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東谷暁による「事件」に対する解釈論

バイデン大統領の代替候補たちのプロフィール;米民主党と米国の崩壊を炙り出す顔と裏事情

最初のディベートで「惨敗」して危機を迎えたバイデンに代えて、誰を新しい候補にするかの品定めがすでに始まっている。マスコミは何人かの想定候補をあげてあれこれ論じているが、残念ながらいまひとつ迫力がないのは、肝心のバイデンとその周辺が今もやる気まんまんで、候補を降りようとしないからだ。しかし、そんな中で進んでいる代替候補のプロフィールを見れば、米民主党の病巣とアメリカ社会の頽落が見えてくるのである。


英経済紙フィナンシャルタイムズ6月29日付は「誰がバイデンの代わりになれるか? 民主党のライバルたち」を掲載している。ざっと名前だけあげれば、カラマ・ハリス、ギャビン・ニューサム、ジョシュ・シャピロ、グレッチェン・ホィットマー、J・B・プリツカーの5人で、副大統領とあとはすべて現職の州知事である。たいがいの日本人にとっては、ハリス以外、ほとんど知られていない人たちで、もう知名度からして問題であることは明らかなのである。まずは、簡単に代替候補のプロフィールを紹介しておこう。以下は必ずしもフィナンシャル紙に従ってはいない。

カラマ・ハリス(59) もちろん副大統領だが、この人ほど影の薄かった副大統領はいなかったのではないか。他にも多くの副大統領候補者がいたのに、バイデンが敢えてこの法曹界の大物を選んだのは、大統領になってから自分より目立つことを抑えきれると思っていたからと思えてしまうほどだ。地位からして当然代替候補の筆頭だが、最近の世論調査でハリスを支持するのはわずか39%で、50%が支持しないと答えている。これではトランプを相手に戦えるとは思えない。

ギャビン・ニューサム(56) 現カリフォルニア州知事であり、いずれ大統領候補になるだろうと目されてきた。したがって、ニューサムがバイデンの代理候補に名前があがるのは当然なのだが、問題はそれが彼にとって得になるかどうかである。ニューサムはすでに2028年の大統領選を目指して、さまざまな準備をしているといわれ、いまの不利な状況のなかで、わざわざ味噌をつけるために立候補するとは思われないとの見方は根強い。そもそも今年がチャンスだと思うなら、すでに名乗りをあげているはずではないか。

ジョシュ・シャピロ(51) 日本の庶民はほとんど彼の名前を知らないが、アメリカそしてペンシルベニア州では、2020年に大統領選のさいに同州をバイデン支持に変貌させた大功績者として知られている。写真を見れば分かるように、質実剛健かつ地味な感じで、これまでの政治家としての経歴をみれば「いぶし銀のような」とかの称賛詞が付けられそうだが、それだけでアメリカ大統領にはなれない。トランプとのディベートに登場することになっても、司会者が一人増えたみたいに見えてしまうのではないだろうか。

レッチェン・ホィットマー(52) すでに何度も、将来の初の女性大統領の候補といわれてきた。いまミシガン州知事で「バイデンの次」は約束されたようなものだったが、どういうわけかバイデンは副大統領にハリスのほうを指名した。つまり、ホィットマーのほうがバイデンにとって第2期目の障害になる危険性が高かったということである。上院議員としても活躍しており、選挙の強さは無類のものがあるといわれる。中絶問題やヘルスケアー問題に強いコミットメントを示し、当然、トランプには極めて批判的である。

J・B・プリツカー(59) 現在イリノイ州知事であり、実業家や慈善家としても知られている。つまり、実家がホテル・ハイアット・チェーンを保有する大富豪プリツカー家なのである。恰幅がいいのはそのせいとは限らないが、政治家としての背景には資金力や人脈が控えているわけで、「民主党はいまや金持ちの政党」という近年顕著になった認識を例証するひとりではあっても、けっしてデモクラシーの守護神とは思ってもらえないだろう。最近の発言で知られるのは「トランプはプーチンの友人ではなく、自分がプーチンになりたいのだ」というもので、ちょっとウィットはあるが、単にそれだけのことかも知れない。

ざっと見てきただけでも明らかで、みんな自分のことのほうが忙しくて、いまの時点でアメリカや世界のためにすべてを捨てて何かをしてくれそうにはない。知事が多いのは「知事は大統領のための修練の場」とされているからでもあるが、強い権限と責任があり、そう簡単に辞められないのも本当だ。気の毒なのはハリス副大統領で、先日のディベートが終わった直後、「バイデンはスロースタートだったけど、堂々としていたわ」と発言したが、バイデンが終われば自分も終わることが分かっているからだろう。

 

【追記:6月29日19:15】ニューヨークタイムズが「バイデンに撤退を求めた」とされる記事が話題になっている。同紙6月28日付の「国家を救うために、バイデンは大統領選から撤退すべきだ」という記事である。かなり格調の高い文体で、バイデンのこれまでの功績を称えながら、残念ながらすでにバイデンがかつてのバイデンではないと今回のディベートをあげて指摘し、次のように述べている。

「自らの嘘で固められた大統領候補を打倒するもっとも明快な道は、アメリカ国民との真なる契約を結ぶことである。バイデン氏が彼の選挙戦を続けることはできないことを考えれば、11月にトランプ氏を打ち負かすことのできる、より強力な誰かを選出するプロセスを創り出さねばならない」

そのいっぽうで同紙は、かつてのバイデンと今回のバイデンの言動を動画で比較できるページを掲載し、いかにバイデンが変わってしまったか、直截にいってしまえば、いかに衰えてしまったかが一目瞭然となる「証拠」も提示している。社説としては可能な限り丁重に撤退をすすめ、動画では悲しいまでの変貌を読者に向かって再確認することをもとめているわけである。