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東谷暁による「事件」に対する解釈論

カマラ・ハリスは本当にトランプに勝てるのか;民主党の大統領候補がもつべき「強み」とは何か

アメリカのバイデン大統領が大統領選挙戦からの撤退を表明し、さらにカマラ・ハリス副大統領を民主党の大統領候補として支持した。その報道は世界に瞬時に伝わり、いまやアメリカ全土を揺り動かし、世界のアメリカを見る目が変わってきたようだ。しかし、これは本当に吉兆なのだろうか? あるいはさらなる凶兆に過ぎないのか? それを判断するにはもう少し時間が必要だが、とりあえず欧米のニュースから論点をいくつか拾ってみよう。


まず、いつもシニックな英経済誌ジ・エコノミスト電子版7月21日付「バイデンは民主党にホワイト・ハウスを勝ち取る第2のチャンスを与えた」という記事を見てみよう。一言で言って、「時間は短い。民主党は時間を無駄にしてはならない」ということに尽きる。バイデンの高齢が問題になってから、論点は彼が選挙戦から撤退するのかどうかに絞られた感があった。

「しかし、残念なことだが、頑固な老人を説得して引き下がらせるのは、勝利への第一歩に過ぎないということが明らかになった」と同誌はいつもの皮肉を利かせた言い方で述べている。つまり、大きな問題は実は他にいくらでもあったわけで、バイデンが撤退したらしたで、「では、誰を新しい候補に選ぶべきなのか」という、場合によればもっと困難な問題が控えていたのだ。それは、たとえバイデンがハリスを支持したからといって解決したわけではない。


実際、今の時点でビル・クリントン元大統領とヒラリー・クリントン国務長官はハリス支持をすぐに打ち出したが、いっぽう、バイデンの盟友といわれたナンシー・ペロシ元下院議長は支持を表明していない。さらに、妻が一時大統領候補として有望だとの説があったオバマ元大統領は明確な支持を口にしていない(いちばんいい形になったと言ったという情報は流れているが)。

さて、ではこのままハリスが大統領候補になったとして、トランプに勝つにはどうすればいいのか。まさに時間はあまりない。ドイツ紙フランクフルター・アルゲマイネ電子版7月22日付は「カマラ・ハリスはどれくらい強い?」を掲載して、何がこの人物の強みかを探っている。しばしば、ハリスは初の女性副大統領と言われてきたが、こんどは初の女性大統領というのがウリだといわれることがある。


しかし、フランクフルター紙によれば、もともとの強みはカリフォルニア州の司法長官を務めた、人権実現へのあくことなき追求にあったので、それが今度の選挙でもトランプを批判する武器となるという。バイデン大統領はせっかくハリスを副大統領にしておきながら、彼女の見せ場を作ることを意図的に回避してきたようなところがあった。同記事はハリスの背景にある法律家としての性格が、露骨に出るのを好まなかったためだと示唆している。

確かにハリスが大統領候補になったとき何が強みなのかという疑問に対して、これまで明快に答えた論評はなかったように思われる。ハリスが副大統領候補にされた当時は、ジョージ・フロイド事件が起こったばかりで、黒人の人権という視点が強調されていた。それがそのまま、今回の大統領選にも強い魅力となるかといえば、そうでないかもしれない。しかし、同紙はむしろ元司法長官の側面を出すことで「ハリスの最大の課題は、今年の大統領選までに、バイデンの影から抜け出すことだ」と指摘している。


こうした思想レベルや政治的傾向でのハリスや米民主党の性格を議論するのも必要だが、いまのような状況では、「はたしてハリスは選挙戦を戦う資金を確保できるのか」という、実に下世話だが不可避の論点もある。「時間も問題だが資金も問題だ」というわけだ。これを徹底的にやってみせているのが英経済紙フィナンシャル・タイムズ7月22日付で、「民主党の主導的寄付者たちはカマラ・ハリスを支持」との記事を掲載している。

LinkedIn.のリード・ホフマン、日本でも知られているジョージ・ソロス、その息子のアレックス・ソロスはすでにハリスを支持しており、ホフマンなどはすでに860万ドルを寄付した。寄付金を募っているブロードウエイプロデューサーのマーク・コルターレは「カマラ・ハリスが女性大統領になるときがきた。バイデンとトランプの討論会は悪夢だったが、いまは希望を感じている」とコメントして、寄付金は十分に集まることを示唆している。


いっぽう、もっと候補者たちに競わせて、盛り上げたほうがいいという金持ち民主党支持者もいる。大口献金者のスチュワート・バイナムは「私が代議員だったらミシガン州知事のグレッチェン・ホイットマーを支持する」と述べて、他の選択肢がまず提示されたほうがいいと主張している。また、ネットフリックス会長のリード・ヘイスティングスのように「われわれは激戦州の勝者を選ぶ必要がある」と述べて、激戦州こそが候補者選びと献金のポイントと、指摘する民主党支持実業家もいる。

とはいうものの、今回に限っていえば、やはり時間があまりにも貴重になっている。その意味ではカマラ・ハリスに収束する可能性がきわめて高い。また、資金についても何とかなりそうな気配もあるので、いよいよ「ハリスの強みとは何か」という肝心の問題に関心が集まっていくだろう。それは「バイデンよりはトランプとまともに討論ができそう」というのでは、本末転倒になってしまうのではないだろうか。