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東谷暁による「事件」に対する解釈論

イラン攻撃におけるトランプ=ネタニヤフの6つの「愚行」;なぜ2人は間違ってしまったのか

はたしてトランプ大統領は十分に準備をしたうえで、イランへの爆撃を再開し最高指導者ハメネイの殺害を実行したのだろうか。英経済紙フィナンシャルタイムズの軍事外交コラムニストであるギデオン・ラックマンは次のように述べている。「アメリカは2001年と2003年にアフガニスタンとイラクに侵攻して政権転覆を行った」。これが浅慮だったことは後に明らかになった。「しかし、今回の米国とイスラエルによるイラン攻撃に比べれば、よっぽど綿密に計画されていたようにすら思えてくる」。

「おまえが悪いんだよ」「そうかなあ?おれはグゥだよ」


フィナンシャル紙3月1日付に前出ラックマンが投稿した「トランプはイランの将来に現実的な計画を持っていない」は、きわめて常識的な観点からトランプとネタニヤフが再び始めてしまったイラン攻撃を「非現実的」と批判している。日本人でもトランプのことを世界の救世主のように崇め、日本の高市首相はその使徒と受け止めている人がいるくらいだから、今回のハメネイ殺害も歴史に残る英断と受け止めている人もいるかもしれない。しかし、歴史に残ることは確かでも、軍事や外交の常識からしてそれは「愚行」としてだろう。

「アフガニスタン戦争やイラク戦争における米兵の死や国家建設の失敗は、ドナルド・トランプに、アメリカ軍をしてイランにおいて地上戦を展開させるのは、愚かな行為だと思い込ませたようだ。しかし、その(おかしな)確信のために、トランプは空軍力のみによる政権交代という、実に前例のないプロセスに本気で取り組んでしまっているようなのである」

本当はもうボロボロではないのか


まず、これが今回のトランプ=ネタニヤフの愚行①ということができるだろう。そんなことはない、日本という前例があるといいたがるアメリカ人もいるだろうし、昭和天皇の聖断でそれが可能になったと誇らしげにいいたい日本人もいるかもしれないが、現代の戦争において空爆だけで相手の政権を交代させた例はない。日本の場合も2発の原爆とソ連の参戦(地上部隊の侵入)がなければ、あのような形での「終戦」を行ったかはきわめて疑わしい。

つぎに、愚行②としては、トランプが盛んに「イラン国民」にむけて、「いまが政権奪取の唯一最高のチャンスだ」と煽っていることだ。しかも、同時にトランプはイスラム革命防衛隊に「武器を捨てよ」などと呼びかけている。「この人、ほんとに大丈夫かね」と呟きたくなるような言動といえる。ラックマンは次のように書いている。「これらのトランプの指示には、具体的な内容がまったく欠けているところが特徴的なのである。イスラム革命防衛隊はすでに空爆を受けており、たとえ同防衛隊の兵士たちが武器を放棄するとしても、イラク国内には武器を渡せる機関や軍隊は存在しないのだ」。

おれがやればうまくいく、ほんとだって


これはラックマンが書いていないことだが、アメリカはイラク戦争のさいにイラク軍に武装解除させるだけでなく、武器をすべて取り上げて軍隊そのものを解体してしまった。どうなったか? 国内の治安が急激に下落して、たちまちアナーキーな状態が広がり、イラクは中東の過激集団の草刈り場と化した。戦史家のジョン・キーガンがあきれて著作に特記して批判しているほどである。秩序維持のための代替組織がないかぎり、軍隊を解体することは絶対にやってはいけないことなのだ。

さて、愚行③は何かといえば、まさに最高指導者ハメネイだけでなくイラク軍の幹部を複数殺害してしまったことだ。「イラン指導部のクビを斬り落とし、政権の軍事力を破壊すれば、アメリカのさらなる介入を必要とせずに、ある種の有機的かつ自発的な新政治体制への移行がすんなり実現するだろうという期待がトランプとその周辺に高まっているようだが、しかし、そんなことが本当にうまくいくとの根拠は存在していない」。たとえ相手が降伏するさいにおいても、直接の交渉相手が有力でなければ話は進まないのだ。

有力者を殺せば、それだけ混乱が大きくなるだけ


そして、愚行④を見ていきたいが、これはイスラエルのネタニヤフに顕著にみられる。彼はトランプと同じようにイラン国民に対して、いまのイラン政権を打倒せよなどと勧めている。これは中東という地域について知っているはずの国家元首としては、愚行の度合いは遥かに高い。「ネタニヤフの視点からすれば、現在の状況は危険な敵を排除する歴史的な好機だと思えるのだろう。しかし、彼はイスラエルがイランの報復ミサイルなど簡単に阻止できると思っているが、彼が友好国として扱っているアラブ首長国連邦、カタール、バーレン、サウジアラビアなどにも、イランのミサイルが向かうことを忘れているのである」。

加えて、もういちどトランプに戻って愚行⑤だが、どうも彼はこの戦争が長期化するとはまったく思っていないようなのだ。敵の親玉のクビは斬ったのだから、あとはじわじわ爆撃すれば、イランの反体制勢力がいまの政府を転覆して、親米的な政府ができるとでも思っているのだろう。「しかし、アメリカは事態収拾のために、この地域へのさらなる資源の投入を迫られるだろう。米軍兵士が殺されれば、トランプといえども戦争のエスカレーションに直面することになる」。

消えつつあるトランプの存在感


もうひとつある。これが場合によればトランプにとって一番厳しい結果を生み出すもので、愚行⑥はアメリカ国内の激しい批判が高まるということを忘れていたことである。「国内政治におけるリスクは相当大きい。9.11のトラウマの後、アメリカ国民はアフガン戦争とイラク戦争の両方に強く賛成した。前者についてはアメリカ国民の約90%が侵攻を支持し、ブッシュ大統領への支持も高まった。後者についても支持率は約70%で議会でも超党派的支持があった。しかし、今回はどうなのか? イランに対する軍事力行使支持はわずか27%でしかないし、今や民主党だけでなく共和党の一部もイラン攻撃を批判している」。