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東谷暁による「事件」に対する解釈論

イラン戦争の再停戦は「霧の中」だ;交渉以前の条件提示ですでに挫折している

イラン停戦の期限である4月21日が迫るなか、再協議が始まるのかも分からない。そもそもこの「停戦」ですら正確にいって守られているとはいえない。「現状では、戦争は交渉によって解決されるより、エスカレートに向かう可能性のほうが高い」と述べているのは英経済紙フィナンシャルタイムズ軍事コラムニストのギデオン・ラックマンだ。おそらく多くの専門家が同じ意見だろう。


ラックマンは、これまで戦争は「戦場の霧」によって翻弄されてきたが、いまや「平和の霧」によってさらに混乱するようになってしまったと嘆いている。いうまでもなく「戦場の霧」とはクラウゼヴィッツが『戦争論』のなかで用いたフレーズに基づいている。「戦場は不確実性の領域にあり、行動の4分の3は、多かれ少なかれ不確実な霧に包まれている」。戦場というものは、何がきっかけで動くのか分かりにくいというのだが、それは交渉現場だって同じことだといいたいのだろう。いや、平和交渉こそが何よりも不確実なのである。


「今週初め、アメリカは新たな和平交渉が始まると発表したが、イラン側はこれを否定した。現在の停戦は水曜日(22日)以降も続くのだろうか? イランは核濃縮活動の全面停止を申し出たのだろうか? ホルムズ海峡は閉鎖されたままなのか? それとも再開されることになるのだろうか?」。ラックマンはこれらがすべて霧の向こう側にあって、何がこれらを保証するのか、逆に、ぶち壊しにしてしまうのか、分からないというのである。

「イランは自分たちがさらなる空爆に対してきわめて脆弱になっていることを認識している。アメリカは海峡封鎖の継続が世界経済に及ぼす脅威をちゃんと分かっている。しかし、残念なことには、両国は互いに深い不信感を抱いており、イランの核濃縮、ホルムズ海上の航行の自由、経済制裁緩和、レバノンとイスラエルの将来、イランのミサイル計画、そしてヒズボラに代表される地域代理勢力への支援といった重要な問題について、依然として大きな隔たりがある」


ラックマンにいわせれば、こうした問題の結び目をほぐして、解決に向かわせるには、ふつうは数か月、困難なものは数年を見ておくのが順当だという。たとえばイラン核合意などは2015年に締結されたが、それには3年の月日を擁したが、2018年にはいとも簡単にトランプ大統領によって破棄されてしまった。世界経済はいやまイラン戦争について交渉の成果が出るまで数か月も待つことはできないとラックマンは見ている。しかし――。

「いま問われているのは、高まる経済的圧力によって両国が外交的な超高速で合意にいたらざるを得なくなるのか、それともイランとアメリカの立場の隔たりを埋めることは難しく、交渉決裂と紛争の激化につながるかという点である。どちらの結果もありうると思うが、わたしは最悪の事態を予想している。もし、わたしの予想が正しいとすれば、中東と世界経済はこの危機のピークをまだ迎えていないことになる」

ちょっと持って回った言い方をしているので分かりにくいが、要するにまだまだ危機は続いて、何らかの解決に向かわざるをえなくなるのは、もっともっと事態がひどくなってからではないかということである。まずトランプ大統領とヴァンス副大統領がともに楽観的なことが大きい。「先日のイランとの交渉に失敗してヴァンスが帰国したさい、彼は楽観的にも数日内に屈服すると漏らしていた。トランプは一貫して、アメリカの能力を過大評価し、イランの抵抗力を過小評価してきた。だからいま、このパターンが繰り返されるのだ」。


ラックマンはアメリカがイランの船舶を拿捕してしまったことも、新たな戦闘への連鎖を引き起こすことになるだろうと見ている。アメリカの「イランの発電所と橋のすべて」を破壊するという脅迫も、エスカレートして実行に移すことになれば、イランは屈服するよりは反発する可能性のほうが高いと見ている。「これらの動きはいずれも、世界的なエネルギー危機を著しく悪化させるだろう。現状のままでもすでにイランは、ホルムズ海峡が世界経済に深刻な影響を与えうることを認識しているのだ」。

最後の部分をラックマンは、さらに状況が混乱してしまい、解決がもっと難しくなる事態を想定して締めくくっている。たとえば、イラン側がホルムズ海峡で何らかの通行料制度を導入してしまったときには、かなりの圧力があっても戦争継続の可能性がさらに高くなり、最も厄介な事態となるという。また、イラン内部は今回の海峡開放をめぐってあきらかに分裂の兆候をみせているが、どうやら強硬派が影響力を増しているらしいので、これも停戦にとっては難しい障害となる。


さらに、アメリカが軍事的に強硬策をとることが多くなって久しいが、トランプが本当に軍事的選択の限界を知っているかは、誰にも(本人にも)わからないのである。そして、イスラエルは軍事的に強硬策を取りたがっているので、ネタニヤフが交渉の進展が気に入らなければ、さらなる危機を引きおこすことは十分にあると、ラックマンは付け加えている。「金融市場は先週、上昇基調で取引を終えた。危機は最悪の事態を脱したという確信が市場を支配しているようだが、そうした見方はあまりに楽観的すぎると思える」。