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東谷暁による「事件」に対する解釈論

トランプが介入した和平はすべて失敗している;スティーヴン・ウォルト教授が再警告する「トランプ外交の危険」

トランプ大統領が世界中で行っている和平工作は、すべてといってよいほど失敗続きだ。それなのに今も、自分はノーベル平和賞を受けるに値すると思っているらしい。そうした超大国の指導者の言動は、単なる幼児性の発露にとどまらず、世界にとって危険なものとなりつつある。なぜならトランプの和平工作と現実を無視した成果の誇示が、かえって新たな問題を引き起こすからだ。ハーバード大学教授のスティーヴン・ウォルトの批判を紹介する。


ウォルト教授は、ウクライナ戦争を終わらせるとの触れ込みのトランプ・プーチン会談も、また、娘婿を差し向けたガザ地区の停戦への工作も、トランプ自身のパワーの誇示のための演出にすぎないとして激しく批判してきた。そして、2025年も終わりに近づいたいま、ウォルトの指摘はますます正しかったことが明らかとなっている。そのいっぽうで、トランプを一時的にせよ称賛した世界的メディアは、論調を巧妙に変えて辻褄合わせに追われている。

米外交誌フォーリン・ポリシー電子版に12月22日付で投稿されたウォルトの「トランプ大統領のフェイクな和平合意は危険だ」は、こうした経緯を振り返りつつ、トランプが凝りもせずに世界で展開している、フェイクでしかないいくつもの和平工作が、いかに惨めな失敗に終わるかを指摘する。そしてそれらが新たな危機を生み出していると警告している。「トランプは8つの戦争を集結させたと主張しているが、残念なことに彼が創設したトランプ大学が素晴しい大学だという話と同様、まったく不正確といってよい」。


たとえば、ガザ地区を見てみよう、トランプは「新しいリヴィエラ」にするなどといって世界の顰蹙を買っていたが、この10月にようやく停戦を成立させた。しかし、この停戦以降も400人近くのパレスチナ人が殺害され、住民への救援は依然として不十分であり、停戦の次の段階を監視するはずだった平和維持部隊は、いまだに創設されていない。彼とネタニヤフ首相の「計画」は平和への一歩などではなく、「それは大イスラエルを創り出し、パレスチナ人を消し去ろうとする絶え間のない、世界を欺くだけの営為にすぎなかった」。

すでに忘れた人もいるかもしれないが、その途上でイスラエルが始めたイランの核施設への攻撃を全面的に支持したかと思うと、さらにアメリカ自らが乗り出して、地下の施設を破壊するために、アメリカだけが保有している破壊力の巨大な爆弾によって攻撃し、むしろ戦争を拡大させた。ところが、その結果としてイランの濃縮ウランはどこかに移送され、専門家によって諸説があるとはいうものの、当初の目的をまったく果たせなかったという事態に至っている。


ウクライナ戦争についても同様で、アメリカ大統領選挙期間中にトランプは「24時間以内」に終わらせると豪語していたが、こんな主張は最初から本気であるはずがなかった。案の定、両陣営に戦闘停止を押し付けようとする努力は、まったく実を結ぶことはない。むしろ、時間が経過すればするほどウクライナとロシアとの交渉はますます停滞する状況で、なんのためにアラスカで世界のメディアを集めて、トランプ・プーチン会談を行ったのかも不明になってしまった。

ここらへんからは日本ではあまりお馴染みでない失敗例が出てくるのだが、トランプが主導して始めたカンボジアとタイの国境紛争の解決も、彼の「国際紛争終結した」という主張が、その後の複数の出来事でまったく信頼性のないものであることが明らかになった。最近、ついに両国は戦闘を再開しており、タイのアヌティン・チャーウィラクル首相は、トランプの電話による一方的な停戦要求を拒否して「我が国の国民と国土に脅威がなくなるまで軍事行動を継続する」と宣言している。


また、コンゴ民主共和国でも、民兵組織との戦いはトランプが仲介したが終わらない。マルコ・ルビオ米国務長官などは「これはトランプ大統領が貢献した停戦への明白な違反だ」などといっているが、そもそもトランプが仲介すれば解決すると思い込んでいるほうがおかしいのである。さらに、スーダンでも残虐な戦いとなっている内戦をアメリカは終結させようとしたが、これもまったく失敗した。

そして、インドとパキスタンとの国境紛争を、トランプは停戦させたと主張しているが、これも現実には、インドのモディ首相がトランプ案を拒否しているというのが本当である。付け加えると、エジプトとエチオピアのダム建設をめぐる紛争にもトランプは介入したのだが、これもまた散発的なものだったせいで失敗した。「こうしたケースにおいてすべて、トランプが平和の大義を推進したという本人の主張は、そのほとんどが誇大宣伝というべきものである」。


なぜこんなことになるのか? それはいうまでもなくトランプの外交が自己宣伝に終始し、本来、外交に必要な粘り強い下準備や長い時間をかけた交渉を省略してしまっているからだ。外交はどんなケースでも、多くの詳細を詰める必要があり、こうしたプロセスは通常、長い時間を必要とするものである。トランプ政権が行っているのは、紛争に介入して止めないとひどいぞと威嚇し、一時的な停戦を誇大に業績だとして宣伝しているだけである。

「こうした当然の努力が必要であることを知らないトランプとそのチームはこれらの要件をすべて無視してしまっている。1978年のキャンプ・デービッド合意に長時間を費やしたカーターや、古くは1905年に日露戦争終結合意の仲介に長時間と労力を費やしたセオドア・ルーズベルトとまったく異なり、トランプにはあまりにも集中力と忍耐がなく、すでに多くの国ぐにはトランプが介入しても解決しないことを前提とするようになっている」


トランプがいま行っていることは、世界中の紛争を解決しているのではなく、むしろ、こじらせているといっても間違いではないだろう。ウォルトはこれまで述べてきたことを、この論文でも繰り返している。「大規模な紛争はアメリカの安定した特権的な地位を棄損する数少ないもののひとつであり、その解決はアメリカ自身にとっても利益となる。また、戦争は多大な人的苦痛を伴うものであるから、平和は道徳的に望ましいものであり、アメリカの指導者は積極的になって損はない」。しかし、いまのアメリカ大統領は、こうした最も基本的なところで、大きな損失をアメリカと世界にもたらしている。