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東谷暁による「事件」に対する解釈論

オミクロン株についての神話;危険を呼び込む誤解と錯覚に気をつけろ!

オミクロン株の性質が、これまでの新型コロナ変異株と大きく異なっているために、さまざまな誤解が生じている。その中には専門家が発表した論文の誤読によるものもある。たとえば、オミクロン株がデルタ株を「駆逐」しているのなら、ワクチンは打たなくとも、オミクロン株に感染すればワクチンの代わりになるという、とんでもない誤解が流布している。ここでは、この危険な「神話」の代表例について述べてから、そのあとで、WHOが1月19日に慌てて発表した「現実:神話」の対比一覧を紹介することにしたい。

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独紙フランクフルタ―・アルゲマイネ1月18日付は「オミクロン株はワクチンの代わりにはならない」というタイトルのレポートを掲載している。書いているのはヨハヒム・ミューラー=ユンクで、新型コロナパンデミックが始まって以降、多くの専門家を取材して新型コロナの現状を追跡してきた。このオミクロンがワクチンの代わりになるという「神話」の元になったのは、多くの誤情報の拡散だと思われるが、ミューラー=ユンクは南アフリカで発表された研究の影響が大きいと見ている。

「この南アフリカで発表された研究に従うと、オミクロン株に何百万人もの人が感染するという波が、最終的には、より危険とされているデルタ株を、駆逐することになるようにみえる。ということは、オミクロン株に感染したすべての人が、デルタ株に対する免疫も構築するのだというわけである。しかし、これはどんでもない結論にほかならない」

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つまり、これはオミクロン感染以前にワクチンを打っていた人が、いわゆる「ブレークスルー感染」(ワクチンを打っているのに感染すること)を経験することで、(抗体が強化されるなどの変化が生まれるので)、あたかもオミクロン株の感染について、「ブースター接種」(第3回目の接種)を受けたかのように感じてしまうことから生まれる錯覚なのだ。

では、現実はどうなのか。オミクロン株の感染によって生まれる抗体反応は、実は、デルタ株の感染によって生まれる抗体反応よりずっと弱い。それは抗体レベルでもT細胞に生まれる反応のレベルでも同じだ。したがって、この神話が生まれるについては、デルタ株感染やワクチン接種によって生じていた、抗体の増量やT細胞の活性化が、あたかもオミクロン株の感染によって生じたと、思い込んでしまった可能性が高いというわけである。

抗体の増量についての報告は、真面目に研究している専門医も行っているので話はややこしくなるのだが、それはひとつの事例でしかない。しかし、それが一般的に成り立っていることが証明されないかぎり、とても信頼してしまってよいような仮説ではない。すでに「コロナの『集団免疫』神話よさようなら;しかし、新しい救世主はまだいない」で紹介しておいたが、アメリカのある大学では、ブレークスルー感染した人の抗体が10倍(1000%)になった例があったという。しかし、他にも同様のデータがないかぎり、そして因果関係があるていど証明されないかぎり、一般論にはならない話だろう。

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さて、先ほど述べたように、WHOが1月19日に発表した「オミクロン変異株;神話から事実を選り分ける」を簡単に紹介しておこう。「さまざまなメディアやSNS、あるいは検索から、さまざまなオミクロン株に関する神話を見つけることができる。ここでは現実について説明したい」とのことである。事実と神話の対比の部分を引用したので、まず、ざっと眺めていただきたい。

 

事実:オミクロン株はデルタ株より重症化しないように見えるが、それでマイルドだと見なすべきではない。

神話:オミクロン株はたんにマイルドな症状を引き起こすだけだ。

 

事実:オミクロン株はいまも保健システムに高いリスクをもたらす。

神話:オミクロン株は重症化しないので、入院することはほとんどないし、保険システムもいまの状態を維持できる。

 

事実:ワクチンはオミクロン株に対してかなりの防御をしてくれる。

神話:ワクチンはオミクロン株に対して機能しない。

 

事実:ワクチンを接種していない人はオミクロン株に対して大きなリスクをもっている。

神話:ワクチンを接種していない人でもオミクロン株で重症化することはない。

 

事実:オミクロン株は普通の風邪よりずっと危険である。

神話:オミクロン株は普通の風邪なみである。

 

事実:オミクロン株はすでに新型コロナに感染した人でも再感染する。

神話:以前に新型コロナに感染していればオミクロン株には感染しない・

 

事実:ブースター接種はオミクロン株や他の新型コロナ変異株の感染による重症化から守るのに効果がある。

神話:ブースター接種はオミクロン株による重症化を阻止するのに効果がない。

 

事実:マスクをかけることは、オミクロン株の感染や拡大を引き下げるのに有効な手立てだ。

神話:マスクの材質の隙間よりウイルスのほうが小さいので、マスクはオミクロン株を予防するのには役に立たない。

 

事実:いまのところパンデミックが終わる兆しは見えていない。

神話:オミクロン株が重症化しないので、パンデミックは終わりに近づいている。

 

以上、ほとんど「事実」のほうは常識といってよいことばかりだが、「神話」は不安や恐怖があるところに発生する。冷静に考えれば間違えようのないことでも、ペテン師的な人間は、不安や恐怖によって生まれた隙間を狙って、根拠のないこと、根拠の疑わしいことでも、あたかも「事実」であるかのように語るのである。

 

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