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東谷暁による「事件」に対する解釈論

ディベートでボロ負けしても大統領になりたい;バイデンは2回目のディベートに向けて準備中

トランプとのディベートで、バイデンは精彩がなかっただけでなく、言い間違いや異様な興奮を示して、CNNの世論調査ではトランプの勝ち=バイデンの負けが67%だという。これは予想されていたことだが、バイデン陣営の慌て具合もそのボスと同様あたふたとしていてみっともない。当然のことながら、バイデンを候補者から降ろして、別の大統領候補を考えようとの動きもあるという。いったい米民主党に何が起こっていたのか。そしてこれからの大統領選はどうなるのか。


まず、何より米民主党はこの事態になることを予想していなかったのか。そんなことはない。米経済紙ウォールストリートジャーナル6月28日付の「民主党員たちは密かにバイデンを候補から取り下げる相談をしている」によれば、「この数カ月というもの、多くの民主党員は81歳の大統領が第2期目を務めるのにふさわしいのかをしてきた」。しかし、今回のディベートの結果に対しては「バイデンの様子にショックを受けて、彼らはバイデンを候補者から引きずり降ろす話を始めている」。

たしかに、地球の裏側からテレビで観ていても、バイデンは冴えなかったし、ひやひやするような反応を示していた。英経済誌ジ・エコノミスト6月28日付の「バイデンのひどいディベートは彼が候補になることに疑いを投げかけている」が分析しているのによれば、「バイデンは彼を批判する者が間違っていることを証明すればよかった」。つまり、現職の大統領なのだから「受け」に回って、トランプがとんでもない批判をするのをひとつひとつ否定すればよかった。「ところが、バイデンの言動は救いがないほどひどかった」。


では、いまからバイデンを大統領候補にするのをやめて、別の候補を立てるなどということができるのだろうか。英経済紙フィナンシャルタイムズの「オピニオン」欄には、エドワード・ルースという人物が「ジョン・バイデンを外すのは、まだ遅くはない」というそのものズバリの意見を寄せている。同氏によれば、あれこれ「不可能だ」という理屈はあるかもしれないが、「話はバイデンが立候補をやめることに同意するかいなかに過ぎない」というわけで、「けっして民主党に人がいないわけではないのだ」と述べている。

たしかに混乱は生じたとしても、もう負けが決まっている81歳の人物にいつまでもこだわっているよりは、少しでも可能性のある若い人物にかけてみるというのは、それほど非合理的な試みとはいえない。また、たとえ今回の大統領選でトランプに敗北しても、早晩、トランプは馬脚もボロも出し続けてしまうことは必定なのだから、そのあとの大統領選を確実に勝利する戦略は成り立つだろう。これまでもケネディ大統領が暗殺された後を引き受けたジョンソン大統領は、突然、第二期を目指さないと表明して混乱を生じさせたが、それで米民主党の歴史が終わったわけではなかった。


しかし、いまの民主党の中心にいる政治家たちは、なおもバイデンで行こうとしているというニュースも報じられている。フィナンシャル紙6月29日付の速報「プレッシャーが高まるなか、バイデンの選挙チームはトランプとの戦いを続けると宣言」によれば、もうすでに9月に行われる予定のトランプとのディベートに向けて準備を始めているという。いまさらやめてたまるかということなのだろう。しかし、世論調査でも、激戦区のデータでも、もう勝つ可能性は低く、今回のディベートでもバイデンが選挙戦を勝ち抜くほどの体力も気力も疑わしい状況なのである。

そもそも、2020年に大統領選挙に立候補するさい、女性としては初めてとなるハリスを副大統領に指名して、まるで次期大統領はハリスだといわんばかりの演技をして女性票を獲得した。それなのに、奇妙なことにこの女性初の副大統領はまったく見せ場がないままに、ボスの任期が終わり、そして自分も去らざるをえない状況にある。かといって、バイデンが新しい大統領候補を育ててきたかといえば、まったくそうではなかった。


いったん長年の願望だった大統領の地位に着くと、もう後生大事にくっついて二期を言い出したのである。今回のディベートだけが問題なのではない。若い候補の育成もなし、アフガン撤退でもでも性急すぎて失敗、ウクライナ戦争でもイスラエルハマス戦争でも、いまだに停戦の見通しが立っていない。コロナ期の大盤振る舞いでインフレを昂進させ、その始末もまだついていない。

となれば、そんな大統領が2期を目指すこと自体おこがましいのではないだろうか。これから始める選挙戦のなかで、無事に最後まで体力を維持できたとしても、当選はほとんど望めない。デタラメで嘘つきのトランプが大統領になれば、またしても世界中は政治、軍事、経済において混乱におちいるだろう。自国だけで混乱しているのなら、アメリカ民主主義よ何処に行ったと嘆いていればいいが、今度はそうはいかない。巨大な災厄が世界中を襲うことになるのである。それは、すべてとはいわないまでも、かなりの部分がバイデンの個人的な執着心のせいではないのだろうか。