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東谷暁による「事件」に対する解釈論

トランプの起訴は失敗に終わる;米国の混迷は続き、大統領選も悲惨だろう

トランプの起訴は失敗だったのではないだろうか。それは裁判になっても勝てないからではなく、この人物をちゃんと政治的に葬るのに、口止め料事件というのはちょっとせこいからである。そもそも、バイデンがどれくらいからんでいるのか不明だが、かなり政治的な匂いも強い。それでマンハッタン検察の大陪審とやらが勝利しても、アメリカの政治は少しも救われない。


もちろん、トランプ起訴のニュースは、アメリカの民主党系ジャーナリズムが競って報じているし、多少の懐疑的トーンをもたせた記事もある。しかし、いずれにしてもトランプが流している害毒と、口止め料をごまかしたという話では、つり合いがとれないのだ。逆にいえば、前回の大統領選挙でトランプを葬ったと思い込んだ、バイデンと民主系ジャーナリズムがあまりに甘かったのである。

しょせんは外国のことだから、というわけではないだろうが、英経済誌ジ・エコノミスト3月30日付は「ストーミィ・ダニエルズの件でトランプを起訴したのは失敗のように思える」という記事を載せて、このばかばかしいまでのアンバランスを指摘している。同誌の名誉のために言っておくが(そして、同誌もそのことに触れているが)、ジ・エコノミストは、トランプ批判については他紙誌に後れをとることはなかった。しかし、これではいくらなんでも案件が軽すぎるから、トランプは生き残るだろう、というのである。さらに、この起訴はおかしいと思う人たちが増えて、かえって支持率があがるかもしれない。


「以前も小誌は、トランプはアメリカにとってだけでなく、世界にとっても脅威となる大統領だと考えた。彼が大衆をワシントンで扇動したときも同様だった。彼が起訴されるとしても、本来はこんな『技術的』なことで起訴されるべきではなかった。マンハッタン地方検察は間違ってしまったように思う」

ということは、米民主党系の法曹界アメリカのジャーナリズムも、トランプを追い詰めることに失敗する可能性が高い。来年の大統領選挙でのトランプが再選するようなことが起こるまえに、ともかくも起訴できる「技術的」なケースをつかって、トランプを法律的に貶めようということだったのだろう。トランプにいまだに半分以上を支配されている米共和党はだらしないが、政権をとっていながら、この程度のことしかできない米民主党系もどうしようもないというしかない。

 

もう、さんざん報道されているが、この口止め料事件をジ・エコノミストが簡単にまとめているので見ておこう。まず、2016年の大統領選挙のさい、トランプの弁護士が元ポルノ女優に、ずっと前に付き合っていたことをバラさないように、口止め料を払った。この付き合いはトランプの3回目の結婚の1年前のことだったらしい。

その口止め料を支払うさい、弁護士はトランプの会社から「法務料」として払っておいて、あとでトランプがこの分を補填するという方法をとったという。こうしたやり方は、元ポルノ女優ストーミィ・ダニエルズ(本名・ステファニー・クリフォード)との「付き合い」を隠すためだった。もちろん会計ルールを逸脱していて違法であり、弁護士のマイケル・コーエンは2018年にそのことを認めたが、司法当局と「司法取引」をして、「トランプの指示で行った」と証言したわけである。


では、この「法務料」はいくらだったのか。13万ドルつまり今のレートだと1700万円強ということになり、選挙対策としても米国の選挙法をもしっかりと破っているので、その金額だけでもトランプの責任はあきらからしい。マンハッタン検察は起訴の内容を公表していないが、ここまで紹介してきたような内容だとすると、どうも「軽犯罪」ということになる。せいぜい罰金刑だろう。いちど破産同然となって金融産業に「使えそうだ」と救済してもらったとはいえ、トランプが大金持ちにはかわりない。大統領になるための費用としては、けっこう安かったのではないだろうか。

それはともかく、この「法務料」の捻出が違法であるだけでなく、また、金額もルール違反だとなれば、軽犯罪に終わるとしても、法の網から逃れることはできそうにない。つまり、有罪は間違いないというわけだが、「トランプ・チーム」といわれる弁護団によれば、すべての過ちは前出の弁護士コーエンの責任だと主張しているらしい。これからこの口止め料をめぐって、マンハッタン検察とトランプ弁護団の闘いが「ストーミィ(嵐のよう)」に続くことになる。

【追記 4月1日午前】4月4日に罪状認否が行われるが、20数件の罪状があり、このなかには「重罪」に相当するものがあると検察側はいっているらしい。もちろん、トランプ・チームは否認するかまえで、判決がでるのは大統領選が終わってからになるといわれている。バイデン側もトランプ側もこの起訴をどのように使うかがポイントとなる。やめた国家元首の罪を細かく起訴するというのは、しばしば「途上国」にみられる情けない現象だが、アメリカは途上国に戻ったといえるかもしれない。