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東谷暁による「事件」に対する解釈論

中国のコロナとの戦線は上海から北京へ;2200万人の首都を守り切れるか

中国のコロナとの戦いは、いよいよ首都北京が主戦場となりつつある。2200万人のこの都市で、いま徹底したコロナ検査が行われていることは、報道で知っている人も多いだろう。では、実際の感染者の数はどれくらいなのか。死者はいるのか。そして、これからの見通しはどうなのか。


英経済紙フィナンシャル・タイムズ4月28日号は「中国の移動を禁止するコロナ対策は経済での痛みを増加させる」を掲載し、北京での感染者グラフを含む、中国各地での感染状況を推測できるデータを添付している。サブタイトルが「最悪の被害をうけた都市の感染数は減っているが、製造業は部品調達に苦闘している」。この記事のタイトルからも分かるように、いま中国の政府および経済界が直面している課題は、いかに上海や深圳での惨状を、北京を初めとする他の地域で繰り返さないかになっている。

以下のグラフはすべてft.comより


記事に掲載されたグラフを見て気がつくことは、上海、黒竜江省吉林省など急激に感染が広がった地域はようやく小康状態に入りつつある。しかし、そのために政府が行った都市間の移動制限が、製造業に与えた影響は大きく、感染数が減っていっても、サプライチェーンの復活は時間がかかるというのが、この記事の指摘の中心になっている。

その影響は武漢のときよりも大きくなるのではないかと、野村証券エコノミストであるリー・タンは指摘し、また市場調査会社ロディウムのローガン・ライトは、上海に接している江蘇省浙江省は、2021年に比べて交通量がそれぞれ70%、50%に低下と、きわめて大きな影響を受けたと指摘している。

さらに、ロジスティクス調査会社のフォーカイツは、上海港での積荷の遅延は平均8.9日に達しており、上海がロックダウンに突入する直前の3月12日に比べて162%も上昇しているという。こうした中国に見られるサプライチェーンの停滞が、いまの世界的なインフレ傾向を加速しているというわけである。


上海ではいまも、アップル、ヒューレット・パッカード、デルといったハイテク企業がサプライチェーンの寸断のために、製造がはなはだしく停滞しており、日経アジアの分析によれば、たとえばアップルへ部品を納入してきたトップ200社は、施設を上海あるいはその周辺にもっているので、影響はきわめて大きいという。


さて、ようやく北京の話になるのだが、2200万人のこの巨大都市が、いま本当にどういう状態にあるかを知るのは、実は、かなり難しい。同紙が述べているのは「オミクロンの感染拡大の初めのころに最悪の影響を受けた都市の感染が横ばい、あるいは低下に向かっているいっぽう、北京や山東省を含む4つの行政区域では感染拡大にいまも赤信号がともっている」ということくらいである。

ft.comより:大規模なPCR検査が進む北京市


首都北京は、4月28日の検査によって新たに50人の感染者が発見されたと発表しているが(その前日27日は、ジ・エコノミスト誌4月27日号によれば150人)、これは前日に当局が全市的な2000万人規模の検査を断行すると発表したことによって始まった、かなり強力な行政的判断によるものだ。こうした数値をそのまま信じる海外の中国ウォッチャーはいないだろう。しかし、こうした検査を始めるのは、依然として上海のようにロックダウンをしても長期化する、予想のつかない感染爆発を引き起こしたくないという恐怖によるものと思われる。(4月29日からは小中高校・幼稚園は閉鎖された)。

「北京当局はなんとか上海型の長期的ロックダウンは回避したいと願っており、製造業が集中している深圳で3月に行った、地域のコミュニティ的な関係を断ち切るやり方で遂行しようとしている」。しかし、いまのところ、グラフを見る限り、まだ感染拡大は始まったばかりのようにも見え、これがどちらに転ぶかは不明である。少なくとも、これまでの上海での情報公開のあり方を考えるなら、公表されていないことが多いと見るしかない。


すでにこのブログでも紹介したことだが、上海においては感染者は「症状のある感染者」と「症状のない感染者」に分けられ、全体で見ると9割が症状のない感染者だと報じられてきた。ところが、内情を知る専門家によれば、このうち症状のない感染者は隔離はされても十分な治療を受けられず、また、発表された症状のある感染者の数が、全体の数は上昇しているのに、横ばいもしくは低下の傾向を見せているというのである。

 

たしか前出のジ・エコノミストだったと思うが、さすがに中国当局もロックダウンだけでなく、高齢者のワクチン接種を拡大する方針に転じていると伝えている。これまでは高齢者の接種が不思議なほど少なく、当局も「うながす程度」の強制しか行って来なかった。こうした、脱ゼロ・コロナ型の措置がもっと大々的に行われていけば、上海と同じ轍は踏まずに済むかもしれない。

さて、フィナンシャル・タイムズ紙の同記事は、最後は希望を持たせるような事例で締めくくっている。ゴールドマン・サックスの調査によれば、中国のGDPを生み出している地域の15%が全体的あるいは部分的なロックダウンの状態にある。ただし、これは3月末の数字である35%に比べれば、かなり改善されているというわけである。しかし、これも、どのような数字の取り方をしているかによるだろう。正確に人口で割合を計算しているのか、たんに都市数や地域数で計算しているのかで、その「希望」の度合いは大きく異なるだろう。