トランプ大統領はおそらくイラクに、これまでにない大きな打撃を与えることに成功するだろう。戦略家のなかには軍事的にはすでに完勝したと指摘する者もいる。しかし、イラクを属国のようにするのには多くの課題があり成功は難しいだろう。軍事的に勝利しても政治、社会、経済の難問が世界で急速に膨らんでいる。イランの最高指導者を暗殺し、その後、次の最高指導者は自分が指名できると思い込んでいたが、それは何故なのか。そしてそれは、これからのイラン戦略にどのように影響していくのか?

トランプの頭のなかの世界はどのようになっているのだろうか
英経済紙フィナンシャルタイムズ3月9日付に同紙軍事戦略コラム担当のギデオン・ラックマンが「トランプのベネズエラ的な戦略はイランでは失敗した」を掲載した。「そんなこと当たり前だろう」と思ってはいけない。なぜならトランプはかなり本気で、ベネズエラと同じような属国化が可能だと思っていたのだ。この安易さは失敗を余儀なくされただけでなく、これからのイラン問題の解決に大きく不気味な影を投げかけている。
「ベネズエラの大統領誘拐から数週間後、アメリカはイスラエルと共謀し、イラン政府を転覆させようと動きだした。このときトランプは、ベネズエラの新指導者選出における自身の優越した役割を、イランの場合でも応用できると思っていた。彼は政治メディアであるアクシオに『ベネズエラのデルシ(・ロドリゲス現大統領)のときのように、任命には私が関与することが必要だ』と語っていた」。そしてそれは決して冗談でいっていたのでないことは、世界に向けて同じことを予告したことでも分かる。

マドゥロ前大統領を誘拐して大統領をすげかえた
「しかし、その希望は少なくとも今のところ、イランの新しい最高指導者は、戦争の序盤に暗殺された前指導者アリ・ハメネイの息子、モジタバ・ハメネイになるという発表によって打ち砕かれた。イスラエルは息子ハメネイの暗殺を企てる可能性が高い。しかし、たとえ成功したとしても、イランの将来の指導者が、トランプによって決定される可能性が低いことはすでに明らかになっている」
ラックマンによれば、ベネズエラの場合、作戦を開始してニコラス・マドゥロ前大統領を拘束する以前から、後継者となったデルシ・ロドリゲス(当時、副大統領)と接触していたことは明らかだという。ロドリゲスはすでに副大統領を務めていたので、彼女を新指導者に据えることは比較的容易だった。しかし、イランの場合はまったく異なる。アメリカにとってハメネイの後継者となるような人物の準備がまるでなかった。

前国王の息子レザ・パーレビ―。父とそっくりの風貌だ
また、急にマスコミに登場するようになった、前国王の息子レザ・パーレビ―についてもワシントンは関心を示していなかった。そしてまた、アメリカはイランの民主化勢力の願望についても、ほとんど考慮した形跡がないのだという。こうした状況にありながら、自分が口をきいてやれば新指導者はすぐに就任できるようなホラ話をするところが、いかにもトランプらしいといえばそうかもしれない。しかし、何といっても問題は、イランという国の複雑な歴史と、中東での大きな存在感があることが念頭にないまま、イランへの本格的攻撃を決めていることである。
ラックマンは、これからトランプがどう動くか推論している。イランへの侵攻は経済的影響も即座に大きなものになり、ホルムズ海峡の事実上の封鎖をうけて世界の原油価格が高騰し、ガソリンの長期的上昇と市場の低迷を生みだした。これらは中間選挙を控えたトランプにとって、何らかの対策をとることを要求している。しかし、トランプという政治家は2020年の選挙の敗北を、むしろ好機として復活した類まれな存在である。彼は明らかに敗北していたのに、勝利を主張して逆転に結びつける能力があることも、考慮しておかなければならないとラックマンは(おそらく本気で)述べている。そのうえで次のように締めくくっている。

敗北しても、それを勝利につなげる類まれな能力の持ち主
「トランプがイランで勝利を宣言したうえで撤退するのは容易ではないかもしれない。この地域には約4万人のアメリカ軍に加え、軍事基地、経済資産、そして脆弱な同盟国が存在している。トランプは自分の意思でこの戦争を開始した。しかし、自分の意思だけでこの戦争を集結させることはできないだろう。この壮大なエピック・フューリー作戦は、壮大な失敗に終わる危険がある」