トランプ大統領の乱暴なディール的戦争がアメリカの没落を早めている。そのいっぽうで政治的に巧妙に振舞っている中国の存在感は増している。しかも、AIを中心としたハイテクへの試みもアメリカを超えつつあるとの指摘は多い。では、巨大な不動産バブルの崩壊とコロナ対策の失敗によって低迷した中国経済は立ち直りつつあるのだろうか。英経済誌ジ・エコノミスト最近のレポートは「必ずしもそうではない」と示唆している。

ジ・エコノミスト6月8日付の「中国の技術革新は確かでも、経済は混乱状態にある。どちらが上回るのだろうか?」は中国江西省鷹譚市の激しい変貌の叙述から始まる。同市はこの10年間の間に、時代遅れの銅産業中心の政策から、最先端のハイテク産業が生みだすハイエンド製品製造へと変革してきた。2025年には一人当たりGDPが省都を上回った。では経済全体を見た場合はどうかというと、「不動産不況を2010年代初頭から地元政府が抱えてきた巨額の債務が、依然として経済の重荷になっている」。
同誌が鷹譚市を取り上げているのは、この注目されているハイテク工業地域が、いまの中国ハイテク産業と中国経済との強いコントラストを表しているからだ。「この二つの世界はかけ離れているように見えるが、実は、中国国内の多くの場所、そして中国経済全体においては、両者の世界は隣り合って存在している」.ゴールドマン・サックスによれば、「ハイテク産業が2029年まで毎年実質約1%の成長を遂げることは間違いないが、そのいっぽうで、2024年と2025年の成長率を2%押し下げた不動産セクター崩壊の重荷は、これから数年間は続く」と見られている。

いま中国全体でみれば、急成長が可能なハイテク産業のプラスと、相変わらず経済成長を押し下げる不動産バブル崩壊のマイナスがせめぎ合っているわけだが、もちろんプラスがマイナスを凌駕するケースがないわけではない。「たとえば北京、杭州、上海、深圳といった裕福な大都市は人材と資本をひきつけることができる」。これが住宅需要を刺激して、不動産セクターのマイナスを埋め合わせてしまう。しかし、そうでない地方の場合を見たければ、「鷹譚から宜春まで高速鉄道に乗って1時間ほど移動してみればよい」というわけだ。
「こうしたプラスとマイナスの戦いの失敗例として宜春が分かりやすい。同市では2021年に市政府が広大な国家ハイテク開発区にEV(電気自動車)工場を建設するために23億元を投資した。しかし、深圳や合肥といったEVクラスターの成功例とは対照的に、この工場は効率的な自動車製造に必要なサプライヤーや専門知識から孤立していた。その後、生産は停止されて、工業団地の残りの部分も同様に活気を失ったままになった」

日本でもある種の論者たちは、何から何までマクロ的な政策で解決するようなことをいうが、経済を全体で見ても、また、個々の産業で見ても、いわゆるドマクロ的発想はほとんど役に立たずに、むしろ事態を悪化させるという場合がけっこう多い。それどころか、この種の発想の論者たちは、ほんの5年くらい前に、中国の中央政府と地方政府の野放図な借金経済を「日本も中国を真似ればいい」と称賛すらしていたのだ。しかし、最初に真似たのは中国のほうで、1980年代の日本を真似て不動産バブルを崩壊させ、今のようなイビズな経済で苦しむことになり脱出が難しくなっているのである。
「中国の多くのプロジェクトが失敗する理由を理解するのは難しくない。習近平の産業政策が、企業とその立地地域において激しい競争を促していることが大きい。この競争圧力は価格を押し下げ品質の向上をもたらすこともある。自動車製造のBYD、電子機器のファーウェイ、そしてその両方を経営しているシャオミのように、この激しい混戦で勝ち抜いた企業は、世界に挑戦する力を備えた恐るべき存在となる。しかし、こうした企業はきわめて希であり、人材が豊富で資金力のある、すでに成熟した商業中心地に集中している」

しかし、いっぽう、こうした優良企業を生み出している中国経済を全体から見ればどうなのか。IMFのエコノミストたちが昨年シミュレーションしたデータによれば、中国の「全要素生産性」(資本と労働力の効率的な利用状況を示す指標として使われる)は、過去10年ほどの間にいまの産業政策によってむしろ1.2%ほど低下している。また、GDPも2%ほど低くなったという。これは「年間約4000億ドルの付加価値を放棄したようなもの」だと彼らは指摘している。
「技術競争に勝利することへの執着は、アメリカが意図せずに中国指導者たちに植え付けてしまった観念であり呪いといってもよいだろうと、中国政府の元アドバイザーは述べている。この競争は彼らの優先順位を歪めてしまい、最先端企業に多大でおそらく過剰な注力を促すいっぽうで、中国の根深い経済問題の解決にはほとんど目を向けない傾向を生み出してしまった。ロボットは増えているが、中国人民の士気は依然として低いのである」