HatsugenToday

東谷暁による「事件」に対する解釈論

イラン戦争を始めたのはトランプかネタニヤフか;成り行き次第で変わる「本当の犯人」

トランプ政権内でも企業家や投資家たちの一部は、今回のイラン攻撃に対して懐疑的で、いまやその中心人物が「すぐに勝利宣言をしてイランから撤退すべきだ」と主張している。たしかにアメリカ軍とイスラエル軍が、イラン軍に対して圧倒的なパワーを持っていることは明らかだが、長期化してしまうと彼らのビジネスにマイナスの影響をもたらすということが、最大の関心事項だと思われる。では、そのさいの撤退理由はどのようなもので、この泥沼へ引き込んだ真犯人は誰だということになるのだろうか?


英経済紙フィナンシャル・タイムズ3月14日付けは「トランプのアドバイザーがイラン攻撃の勝利を宣言して撤退せよと要求している」を掲載した。トランプにかなり近いデイヴィッド・サックスが「いまが勝利宣言とイラン撤退の好機だ」と語ったというので注目されている。サックスは「AIと仮想通貨のツァー(大立者)」と呼ばれることもある投資家で、さらに「そのほうが市場はずっと喜ぶはずだ」と付け加えている。

このサックス発言が注目されているのは、トランプ政権に集まっている企業家や投資家たちのグループのなかでも、AIと仮想通貨について影響が大きいサックスが、明確に自分たちが損をしない方法を提示したことにある。トランプ大統領も戦争は長引かせないと述べていたが、そのいっぽうで「軍事ターゲットについてはすべて壊滅させる」と咆哮し、イランの石油輸出ハブを攻撃しているので、そう簡単にサックス案には従えない。


それどころか、国防長官であるピート・ヘグセスなどは、英経済誌ジ・エコノミスト3月14日付けの速報によれば、イランの新最高指導者への空爆による攻撃について、「新しい最高指導者は怪我をしており、おそらく大怪我だと思われる」とまで発言して、アメリカのイラン戦争の成功を強く印象付けようとしている。同じ報道はフィナンシャル紙も「ヘグセス国防長官が新最高指導者は怪我をしており、おそらく大怪我だろう」と報じている。違うのは「おそらく」を前者が「プロバブリイ」なのに対して後者が「ライクリー」にしていることくらいか。

実は、前出のサックス案は、英経済紙フィナンシャル・タイムズの軍事コラムニストであるギデオン・ラックマンが、数日前に自分のコラムのなかで述べたことと同じだ。これはすでにこのブログで紹介しているが、ラックマンもまた、トランプがイラン攻撃をベネズエラのケースと同じように考えていたと指摘しつつ、「トランプは勝利宣言をしたうえで撤退すればいいのだが、それはかなり難しいだろう」と述べている。


いまのトランプ政権の動きを見ていれば、これはまだまだイラク戦争を続ける気らしいと思えるが、いずれ撤退の局面はやってこざるをえない。そこで問題になるのが、イラン攻撃(しばしばイラン戦争と表記されるようになった)にアメリカを巻き込んだのは誰なのか、そしていま離脱するのは何故なのかだろう。少なくとも、こうした事項がはっきりしなければ、これ以上の支持はできないと思い始めている人たちは多くなっている。

2002年のイラク戦争のさいにはイスラエルの影響は大きかったといわれる。アメリカに生まれた「イスラエル・ロビー」の影響力が、アメリカの政治を大きく動かしているとの指摘は、政治学者のミアシャイマーとウォルトによって繰り返し行われた。興味深いのはこの2人から影響を受けたと思われる人類学者のエマニエル・トッドが、近著ではイスラエル・ロビーを「デタラメ」と呼んでいることだ。


これは矛盾しているようにも見えるが、トッドはこう書いた後にも、同じ論文でミアシャイマーを丁寧に引用している。ここでトッドが述べているのはイスラエル・ロビーが何から何までトランプに指示し、それにトランプが従っているという認識はまったくの間違いだということなのだろう。つまり、トランプが中東問題でリーダーシップをとってしまっているのだから、それをイスラエル・ロビーのせいにはできず、彼には「主犯」としての責任があるということだ。

どこまでイスラエルが引っ張り、それにトランプが引き摺られているかについては、論証および判断が難しいが、ジ・エコノミスト3月12日付けのコラム「レキシントン」が「アメリカのイスラエル批判ロビー」とのタイトルで、中東におけるアメリカの戦争に関してイスラエルの影響について論じている。結論は「イラン戦争が失敗に終わったら、MAGA(アメリカを再び偉大にしよう)支持者はドナルド・トランプ以外の人物を真犯人にしたがるだろう」というものだ。


このコラムは次のような回想から始まる。2002年、「サダム、サダム政権を打倒すれば、この地域に計り知れないほどの好影響が及ぶことを保証します」と、ベンヤミン・ネタニヤフはジョージ・W・ブッシュ大統領がイラク侵攻を検討していたとき、議会で証言した。しかし、このときネタニヤフは当時、権力の座についてはいなかった。当時はアリエル・シャロンがイスラエルの首相であり、「もしアメリカが侵攻するなら、できるだけ撤退すべきだ。そしてイラクを民主主義国家に変えられるなどと思ってはいけない」。あまりにも正しい指摘で驚くしかない。このコラムの筆者は続ける。

「過去2回の湾岸戦争では、アメリカの主導者たちはイスラエルの介入を懸念し、イスラエルを阻みながら同盟国を募ろうとした。しかし、今回は両軍が共闘することになり、そして結局、アメリカはいまや単独同然で戦ってしまっている。マルコ・ロビオ国務長官が、事実上イスラエルが最初の攻撃のタイミングを決めたと発言した直後にも、ドナルド・トランプが激しく否定かつ訂正して、むしろ私がイスラエルに圧力とかけたといえるかもしれないと述べている」


これはトランプがこの時点でイラン侵攻はほとんど成功したと思っていたからで、もし、このイラン戦争が長引いてしまい、経済的なマイナス効果が大きくなり、さらにはアメリカの兵士にも多くの犠牲者をだすような事態になったらどうなるのだろうか。例によってトランプは別の話をでっちあげて、自分の責任は軽微であって、やむにやまれぬ思いをして先制攻撃をしたのは、別のリーダーだといいだすのではないだろうか。このコラムの締め括り部分を引用しておこう。

「ネタニヤフによるガザ地区への容赦ない攻撃は、米民主党員の支持をさらに下落させると同時に、アメリカ第一主義を掲げる米共和党にとってのリスクも露呈させた。中東調査研究所の昨年12月世論調査によれば、イラン戦争が始まる前から45歳未満の共和党員の大半はイスラエルへの軍事支援の削減を支持していた。トランプの支持基盤であるMAGAはおそらく彼に背中を向けることはないだろうが、この戦争が失敗に終わったとき、他の誰かに失敗の責任を負わせることになるわけである」