HatsugenToday

東谷暁による「事件」に対する解釈論

コロナの「集団免疫」神話よさようなら;しかし、新しい救世主はまだいない

希望を支えていた神話が崩壊すると、こんどは新しい神話や新説にすがりつきたくなる。それは人間の当然の性向で、とくに注目すべき現象ではないが、なかにはちょっと気をつけたほうがいいと思われるものもある。たとえば、コロナ禍について盛んにいわれた「集団免疫」がほぼ達成不可能だと分かると、こんどはオミクロン株が新しい救世主だと主張するような言論である。

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ウォールストリート紙電子版1月17日付に掲載された「集団免疫よさようなら――長期に続くスーパー免疫」というオピニオンは、電子版に掲載され翌日プリント版にも登場して、あっという間にオピニオン欄で人気一位になった。たしかに、新型コロナウイルスとコロナワクチンのメカニズムを、T細胞とかB細胞を取り上げて細かに解説したうえで、これまでのワクチンを接種した人がオミクロン株に感染すると、すごいスーパー免疫が得られるという論旨になっている。

もちろん、このオピニオン記事には研究実例もいちおうあげられている。たとえば、オレゴン健康科学大学の研究によれば、接種していたのに感染する「ブレークスルー感染」を経験した人が、ファイザー製ワクチンを2回接種した人より抗体が1000%(つまり10倍)も高いレベルになった。そこで、この例を発見した研究者は「スーパー免疫」と名づけたというのである。

また、先月(昨年12月)に南アフリカで発表された例では、オミクロン株に感染した人の体に生まれた抗体は、デルタ株に感染した場合につくられた抗体の4倍(ということは400%か)に達したというのだ。こうした例は興味深いものであり、もし、1000%とか400%とかの数値が、ほぼ常にまちがいなく見られているなら、たしかに「スーパー免疫よこんにちは」ということになるだろう。

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wsj.comより:集団免疫の次に来る救世主は何か


しかし、このオピニオン記事の最後のところに「ことわりがき」が添えてあって、「高齢者は弱いT細胞の反応や記憶しか生み出せない。彼らは追加接種を毎年行うことになるだろう。オミクロン株は、コロナウイルスをエンデミック(季節性の感染症)にすることによって、終わりを迎えるのである」という。

これはすでに有力説になっていることであり、別にスーパー免疫が生まれるからでない(「新型コロナの第6波に備える(6)いかにしてコロナ禍は終わるのか」を参照)。「集団免疫」はすでにまともな研究者なら「さようなら」しているが、一般の人間が「スーパー免疫」(まだ研究者たちの共同用語にすらなっていない)に「こんにちは」をするわけにはいかない。

いまの時点での注目すべき事態は、むしろ、イスラエルで明らかになった4回目の接種があまり効果がないらしいというニュースだろう。日本で早かったのはロイターで1月17日には「新型コロナウイルスワクチンの4回目の接種により3回目の接種と比べて抗体量が一段と増加するが、オミクロン変異種を防ぐ効果は十分でない可能性があることが、イスラエルの予備研究で分かった」と報じている。

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もちろん、効果はあるが感染を完全に予防できないということで、たとえば1月19日付のイスラエル・タイムズ紙は「イスラエルの研究は第4回目の接種はバッドニュースだった しかし言われているほど悪くはない」というタイトルで詳細を伝えている。研究に参加していないある研究者は、次のように述べている。

「第4回目の接種データがともかく必要です(つまり、まだ正式のデータは発表されいないのだ)。私たち研究者が高齢者や既往症を持つ人についてのデータを見て、少なくともそこそこの成果が上がっていれば、それはとてもよいことですよ」。

【追記】1月24日午前中のNHKニュースでは、調査の報告がなされたとの報道があった。それによると、「限定的」という以前の報道とは異なり、重症化を防ぐ効果は3倍、感染を防ぐ効果は2倍と発表されたとのことである。(耳で聞いただけなので、数詳しくは後程確認します)。まだ、欧米でのニュースにはなっていないようなので、さらに追跡してから付記したい。

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