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東谷暁による「事件」に対する解釈論

毎日のニュースも情報戦となった;バフムトも機密漏洩も戦場のなかにある

ペンタゴンの機密情報が21歳の空軍兵士によってリークされて大騒ぎだが、ウクライナをめぐる情報戦は日常的に続いている。それはバフムトに関する日本での報道をみていれば明らかだ。いっぽうでは、ワグネルの創始者ブリゴジンが「ロシアは敗北する」「停戦すべき時だ」といったと報じられたが、そのいっぽうでは、同じ情報なのにブリゴジンが「ロシアは十分な戦果を挙げた」と発言していることになっている。


産経新聞4月15日付の見出しを見た人は、ブリゴジンがウクライナの攻勢に「ロシアは敗北する」ので「停戦すべき時が来た」と言っていると受け止めただろう。いっぽう、テレ朝電子版4月15日付を目にした人は、ブリゴジンが「成果を上げているので」いまの「停戦が理想的」だが「戦いは継続する」と言っていると記憶するだろう。しかし、これは4月14日にブリゴジンがSNSに投稿した、同じ声明文からの報道なのだ。

では、どちらが正しいのか。実は、いずれも全文を読めば、ひとつながりの声明文を、それぞれ報道機関の立場で、違った印象をあたえるニュースに仕立てていることが分かる。もっとも、4月15日には露国防省が「ワグネルが2つの地域を奪取した」と発表しただけでなく、同日に英国国防省も「ロシアが新たに2つの地域を確保」と述べたと時事通信が報じているので、ブリゴジンがウクライナの攻勢に恐れをなして「もうやめよう」といっているわけではないことが分かる。


だいたいのところ、欧米報道機関のウクライナ情勢ニュースと比べて、日本でのネット上のニュースは1日遅れ、甚だしい場合には2日遅れになるので、この間に新しい情報が入ると、ネット上で見られる日本のニュースは、かなりの混乱をきたすことになる。たとえば、いま、ロシア正規軍とロシア民間軍事会社ワグネルとの関係は、悪化しているのか回復しているのか、ネット上の日本のニュースで判断するのはきわめて難しい。

さらには、ワグネル自体とブリゴジンとの関係も、状況によって微妙に変化しているようで、ブリゴジンの発言=ワグネルの方針とは必ずしも言えず、しかも、ブリゴジンはビジネス上での交渉や自分の存在感のアピールもあるために、言葉をひるがえしてはロシア正規軍やプーチン大統領と、情報で駆け引きを行っているような側面もある。


もちろん、日本人の大半はウクライナ情勢やブリゴジンの真意を常に追跡する必要などない。しかし、報道機関はそうではない。いったい何が起こっているか、生じてくる新しい情報を時系列を意識して、この複雑ないくつもの要素を整理する必要があるだろう。あんまり、自分たちの都合に合わせて報じていると、さすがに矛盾が大きくなるので、最低限、なぜそういう判断をしているのかは載せて欲しいものだ。

今回のアメリカ軍事情報の漏洩事件について考えるさいにも、いまワシントンポスト紙などは、ジャック・テシェイラが21歳で軍隊での地位も高くないのに、なぜトップシークレットにアクセスできたかという問題に集中しているようにみえる。結局、情報技術を持っている若者に、アクセスの許可を与えざるを得なかったということらしい。また、発覚が遅れたのは、テシェイラがリークを文字情報から機密文書の映像に切り替えたからだという。なるほどと思わないこともないが、それよりも疑問に思うのは、そして重要なのは、なぜ今、この事件がこの時期に発覚したかのほうだ。

 

どこまで関係があるのか、残念ながら厳密には分からないが、時系列で見れば影響を受けたと思われるのは、ウクライナの大攻勢の報道が一時的に途切れたことだ(17日ころから再び盛んになった)。情報ソースになっていたウクライナおよび西側諸国の情報関係者が、この事件でかなり慎重になったことは明らかだ。あるいは、それがひとつの目的だった可能性もある。

いま、どんな情報が漏洩したかは検証中だということになっているが、決定的にいまのウクライナ戦争の戦局を変えるようなものはない。しかし、このままではウクライナの大攻勢にマイナスの決定的な影響があるとの判断が働いていたのかもしれない。ウクライナの大攻勢を前に、監視を強化したことでテシェイラが網に引っ掛かったと考えるのが自然だろう。

下衆の勘繰りをすれば、事件そのものよりも、このタイミングで何らかのメッセージを送る(実は、我われはこれよりもっと重要な情報をもっている)という意図があったのではないかという気がする。報道によれば、ウクライナのほかにイスラエル、韓国(そして後に台湾も加わった)などの軍事情報があったという。これらはいずれも、現在の紛争地域である。まあ、下衆の勘繰りにすぎないけれども。