HatsugenToday

東谷暁による「事件」に対する解釈論

アストラゼネカのワクチンはどうなったか;生き残りをかけて追試に挑むらしい

コロナワクチンのレースで先頭を切っていたはずのアストラゼネカオクスフォード大学のワクチンが、90%と発表した有効性に疑問符が付いた。ファイザーとモデルナの有効性が95%であるのに加えて、さらに厳しい試練に直面している。しかし、これは単にアストラゼネカだけの問題ではないだろう。

 

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これまでアストラゼネカオクスフォード大学(以下アストラゼネカ)のワクチン報道を繰り返してきた英紙ザ・タイムズは、11月27日付で「オクスフォードのコロナワクチンが効用を証明するため、さらなる試練に直面している」との記事を掲載した。書いているのが科学担当だけでなく、ビジネス担当の記者も加わっているというのが興味ぶかい。

 というのも、アストラゼネカの株価が、ファイザーとモデルナの発表後、6%も下落したことで、証券市場の大きなテーマにもなっているからだ。もちろん、ファイザーとモデルナの株価は上昇しているが、もし、何か否定的な事実が発覚すれば、こちらだってどうなるか保証の限りではない。その事実というのが間違いであっても、株価は下落するだろう。

 さて、すでに報道されてきたように、アストラゼネカのワクチンの有効性の数値が、最初は70%と発表されて、それでも価格がコーヒー代なみ(420円くらい)で、8度くらいで保存できるというので、それなりの存在意義があるだろうと予想されていた。とくに途上国にはありがたいと指摘する人もいた。この点、ザ・タイムズは何度も報じていたものだ。

 ところが、肝心の有効性70%という数値は、実は、接種のしかたで90%にもなるという話が出てきたあたりで疑問符がついた。1回目の接種で半分の量のワクチンを打ち、2回目で全量打つと90%、2回とも全量打つと62%で、70%というのはこの2つの場合の合成でした、などと発表したものだから、このワクチン、ほんとうにダイジョウブかいな、という疑惑が生まれてしまったわけである。

 しかも、この違いがなぜ生まれたのか不明だと言ったのだから、不安を感じるほうが自然だろう。アメリカ政府当局によると、このアストラゼネカの第3相試験で90%の成果をあげたほうの接種対象は、55歳以上の人が加わっていなかったそうで、これも事実だとすれば、かなり苦しいことになる。

 ザ・タイムズによれば、これからアストラゼネカのワクチンは有効性を再度たしかめるための試験に入るとのことで、それは英国、ブラジル、南アフリカで「メタ・アナリシス」が行われるというが、まだ、どうなるか予想がつかない。

 

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もう少し辛口で報道したのが、ブルームバーグ11月27日付で、半分の投与は「製造過程の誤りによるものだったと同社は認めている」と指摘し、追加試験が世界各地で行われることに触れたあとで、「同社製ワクチンの暫定分析をめぐっては、どれほど有効なのか疑惑が生じている」と述べている。もちろん、アストラゼネカの言い分をちゃんと報じているが、株価にはきわめて厳しいだろう。

 周知のようにアストラゼネカのワクチンは、いわゆる「ベクターワクチン」で、ファイザーやモデルナの「メッセンジャーRNA型」とは異なっている。いまの段階では、どのタイプのワクチンが、新型コロナウイルスにもっとも効果的なのか分かっていないのだがら、さまざまなタイプが成功することが望ましい。その意味でも、価格や保存のアドバンテージだけでなく、ここで挫折してほしくないと思う。

アストラゼネカは、こうした疑惑に答えるべく、さまざまな手を打っていくと思われるが、同社によればすでに専門誌『ザ・ランセット』に試験結果が掲載されており、また、査読研究についても来週に公開されることになっているという。新しい報道があったら、追加しておきたい。

 

【追記】ザ・タイムズの同日付に「反ワクチン運動家がオックスフォードのコロナワクチンの混乱に付け込む」という記事を掲載している。これはアストラゼネカのワクチンについて、曖昧な点が多いことを取り上げて、ワクチン反対運動のターゲットにしようという動きがあることを報じている。デル・ビッグトゥリーという反ワクチン運動家が動きだしているというのだが、ザ・タイムズは有効性の発表の仕方が誤解を生んでしまった側面はあるものの、ワクチンそのものの安全性とは別だという立場で報じている。これから世界的にワクチンの一般人への接種に移行していくなかで、同様の動きがいくつも出てくることは間違いないだろう。コモドンの空飛ぶ書斎ではワクチン陰謀説を取り上げたが、こうした安全性をめぐる摩擦は、かならずしも荒唐無稽なものだけでない点がやっかいなわけである。日本もけっして例外ではなくなる可能性がある。いちど、反ワクチン運動と陰謀説について、ほんの入門的な紹介になると思うが、まとめてみたいと思っている。