高市首相の「台湾有事」発言はいまも尾を引いている。中国は次々と不快の表明を行ういっぽうで軍事的威嚇を続けている。しかし、台湾有事が起こってアメリカが介入すれば、日本が巻き込まれることは火を見るよりも明らかだ。アメリカは日米安全保障条約によって日本に支援を要求してくるだろうし、それ以前に中国は日本にある日米の軍事施設に攻撃を仕掛けてくることはまず間違いない。そうした条件なかで高市発言を位置付けていくのが、「発言以後」の日本にとって不可欠のことになっている。

その作業は遅々として進んでいないようだが、最大の前提としてアメリカがどう考えているかは、日本のいまの立場からすれば必須のチェック事項といえる。もちろん、さまざまな立場があるが、たとえばウォールストリート紙12月28日付に掲載された「中国の台湾攻撃がどのように日本にとって有事となるか直視せよ」は、ごく普通のアメリカ人を前提として書かれた、彼らとしてはごく当たり前の事態の再確認といえるだろう。

「先日、高市首相が、中国が台湾を占領しようとした場合、日本は軍事介入する可能性があると示唆したのに対して、中国政府は怒りの声明と軍用機の出撃で応じた。そのメッセージは『お前たちなどにはまったく関係ない』というものだった。しかし、経済的、地政学的に見て、中国が台湾海峡を越えて侵攻すれば、日本とその最大の同盟国であるアメリカの国益は、重大な脅威を受けることになる。民主的統治が行われている台湾は、重要な海上の要衝だからである」
冒頭のこの部分だけでほとんどが語りつくされているといってよいが、あまりこうした問題に興味関心を持たなかった人のために、そしてまた深い興味関心があった人が再確認するために、アメリカの経済紙が提供している事態の概要を紹介しておこう。まず、国際戦略研究所の日本担当者であるロバート・ワードによれば「台湾が中国の手に落ちれば、アジアのパワーバランスは決定的に中国に有利になる」という、きわめて常識的な見方を改めておさらいしておこう。

ウォードによれば、中国は現在「いわば包囲されている」。つまり、アメリカの同盟国である日本、台湾、フィリピンの3国によって構成されている「第一列島線」と呼ばれる中国東海岸沖の列島群によって、軍事戦略的に囲まれているといってよい。もちろん、中国はこの包囲網からは「明らかに抜け出したいと考えている」。したがって、紛争が起これば台湾の運命は日米安全保障条約による同盟関係と急激に強く絡み合うことになる。
中国の攻撃を撃退するためには、台湾は中心的な防衛パートナーであるアメリカの参戦を必要とするだろうし、そして効果的に戦うためには、アメリカ軍は日本の協力を必要とするだろう。ただし、アメリカが中国と台湾が直接衝突するかはいまだに曖昧なままに放置されている。アメリカはニクソン政権の時代にソ連を牽制するために中国との国交を回復したが、この際、アメリカは台湾との国交を破棄し、そして同時に、アメリカ議会が台湾への武器供与を認める決議を行うことでバランスをとることにした。それは甚だ微妙で危ういやり方だったが、以降、この「戦略的曖昧性」を維持してきたのである。

もちろん、この曖昧戦略に日本も丸ごと巻き込まれ続けてきた。最初からアメリカが二重外交をやっているのだから、当然、日本も二重外交を強いられることになったのである。その微妙な戦略など無視して、親中国的なマスコミや言論人は中国に出かけたさいには「台湾省」などという言葉を使い、その一方で台湾に出かけたときには「中華民国」とは言わないようにしてきたが、アメリカが二重外交を行っているのだから、それはひとつの戦略的フィクションでしかなかった。しかし、そんな便宜的フィクションは、軍事的衝突が生じた場合には通用しなくなることは明らかである。

そこで現実の世界で台湾有事が起こったと仮定しよう。「中国はミサイルや軍艦を派遣し、台湾を封鎖・攻撃・包囲した場合、琉球諸島と呼ばれる西南諸島のほとんどを占める島々のいくつかは戦場のすぐ隣、あるいは戦場の中に入り込むことになるので、日本国民と日本国領土は大いなる危険にさらされることになるのは当然である。普段は交通量の多い航路を含む地域で戦闘が繰り広げられれば、日本は依存している重要な貿易に大きな損失を被ることになる」。もちろん、それが分かっているから、日本はこれらの諸島への投資を活発化させ、新たな基地、レーダー施設、電子戦能力、ミサイルシステムを配備してきた。

アメリカに拠点を持つインド太平洋安全保障研究所のシニアディレクター、辰巳由紀は述べている。「もし、中国が台湾を併合してしまえば、日本の領土に対する脅威は深刻化するでしょう。日本はもはや緩衝地帯を失って、中国海軍からの直接的な圧力に直面することになるのです」。同時に、こうした台湾併合を阻止するために、日本がいったい何をするかによって、アメリカの対応は大きく変化する。マサチューセッツ工科大学のエリック・へギンボサムは「アメリカは日本にあるような基地をアジアの他の地域に持っていない。日本にあるような基地を、他の地域で代替することができないのです」。

いっぽう、日本側から見ても中国が台湾併合に乗り出してきたとき、アメリカを除外して単独で対応するということは不可能である。たとえば、沖縄は中国に近いため、中国からの攻撃に対してきわめて脆弱といってよい。中国はすでに膨大なミサイル兵器を保有しており、この地域のほぼどこでも、戦闘機の攻撃を集中させた場所は壊滅してしまうと予想されている。中国による攻撃を困難にするため、アメリカ空軍は紛争発生時に、アメリカ基地だけでなく日本の軍事施設、日本国内の民間または軍民両用飛行場、そしてこの地域の近くの域外にも航空機を分散配置してきたのである。
もし、日本政府がそうした戦闘のさいの日本の基地や施設の使用を断った場合にはどうなるだろうか。たとえば米領グアムに依存する作戦にしてもらうとか、あるいは空母を大量に派遣して戦うなどのやり方を求めた場合である。そうなった場合にはアメリカ軍の戦いは著しく不利になるだけでなく、費用も膨大なものになるといわれる。そして何より、交戦の初期段階において、曖昧なファクターがある場合には、ほとんど戦争に勝てないことは、これまでの軍事史が証明している。アメリカが敗退した後の東アジアを考えれば、日本は米中戦争にアメリカ側で参戦しないわけにはいかないだろう。

「それどころか日本は中国の攻撃開始と同時に巻き込まれる可能性すらある。中国はアメリカが台湾を支援するかたちで紛争に介入するのがほぼ確実だと判断すれば、先制攻撃として日本国内のアメリカ軍基地、そして場合によっては日本の基地や施設に対してミサイル攻撃を行い、中国にとっての脅威を鈍らせようとすることも十分にありうる。中国は短距離、中距離、長距離のミサイルを数百発保持しており、それを常時展開できる状態だと思われる」
こうした状況の中にあることを踏まえたうえで、日本人は高市首相の発言を受け止めなければならない。それがいかにも素人臭いもので、発言の用語や発言の場所の選択がまずいものだったとしても、高市首相が語ろうとした現実の重みのほうがはるかに大きいし、また大きくしていかざるを得ない。中国の意を密かに受けていながら、あたかも平和や友好の言葉を用いる言論も、ますます多くなっていくと思われるが、その真贋の判断も重要な作業となっていくだろう。