オミクロン株の感染力はすさまじい。12月22日現在ですでに106カ国に拡散している。この新しい変異株についてはさまざまな議論があるが、ようやくいくつかの研究がその感染の諸傾向をぼんやりとだが提示しつつある。ここでは海外の2つの報道機関が取り上げた、4つの研究から推測されるオミクロン株感染の様態を紹介しておこう。
まず、これまでもコロナ禍の報道と統計的研究にスペースを割いてきた英経済誌ジ・エコノミスト12月22日号の「新しい研究によれば、オミクロンはデルタより症状は軽そうだ」から見てみよう。同記事は3つの研究から現時点での見通しを述べている。
同誌が挙げている研究の第1番目は、インペリアル・カレッジ・ロンドンのもので12月22日に発表された。この「コロナ研究の中心地」のひとつでの研究によれば、英国のデータからすると、デルタ株に比べて病院での治療が必要となる割合が15~20%ほど低く、また、入院する割合は40%も低いという。
この研究が示唆していることは、これまでのワクチン接種や感染が「免疫の層」を作っているのではないかということである。ワクチン接種あるいは感染による免疫を保有していない人の場合をみると、デルタ株に比べて入院せずにすむ割合は11%であり、感染していた場合には、入院しなくてすむ割合が55~70%と高いことから、免疫の層がかかわっているとする説を、支持しているように思われる。
同誌が挙げている第2番目の研究は、オミクロン株の感染が急激に進んだスコットランドでのもので、同じように免疫の層について示唆している部分が注目されている。研究者たちは、もし今回の新しい変異種がデルタ株と同じ毒性を持つと仮定すると、オミクロン株は病院での死亡率が、予想される事態よりあまりにも少ないことになると指摘している。つまり、そこにはオミクロン株以前に形成された、免疫の層が働いているというわけだ。
第3番目の研究は、すでに何度も報道されている「発見地」である南アフリカのもので、研究者たちはオミクロン株に感染した場合に、入院しないですむ割合は、デルタ株を中心とするそれまでの感染と比べて80%も低下している(つまり、20%しかいない:下のグラフを参照のこと)。ただし、この数値は高齢である場合とか、持病を持っている場合を考慮してのものであることを、念頭に置くべきだろう述べている。
さらにジ・エコノミストは、これらの研究が示唆しているのは、オミクロン株は重症化の度合いは低いが、ただし、感染力がきわめて高いことには警戒が必要だと指摘している。というのも、たとえ入院する割合が低いとしても、その割合を帳消しにするほど感染者が増えれば、死者も増えてしまうからだ。このことは、オミクロン株の感染が爆発的に拡大している、アメリカの大統領医療顧問ファウチも12月23日に国民に向かって強調している。
さて、もうひとつの研究(第4番目)はフィナンシャル・タイムズ12月22日付の「諸研究は、オミクロン株の感染は病院での治療が必要になる割合が低いと述べている」からのものだ。ジ・エコノミスト同様にインペリアル・カレッジの研究や南アフリカでの研究も取り上げているが、興味深いのはデンマークでの研究を、グラフ付きで報道していることだ。ここではグラフを中心に紹介しておこう。
まず、これは南アフリカのケースの研究だが、オミクロン株の場合には入院が必要になるのは、これまでのコロナウイルス感染に比べて20%という低い数値であり(つまり、80%も低下している)、また、入院した患者が重症化するケースもこれまでの感染に比べて70%にとどまっているという(上のグラフ)。こうした傾向は、これまでも報道されて「オミクロン株は重症化しない」との説を生み出したが、すべてのケースが重症化しないわけではないことも、確認しておく必要があるだろう。
次に、デンマークの研究からのグラフだが、ここで顕著なのは他のコロナウイルスに比べて若い層(30歳未満)が多いことだ(上のグラフ)。この場合も注意が必要だ。デンマークの公共保健局のヘンリク・ウルムは「たしかに若い層でワクチン接種をした人たちの感染が多いのですが、この結果を現実の医療に適応するさいには、(一般的にいって)オミクロン株はマイルドな症状だということの証拠にはなっていないと見ています」と警告している。なぜなら、若い層が多いということは、それだけ重症化しない可能性をもつ人が多いことを意味し、ぞれが全体の傾向ではないかもしれないからだ。
もうひとつのデンマークにおけるデータからつくられたグラフ(上のグラフ)は、オミクロン株とこれまでのウイルスとの比較だけでなく、ワクチン接種をしていた場合としていなかった場合の違いが分かる。ここでも注意すべきは、オミクロン株に感染したと分かった時点で、それまでワクチン接種をしていなくとも、すでに何らかの形で感染して免疫をもっていたのに感染した場合もあることだ(ああ、ややこしい)。オミクロン株はすでにある免疫を回避して感染する傾向が強いことは予想されてきた。つまり、こうしたさまざまな条件が複雑に合わさって、今の数値になっているということである。
コペンハーゲン最大の病院に勤務する免疫学者ピーター・ガレッドは述べている。「オミクロン株はマイルドなのかそうでないのかという問題は、これからのデンマークにおける規制強化に関係ありません。デンマーク政府は症状が重いかどうかにかかわらず、感染確率があまりに急激に伸びていることを問題視しているのです」。
オミクロン株を研究している研究者たちは、現時点でのデータはまだまだ不十分だと考えているようだ。ある研究者は、いちおうの予測を述べたあとに「さらにあと2、3週間たってみないと、より確度のある予想はつかない」と付け加えている。繰り返しになるが、感染数が激増すれば医療機関が逼迫して、それが重症化につながる危険がある。その意味ではけっしてマイルドではない。いま大切なのは感染症医療の原点に戻って、感染数が多い場合の医療体制の見直しを進めておくことだろう。