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東谷暁による「事件」に対する解釈論

トランプが勝利した人口動態学的な背景;非白人住民、ヒスパニック、移民人口の規模

トランプの時代が来たとなると、もう欧米のマスコミは、これからの分析に傾斜してしまう。それは仕方ないともいえるが、なぜトランプが大統領になれたのか、なぜハリスは負けたのかについての分析が少ないのは、これからの政治について考えるとまずいのではないか。さまざまなデータを駆使した世論調査の当事者から、反省の弁を聞きたいものだ。


経済誌ジ・エコノミスト11月14日付は「トランプ勝利の人口動態学的な詳しい事情」を掲載している。ちょっと専門的な用語が多いので読みにくいが、要するにトランプが勝ったのは、人種差別や選挙人制度のせいではなく、「非白人労働者階級からの支持が急増したため」という。しかも、この非白人労働者階級の急増は、新たにやってきた人たちではなく、それまでいた人たちであり、その人たちが「考えを変えた」からなのである。

郡(カウンティ)単位で見ていくと、郡の実効に占める割合は、2020年から2024年にかけての選挙の動向を半分は説明してしまうという。それは2016年から2020年にかけての選挙の動向を説明するといわれた白人労働者の割合よりも、ずっと現実を説明する指標であることが分かったと同誌はいう。


たとえば、ニューメキシコ州のようにヒスパニック系住民は多いが移民は比較的すくない地域では、全国平均とそれほど違わない結果になっているのに対して、バージニア州ラウドン郡のように外国生まれの住人が多く、ラテン系人口がそれほど多くない地域では、トランプ支持の割合が増えているのだという。しかも、ここで注目すべきなのは、投票パターンを説明しているのは「移民人口の規模であり、その増加率ではないということだ」。

もちろん、これには例外もある。それはアイルランド、イタリア、ポーランドといったヨーロッパのカトリック教徒の三か国を先祖に持つ人が多い郡で、異例のトランプへのシフトが起こっている。これはアイルランドカトリック教徒であるジョー・バイデンを、民主党があっさりと排除してしまったことにたいする反発なのかもしれないと同誌は推測している。


では、ヒスパニック系住民の存在は今回の選挙に対して、なんの影響もなかったのかといえば、そんなことはない。「ヒスパニック系住民が最も多い上位10%の郡に住む有権者のトランプ支持は5・1ポイント上昇しているが、ヒスパニック系住民が最も少ない下位10%の郡に住む有権者のトランプ支持は上がったとはいえわずか1.6%に過ぎなかった」というデータもある。ただし、この傾向は先ほどの外国生まれの住民の規模のデータに比べると、影響はずっと少ないということである。

こうした人口動態的な動きのなかで、ハリスはまったく無力だったのかといえば、そうではないと同誌はやや同情的な見方をしている。バイデンが立候補にこだわって、そのため支持が下落していた数値からかなり引き揚げたケースも、少なくないというわけである。しかし、それは不利を覆すにはいたらなかった。同誌の言い方によれば「バイデンが掘った穴は、おそらくハリスが抜け出すには深すぎるものだったのだろう」。