HatsugenToday

東谷暁による「事件」に対する解釈論

モフセン・ファクリザデ殺害の暗部;イスラエルとトランプ政権の密約はあったか

11月27日、イランの首都テヘラン近郊アブサードで、イランの核兵器開発のトップと目されるモフセン・ファクリザデが、何者かに殺害される事件が起こった。イランの国防相によれば「武装テロリスト」たちの仕業であり、イラン外務相のモハマッド・ジャバド・ザリフは「イスラエルが関与した重大な形跡」があると発言している。

f:id:HatsugenToday:20201128222614p:plain


イランの最高指導者ハメネイ師は国営メディアで「報復する」と宣言し、また、ハメネイ師の軍事顧問であるデフガンはツイッターで「殺人者を急襲し、その所業を後悔させる」と述べている。いまのところ、アメリカのホワイト・ハウス、米国防総省国務省、CIAはコメントを控えているようだ。

 海外の報道をいくつか見てみたが、今回のファクリザデ殺害にイスラエルが関わっていることは、ほぼ間違いないようだ。あるメディアはその推測のひとつの根拠として、2年ほど前に、イスラエルの情報機関がもたらしたデータや写真を前に、同国のネタニヤフ首相が「この名前を銘記してほしい。モフセン・ファクリザデだ」と述べたことがあったという。

f:id:HatsugenToday:20201128222641p:plain

The Timesより


もちろん、それだけでイスラエルの関与を断言するのは不当だろうが、いまの状況のなかでイスラエルは、イランの核兵器開発をもういちど、世界に思い出させておく必要があったことは確かである。というのは、アメリカの大統領選挙もいよいよ決着がつき、トランプ政権からバイデン政権に移行していくなかで、トランプのようなイスラエル寄りの政策は望むべくもなく、バイデンはイランとの「核合意」に復帰すると思われるからだ。

 しかも、イランで核兵器開発が行われているとしても、この「暗殺」が必ずしも技術的な意味でストップをかけるものではないという指摘が、複数のメディアでなされている。たしかにファクリザデが核兵器開発の技術的トップであっても、現実には能力ある後継者が育っているからだという。専門家の中には、「以前だったら技術の進展にも影響があったかもしれないが、今回の殺害はむしろシンボリックなことを狙ったもの」と指摘する者がいる。

 そして、もうひとつ、これは状況証拠的なものだが、少し前に行われたポンペオ米国務長官イスラエルのナタニヤフ首相との会談は、こうした米国政権の大きな動きと関係がないはずがないという推測である。ナタニヤフにしてみれば、いまのうちに可能な限りイランの核開発をめぐる動きを牽制しておきたい。トランプ政権のほうも、中東政策において「バイデンの手を縛る」ため、何らかの対策を取っておきたかったというわけである。

f:id:HatsugenToday:20201128222716j:plain

The Timesより


では、いまイランの国内状況はどうだろうか。いわゆる改革派といわれるロウハニ師は影響力を失っていて、来年7月の選挙では敗北するだろうとみられている。逆に強硬派が再び復活しており、何らかのきっかけがあれば、一気に「イスラエルに操られている西洋」に対する反発が高まる恐れがある。これから「外交」を始めようとしていたときに、「復讐」と「対決」が急激にイランの政治の中心を占めていく危険性は大いにありそうだ。

 もう少しデータに基づく欧米における分析が聞きたいところだが、まだ、事件が起こったばかりだ。このテーマについても、追加したいと考えている。

 

●こちらもご覧ください

hatsugentoday.hatenablog.com