HatsugenToday

東谷暁による「事件」に対する解釈論

デルタ株で苦闘する中国;奇妙なワクチンのデータ隠蔽が首を絞めている

武漢パンデミックを鎮静化させて以降、鉄壁の防御を誇ってきた中国のコロナ対策に、ところどころ綻びが生まれてきた。いうまでもなくデルタ株の感染拡大によるもので、同国の国家保健委員会は8月9日、新たに94件のコロナ感染を認めた。これで中国内では合計1603件に達し、シノファームやシノバックの中国製ワクチンがデルタに効くのかどうかに注目が集まっている。

f:id:HatsugenToday:20210810152139p:plain


フィナンシャル・タイムズ紙8月10日付によれば、いちばんの不安はこれら中国製ワクチンのデータが詳しく公開されていないことだ。ことに「ファイザーアストラゼネカ、モデルナなどのワクチンと異なり、中国製ワクチンがデルタ株にどれくらい効くのか、ちゃんとした国際学術誌に査読付きで公表していない」のは、いちじるしく不安を大きくしている。

こうした、いわば「コロナに関する情報統制体制」は、かなり徹底したものらしい。先週も人民日報の記者が南京の衛生当局に、新たにデルタ株に感染した人で、すでに中国製ワクチンを受けた人はどれくらいいたのか聞いたところ、答えてもらえなかったどころか、この女性記者は上司から懲戒されたという。これではまるで旧ソ連の「チェルノブイリ報道」のようなもので、肝心なことを教えてくれないとなれば、人は悪い方に悪い方にと解釈してしまうだろう。

f:id:HatsugenToday:20210810152213j:plain

FT.comより


すでに中国はワクチン外交によって、世界に5億7000万回分の自国製ワクチンを送り出しており、提供を受けた国々が欠落したデータを、自国の国民に接種することで補っている。たとえば、これまでもチリでのワクチン接種によって、シノバック製ワクチンは感染を防ぐのに66%の有効性があり、また、入院を回避する効果は88%あることがニュー・イングランド・ジャーナル・オブ・メディシンに掲載された。この成果は、ブラジルで生まれたガンマ株でのデータを含んでいるという。

そのいっぽうで、香港大学が発表した研究によれば、医療従事者に接種されたファイザー製のワクチンは、シノバック製のワクチン接種に比べて、中和抗体が10倍にも達しているという。つまり、シノバックは10分の1ということだ。また、これは査読のない論文によるものだが、シノバックのワクチンが生み出す中和抗体は、6カ月ほどで急速に減少するとの指摘もある。

とはいえ、たとえば6カ月後に第3回目の接種を受けると、第3回目の接種をうけなかった人にくらべて、抗体は5倍に急伸したという。これが本当なら、中国製ワクチンが効果がないというわけではないことは明らかである。

f:id:HatsugenToday:20210605142047p:plain


こうしてみると、ファイザーやモデルナのワクチンに比べて、有効性においてはかなり低いものの、ある程度の実用性が見込めるわけで、それなのになぜ中国は細かいデータを発表しないまま、多くの国々に提供してきたのか分からなくなる。香港の衛生当局ではいま、第3回目の「ブースター」として、ファイザーにするかシノバックにするか検討しているとのことだ。

あえて述べておけば、この程度の国産ワクチンの有効性で、どこまで急速なデルタ株やその他の新種の感染拡大を阻止できるかが、中国にとって問題となるが、最もよいのはデータを公表して、生まれる指摘や他国でのデータとの比較で、改良を行っていくことだろう。しかし、それを素直にやれないのが、いまやグロテスクな大帝国へと成長しつつある中国の沽券というものなのかもしれない。