランク上位の大学や下位の大学の卒業生よりも、中間ランクの大学の卒業生がはるかに悪い雇用状態を示していた(図版4)。ホセイニたちは、企業が上位ランクの大学の卒業生を専門スキルのために、また、下位ランクの大学の卒業生を低コストのために確保しているのではないかと述べている。ということは、中位ランクの大学の卒業生が、AIによる最も大きな職を得られない脅威にさらされているということになる。

もちろん、この研究はまだ傾向がはっきりしていない段階で試みられており、方法においてもあまり洗練されたものとはいえないかもしれない。たとえば、エコノミスト誌はサンプルに含まれている労働者のうち、AI導入企業に雇用されているのは全体の17%にすぎず、新型コロナのパンデミックによって混乱したファクターを入れ込んでいないという。いかにもありそうな現実が浮かび上がってはいるが、まあ、いまのところ、こういう研究もあって現実味があり、実に興味深いというくらいに見ておいてもよいのかもしれない。いちばんいいのは、AIとか大学ランクなどには最初から関係ない職業を選ぶことなのかもしれない。