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東谷暁による「事件」に対する解釈論

トランプが断行したベネズエラ大統領の誘拐と拉致は逆効果だ!;スティーヴン・ウォルト教授がトランプの狙いをすべて「否定」

トランプ大統領が行ったベネズエラ大統領の誘拐と拉致、さらには一方的な裁判について、世界の現実を知っていると称する人たちが偉そうに警告している。彼らは「トランプを批判するまえに、まずベネズエラという国がいかにひどい国だったのか、そしてまた、中国がベネズエラと手を組んでいたことを知るべきだ」と偉そうに日本人に向かって説教しているのである。しかし、トランプ政権がいま行っている荒っぽい「ドンロー主義」が、本当にトランプたちが言っているほど、アメリカと世界の平和と繁栄を守るために、本当に有効なのかを検証する必要があるだろう。


ハーバード大学のスティーヴン・ウォルト教授は米外交誌フォーリン・ポリシー1月8日付に「ドンロー主義なんかは意味をなさない」との、全面的否定といってよい論文を寄稿している。ウォルトはトランプを嫌いだからだろうと即断する前に、ウォルトが述べていることを虚心に読んでみるべきだ。まず、トランプはベネズエラから入ってくる麻薬を断つためだといっているが、「ベネズエラは米国に流れ込んでいる違法薬物の主要な供給源でないだけでなく、トランプが薬物密売で有罪判決を受けたホンジュラスエルナンデス元大統領を、すでに完全恩赦していることと辻褄があわない」と指摘している。

また、ウォルトは、(これはすでに一部で報道されているが)アメリカ司法省はトランプが昨年から激しく騒ぎ立てている麻薬カルテルカルテル・デ・ロス・ソレス」が、実はトランプ政権のでっちあげであることを認めていることも指摘している。「それはトランプ政権による完全に虚構のプロパガンダであり、繰り返し警告されながら、結局のところまったく発見されなかった、ブッシュ(息子)政権がでっちあげた、イラク大量破壊兵器と同じくらい嘘話なのである」。


さらに、マドゥロ大統領の誘拐・拘束は、そもそもアメリカの安全保障強化を狙ったものといえないことを知らねばならない。ベネズエラという国はきわめて軍事的に脆弱な国家であり、それは米軍がちょっと出かけて行って、その国の大統領を難なく誘拐できる程度の軍事力しかもっていなかったのだ。加えて、トランプは、ベネズエラの次期大統領について、ノーベル平和賞を受賞した野党政治家マリア・コリーナ・マチャドはその任にあらずとあっさり否定し、その代わりアメリカの圧力しだいでコロコロと見解を変える、女性副大統領を交渉相手としたことからも、本気でベネズエラが危険な国だと考えているわけでないことが分かるのである。


では、やっぱり石油利権がトランプ暴走の最大の理由かと思う人は多いが、ウォルトはこれもしっかりと否定している。1月3日、トランプはベネズエラが最大5000万バレルの石油をアメリカに引き渡すことに同意したと豪語してみせたが、この5000万バレルという量は、アメリカの石油生産量のたった4日分に相当するにすぎない。たとえこの合意が守られたとしても、アメリカに新たに入ってくる石油はきわめて少なく、しかも、ベネズエラの油田は埋蔵量こそ大きいが、すでに老朽化しているので、実際の採掘量はたいしたことがなく、アメリカを豊かにするわけでもないのだ。

ということは、やっぱりトランプは、中国がアメリカの喉元にあるベネズエラとの関係を深めていることを憂慮して、今回のようなキッド・ナップ(誘拐)の処置を敢えてとったのだろうか? どうもそれも正気で考えれば、大げさな言い方だとウォルトは指摘している。トランプ政権の言い方では「敵対的な外国の侵略や主要資産の所有から」アメリカを守らねばならない、というわけなのだが、中国はベネズエラを支援すると表明したさいの援助の金額だけは大きいが、それが実現するかどうかはまったく不明。そもそも中国の軍隊が、ベネズエラに派遣されているわけではまったくないのである。


ということは、やっぱりトランプが描いている理念、つまり現代の「モンロー主義」の実現が重要で、西半球からアメリカに敵対している勢力を追い出すために、まずベネズエラを血祭りにあげようということだったのだろうか? もちろん、これもトランプが仮に信じていたとしても、現実問題としてそんな巨大な外敵は西半球に存在していないわけで、たんにモンロー主義をいまの時代に蘇らせると、すごんでいるだけのことだということになる。

最後にウォルトが述べているのは、アメリカがどのようにして世界の最大の勢力となったかについてであり、多くの勢力との友好関係を創り上げることが何より重要だったという。アメリカに敵対するようになった勢力が出てくれば、それらを友好国との協力によって打破してきたのだというわけである。つまりは、今回のドンロー主義は、トランプ一味が声高く主張しているような効果を得られないどころか、これまでのアメリカの強みを逆に失わせてしまう行動に他ならないのである。