トランプ大統領はいまや、ホルムズ海峡をめぐる「ディール」に乗り出して、危うい駆け引きを行っている。高市早苗政権はそれに対して何ができるかをトランプに問われており、日本の国内法を盾にどこまで、海外派兵から逃れられるかの苦しい綱渡りを強いられている。ところでイスラエルはどのようなスタンスなのだろうか。もちろんアメリカと共にイラン戦争を戦っているのは明らかだが、ネタニヤフ首相はいったい何を求めているのだろうか。

英経済紙フィナンシャル・タイムズ3月23日付に、軍事・外交コラムニストのギデオン・ラックマンが「ネタニヤフはイスラエルの未来とギャンブルをしている」を投稿している。アメリカ国民はいまやしだいにトランプの戦争への傾斜に対して懐疑的になっていて、特に石油を高騰させてしまうイラン戦争に対しては、反対する人が急増している。では、イスラエルではどうなのだろうかいうと、何と80%以上のイスラエル国民は、イラン戦争を遂行しているネタニヤフを支持しているのである。
それはハマスによるイスラエル市民襲撃以降、ネタニヤフがガザ地区で激しい攻撃を行って復讐を行い、さらにレバノンではヒズボラを壊滅させているからなのかもしれない。しかし、実はそうしたイスラエル国内で公式に報じられていることは、かならずしも正しいわけではない。イスラエル軍はガザ地区のハマスを完全に掃討したわけではないし、また、ヒズボラについても完全な勝利を収めたわけではないことは明らかだからだ。ましてやイランについては、アメリカとイスラエルの当局が宣伝してきたようにイランの核兵器を不可能にしたわけでも、イランの脅威をなくしたわけでもないのである。

イスラエル国民がいまのイラン戦争に期待しているのは、もちろん、中東にイスラエル帝国を建設するという野望を支持しているからではない。そうした荒唐無稽といってもよいような幻想を持っているイスラエル人はいるかもしれないが、そもそも、ここまで中東のなかで異質な国家が、周囲の国家の協力を得て帝国的秩序を打ち立てることは難しいし、また、軍事力だけで支配を強制することも無理である。前出の80%のほどんどの人たちが期待しているのは、イスラム国である他の国の脅威から自国を守れる程度に、この地域に軍事力による圧力を与えられるようになりたいのだと思われる。
そう考えればラックマンが次のように指摘することが妥当であることが分かるだろう。ラックマンは、イスラエルにとって最も危険なのはイランが強大になることではなく、アメリカが中東地域から引き揚げるだけでなく、イスラエルへのこれまで与えてきた援助をやめてしまうことなのだというのである。それは単に軍事的なものだけでなく、国連などでのアメリカの外交的支援も極めて大きかった。ラックマンは述べている。

「アメリカが泥沼に引きずり込まれ、アメリカ人の命が失われ、経済が崩壊するようなことがあれば、米国内のイスラエルに対する反発はますます強まるだろう。その結果、2028年の大統領選挙において、民主党と共和党の両候補がイスラエルの政治的・軍事的支援を縮小する主張を持つ可能性は十分に考えられる。これは長年アメリカに大きく依存してきたイスラエルにとって戦略的に大惨事となるだろう」
実はこの事態こそが、アメリカのリアリスト政治学者、ミアシャイマーやウォルトたちが望んできたものでもある。彼らが最初に論文版の「イスラエル・ロビー」を書いたときに強調していたのは、アメリカは金額にしてイスラエル国民1人あたり約500万円相当の支援を毎年続けているという、おどろくべき事実であった。

つまり、イスラエルはアメリカから、当時、日本人の平均年収と同じ金額を、その全国民に軍事や外交その他の名目で、与えられていたということなのである。彼らはそれをすべてなくせとは言っていなかったが、あまりにも多すぎることは明らかだ。そして、イスラエル自体の努力もあったことはもちろんだが、いまの武断国家が成長し、今回のイラン戦争にまで至ってしまったのだ。今回のラックマンのコラムは、まだまだ紹介したいところがあるが、最後の部分を引用して終わりにしよう。
「ネタニヤフ首相は、イランやパレスチナとの対話を推奨する人たちを、世間知らずの馬鹿者と繰り返しせせら笑ってきた。しかし、実際には政治的・外交的な方法こそが、イスラエルの安全保障を確保するための、唯一現実的で長期的な道筋である。ネタニヤフのやり方は、アメリカ国内を含む国際社会のイスラエル支持が急速に低下しているなかで、永続的な戦争を招くことになるだろう。それはまさに破滅への道なのである」