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東谷暁による「事件」に対する解釈論

目で見る中国のコロナ感染爆発;上海は例外か、それとも中国全土の近未来か

上海のオミクロン株感染はさらに拡大している。4月8日発表の中国全土での新規感染は2万5701人だが、そのなかの2万3600人が上海での数値だ。このデータから思い浮かぶのは上海のオミクロン株感染は中国のなかの例外的現象なのか、それともこれからさらに感染が他の地域でも広がる同国の近未来なのかという疑問である。

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すでに多くのメディアが、上海での感染爆発と、同市での当局による必死のオミクロン囲い込みを報じている。たとえば、英経済誌ジ・エコノミスト4月9日号は「上海でのコロナウイルスを封じ込める努力は、あたかも軍隊の作戦(キャンペーン)のような性格を見せている」と述べている。圧倒的な人員の投入と、徹底した情宣運動が、まるで戦争のように見えるというわけだ。

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The Economistより:中国のコロナ規制は武漢以来の厳しさに

同誌が掲げている規制の度合いグラフを見れば、たしかに事態は急変して戦いは大幅に拡大している。ただし、このグラフで気をつけねばならないのは、数値は絶対数や割合ではなく、あくまで最大限を100としたときの度合いであって、この数値がそのまま世界的に見たコロナ感染の悲惨さを示しているわけではないということだ。

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ft.comより:香港なみの感染爆発に近づいている

もちろん、すでに香港で体験したコロナの感染爆発が、上海でも起こっているとすれば、これから中国全土でも起こるとの憂慮が生まれるのは当然だろう。フィナンシャルタイムズ紙4月8日付が掲載した上海と香港の感染速度比較のグラフは、この憂慮が現実のものとなる危険性を示唆している。同紙は「当局は上海市民に『噂と事実とを判別するように』とのメッセージを送っている」が、このグラフは事実と考えてよい。

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ft,comより:いまのところ上海がずぬけて感染数が大きい

では、中国全土でのコロナ感染はどのように広がっているのだろうか。冒頭で述べたように、全体で見たとき上海に著しく偏っている。同じことがフィナンシャルタイムズ紙4月4日付の「上海のロックダウンは習近平のゼロ・コロナ政策を試している」のグラフを見ても分かる。

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ft.comより:上海以外の地域ではバラバラで抑えられている

ざっといって、多いのは上海と吉林省くらいで、あとはバラバラに小規模の感染が散在しているという印象を受ける。とはいえ、上海ですら数週間前には「モグラ叩き作戦」でいけると思っていた(前出ジ・エコノミスト4月9日号)。それが3月末には相手がモグラではなく、巨大になりつつあるオミクロン軍団だと気が付いたわけである。

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ft.comより:香港のワクチン接種率は異常に少なかった

これからの中国におけるオミクロン株の感染拡大を占うには、2つの要素が大きいと思われる、まず、中国はゼロ・コロナ政策を続けるなかでモグラ叩き作戦に自信をもってしまったために真剣にワクチン作戦を断行してこなかった。世界がmRNAワクチンに移行するなかでも、自国製の効力の低いワクチンで行けると思ってきた。それがいま仇になっている。

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The Economistより:80歳以上の接種率が低いことが気になる

もうひとつが、同じことだが、ワクチン接種を高齢者に実施することに情熱をもってこなかった。もちろん、どこかのマッチョ評論家たちのように「ワクチンなんかあってもなくても同じ」とは思わなかったにしても、ジ・エコノミスト4月2日号が「なぜ中国は高齢者がワクチン接種を受けていないのか」に明らかなように、国民のなかの高齢者に見られる「呑気さ」とワクチンに対する「恐怖」を克服するキャンペーンに踏み込まなかった。

前にも書いたことだが、いまのところ中国のコロナ感染は人口密度の高い大都市に集中しており、それ以外の地域ではバラバラに散発的なものに見える。もちろん、それはこれまでの当局発表のデータが正しいとしてのことだが、感染が拡散していることは、各個撃破のモグラ叩きにとっては、有利だということはいえる。

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上海当局は急遽、病床を5万床増やすことにしたという(共同通信より)


これから中国当局は、どのようなキャンペーンで対処していくのかを予測するのは難しいが、習近平中国共産党総書記に3回目の選出をされる今秋までは、タテマエとして「モグラ叩き作戦」は成功したことにするだろう。それはたとえ経済的に大打撃を受けることがあってもそうするだろう。

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ft.comより:交通量の減り具合から経済の落ち込みを見る


上のグラフは、検索サイトの「バイドゥ」で見ることができる地域別の「交通量の減少度」であり、経済への衝撃を示唆する。大都市の落ち込みが大きく、もはや今年の経済目標は達成できないといわれる。しかし、現実問題としてはワクチン接種のキャンペーンを本気でやること、そのさいには自国製か輸入品かはともかくmRNA型ワクチンに切り替えていくことが重要だと思われる。前出のジ・エコノミスト4月9日号の記事は次のように締めくくっている。「上海の努力は軍隊の作戦のように見える。とはいえ、戦争の拡大は避けなければならない」。