トランプ大統領が何かを言っても、それを信じる人間は世界にどれくらい残っているだろうか。ホルムズ海峡を開けさせると吠えたところで、相手のイランに対してアメリカ軍が攻撃を続けるだけでなく、イスラエルのネタニヤフ首相が自らの地位保全のためにヒズボラへの攻撃をやめる気配がない。トランプはネタニヤフを怒鳴りつけたと報じられているが、トランプ自身が言ったことを守る気がないので説得力はないだろう。そのなかで日本はじわじわと本格的なエネルギー危機に嵌まり込んでいる。そのことはあまり日本のマスコミは強調しないが、ひとことでいって「代替案がない」状態に追い込まれている。

米外交誌フォーリン・ポリシー6月2日付は「イラン戦争が日本にエネルギー危機の見直しを迫っている」を掲載している。筆者は同誌のエネルギー市場担当ジェームズ・ベイリーで、「ホルムズ危機は日本が長年かけて築き上げてきた危機脱出のルートのほとんどを閉ざしてしまった」と指摘している。「東京はいまパイプラインが空っぽになるといった危機に直面しているわけではないが、戦略的な選択肢は尽きつつある。これから数か月の間に下される決断が、今後一世代にわたる日本のエネルギー戦略を決定づけることになる」。
いまの状況のなかで日本にとって何がいちばん大きかったのか。日本のエネルギー多角化努力の目玉は、東京電力グループと中部電力が共同出資して設立した JERAがカタールエネルギーと締結した、27年間の供給契約だった。「これは世界で最も信頼できる生産者のひとつから、数十年にわたる安定供給を保証する、究極の長期リスクヘッジとして締結された。しかし、契約締結から間もなく、カタールは3月初旬に地域情勢の不安定化を理由に『不可抗力』を宣言した」。つまり、契約の前提条件が変わったので、契約が守れなくなったと宣言した。これが日本のエネルギー政策に決定的な一撃を与えたとベイリーはいうわけである。

いうまでもなくこれは、イラン戦争のためにホルムズ海峡が閉鎖されたことによるエネルギーの高騰が生み出した日本への深刻なインパクトである。日本はエネルギー資源に乏しいことは誰でも分かっているが、その供給地としては圧倒的に中東の割合が高く、石油の約95%(うち70%はホルムズ海峡経由)とLNGの約11%を依存している。「しかし、カタールエナジーが『不可抗力』を宣言したことで、今回の危機が一時的な急騰によるものではなく、日本の戦略の構造的な破綻であることが明らかになったことが大きかった」とベイリーは指摘している。
日本のエネルギーの供給源は中東だけではないだろうと多く日本人は思うだろう。では、どこがあるのだろうか? かつて安倍政権の時代にはプーチンとの会談を繰り返すことで、ロシアからのエネルギー輸入が急増するかのような期待が生まれたものだった。しかし、これはウクライナ戦争がはじまり、日本はアメリカのウクライナ政策に加担するようになって、近い将来においてロシアからの大量のエネルギー輸入の可能性は、ほどんどなくなったといってよい。

最近注目されていたのはオーストラリアからの輸入であり、オーストラリアは日本にとって最大のLNG供給国となってきた。この二国間の関係は数十年にわたる相互信頼によるものだった。ところが「この関係すらも圧力にさらされている。オーストラリア政府は、国内のエネルギー不足と国内産業への価格引き下げを求める政治的圧力によって、2027年からかなりの輸出制限を実施する計画である」。
こうした世界の現実が明らかになってくると、日本には原子力があったと思い出す人たちもいるかもしれない。そして、そういえば柏崎原発の稼働が許可されたではないかという人もいるだろう。実は、世論の激しい反原発のなかにあっても、すでに14基の原発が稼働していたわけで、この数値にすら驚く人が少ないないだろう。かなりの日本人がすでに原子力発電所は稼働していないと思いこんでいるのだ。柏崎は再稼働15基目の原発だったが、「大部分の原子炉は稼働停止状態にある」。柏崎が加わっても、「それは1基(分の増加)にすぎない」とベイリーは述べている。

「過去10年間の日本のエネルギー多角化戦略は、構想が間違っていたわけではない。危機が発生した時点で、単に不完全だったことが明らかになっただけだ。ホルムズ海峡の混乱は、日本の先見性の欠如を露呈させたのではなく、正しい診断と未完成の治療とのギャップを明らかにしたのである。そのギャップはいまや日本に毎週10億ドル以上の損失をもたらしている。問題は日本政府がそのギャップを埋めるに必要な厳しい決断を下せるかどうか、あるいはいずれも選ばずに(単に高いエネルギーを買い続けることで)同じ脆弱性に対し、より多くの代償を払うことになるのかということである」